EP07【究極魔法と異文化交流】

 絶好の奴隷デビューにふさわしい、良い天気だ!


 私は盗賊団の親分と下っ端1人と共に、馬車にてカイヌ帝国側国境付近の街に向かっていた。


 馬車は以前、大人しく積荷を受け渡さなかった新米行商人から奪い取った、もとい丁重に譲っていただいた物らしい。


 どうでも良い話である。


 だだ、前世の自動車を知っている私としてはサスペンションのまともに付いていない馬車の振動は、中々に耐え難い。


 10才の若さで痔になったらどう責任を取ってくれるのだ!?


 奴隷としての価値が下がるぞ!


 こうなる事が分かっていれば、空中浮遊の魔法を開発しておけば良かった。


 ちなみに私は既存の魔法だけでは安心して夢のペットライフに突入できないと思い、前世の漫画、アニメ、ドラマ、ゲームなどの知識を元に複数オリジナル魔法を開発済みである。


 その中で実現可能だったものと、まだ出来ていないものがある。


 出来ているのは身体に触れているものに魔力を流し込み、動かしたり変形させたり、破壊したりする魔法だ。


 他には体外へ魔力を放出して実体化させる魔法。


 今のところ刃渡り10cmの切れ味抜群の両刃刀を魔力で精製できる。


 どういう訳か、10cmを超えると放出した魔力は霧散してしまうので、いくら練習してもカ○ハメ派や波○拳を打つ事は出来なかった。


 また幻影魔法も使える。


 これは夢の奴隷ライフになくてはならない、必須スキルだ。


 何しろイメージ次第で外見を変え放題だし、手足に結ばれた縄を投影して『無力ですよ』アピールも可能。


 出てもいない涙の投影も可能だから必殺『女の涙は無敵ですよ』も使えるのだ!


 後は外敵の接近にいち早く気がつく為に、魔力感知も身に付けた。


 刃物の様に実体化させる訳でわないので、薄く引き伸ばした魔力を全周囲1kmに渡って展開出来る。


 この世界の遠距離攻撃手段は弓矢の他に、魔力で勢いを付けて放たれた石礫いしつぶてや氷や水、油を染み込ませた麻の球に火を放け飛ばす物がメインだ。


 それぞれ100m程しか飛ばない。


 ちなみに私は同じ物を200m飛ばせた。


 ただしノーコンで、50m先の人型の的に縦横5〜15mぐらいずれて着弾する。


 これはセンスの問題で、プロの魔導士は50mぐらいなら8割ほど当たるらしい。


 私は3mまで近づかなければ8割当てられない。


 それでも感知スキルは1km分あれば充分なのだ。


 先制攻撃は難しいが、迎撃はほぼ問題ない。


 体表面に『高出力バリア』を展開すれば済む話である。


 ここまで考えて、フッとかなり簡単な事を思いついた。


 お尻周りに魔力のクッションを精製すれば良いんじゃね?


 ここで新たに『クッション精製』という偉大な魔法の開発に成功したのだった。



 私が苦心の末、開発した究極魔法『クッション精製』によって快適に馬車に揺られ、大体2時間が経過していた。


 親分からもうすぐカイヌ帝国、国境付近の街に到着する事を伝えられた。


 「後、面倒だから自分で両手に縄かけといてくれ」


 おっと親分!


 私の事、だいぶ分かってきたようだね。


 この順応性の高さは社会人として必須スキルだと言える。


 今後も立派な社会人として、盗賊団の仕事頑張ってくれたまえ。


 街の入り口の門には関所が設けられていた。


 盗賊団がどうやって入るのか気になっていたが、親分が堂々と『奴隷の搬入だ』と門番に告げた。


 門番は手を縄で拘束された(様に見える)私を一目見て、すぐに通してくれた。


 ここ国境の街だよね?


 良いのか入国審査こんなザルで?


 許可証とか身分証とかチェックされないのか?


 親分と下っ端はどこからどう見ても盗賊団ファッションだぞ!?


