EP05【悪魔の動揺】

 禁書とは国家が保管している、決して人目に触れてはならない書物の事である。


 中には失われた魔法の叡智えいちを古代文字で記されている物や、他国に知られてはならない国家機密の書類などがある。


 今回とある少女が持ち出した禁書の中には、悪魔を異世界より召喚、使役する為の最も危険な書物も紛れていた。


 その書物は一定数魔力を流し込み、大量の人間の死骸と魂を供物にする事で悪魔を呼び出し、使役する事が可能になる、特にやばい品物であった。


 そして偶然にも少女は悪魔の書物を足元に落とし、感情の昂まりにより魔力が流し込まれていた。


 