 どうやら盗賊というものは、カイヌ帝国である程度市民権を得ている様子で、道行く人々も特に気にしている素振りはない。


 時々、知り合いらしい住人と笑顔で挨拶し合っている様子もある。


 下っ端に聴いたところ、カイヌ帝国で盗賊とは1つの職業として認知されていて、仕入れ(襲撃)は国外でやって、国内で納品や換金をして生計を立てているらしい。


 意外と盗賊団とはグローバル企業だという事が分かった。


 てか盗賊団、冗談抜きで社会人だったのかよ!?


 前世の日本出身である私は、立て続けのカルチャーショックに頭がクラクラしつつあった。


 度重なるカルチャーショックを乗り越えて、やってまいりました奴隷商!


 ここで私は値段をつけられ、めでたく売られて行く事になる。


 夢の奴隷ペットライフに向けての登竜門というところだ。


 よし最終確認だ!


 幻影魔法により手の縄を演出、隆起した筋肉の隠蔽、バストアッ、、、、、、


 準備万端!

 オールクリア!

 何も問題なし!


 さぁ盗賊団よ、私をとっとと売却するが良い!


 おいこら、白けた目で私を見るな!


 気を取り直して、親分と奴隷商人が私の値段を交渉している。


 奴隷の相場は知らないが、たぶん満足いく値段がついたのだろう。


 親分ニンマリ顔だ。


 売却金はこことは別窓口にて受け取るらしいから、いくらで売れたのかは私には分からない。


 数日間お世話になった盗賊団とはここでお別れだ。


 彼らの今後の活躍を陰ながら祈っておこう。


 彼らの貴重な戦力の半分を切り刻んだ、私の祈りに、どの程度ご利益があるかは疑問が残るがね。


 「じゃあな嬢ちゃん、強く生き、、、ほどほどにな」


 何だよ今の間は、普通に『強く生きなよ』で締めてくれよ!


 か弱い美少女相手に、厳しい世間の荒波に耐えられる様に願掛けしとけよ!


 そしてその白けた目で見るのやめい!


 親分の微妙な挨拶のせいで、これまた微妙な空気のまま盗賊団とはお別れとなった。


 だがしかし、これで私の身柄は晴れて奴隷商人の手に委ねられた。


 奴隷商人は私より頭1つ分ほど背が低く、だるまの様に丸っこい体型、右目に片眼鏡をして、不敵な笑みを浮かべている。


 もし子供が見たらトラウマになりそうな怖さのある中年男性だった。


 あぁ、そういえば私も子供だったか。


 「さっそくだがカイヌ帝国で奴隷はこの首輪を着ける義務がある」


 奴隷商人は何やら黒い金属製の首輪を私に見せてきた。


 それなりに重そうではあるが、私なら特に問題ないだろう。


 重たい首輪も想定内だ。


 首輪の重さを物ともしない私を見れば、奴隷商人はビビるかな?


 その様子を見るのもまた一興だ。


 背後では筋肉ムキムキのオッサンが私の抵抗を想定してスタンバイしている。


 だが私は体育座り状態で全く抵抗しない為、仕事はお預け状態だった。


 そして奴隷商人を驚かせるべく、首輪を付けられた途端に私は速攻で立ち上がって見せた。


 「何じゃ〜、その身体は〜!?」


 ん!?


 驚いているのには間違いないが、奴隷商人からは思ってたのと少しだけ違う反応が返ってきた。


 か弱い美少女が重たい首輪を装着した途端に立ち上がったのだぞ?


 それに対する驚きのコメントとしては少しズレていないかい?


 「嬢ちゃん、、、、、ナイスバルク!」


 私が違和感を感じていたら、背後の筋肉オッサンより、ボディービルダーに対する賞賛の言葉を投げかけられた。


 激しく嫌な予感がする。


 私は恐る恐る自分の身体を見下ろし、状況を確認する。


 ムキムキだ。


 鍛え上げられた無敵の筋肉が、私のスマートで滑らかだったお肌を覆っている。


 余りにも直視できない現実に耐えられず、私の意識は途絶えた。


 図らずも、私は3年振りに深い睡眠を味わう事になったのだった。

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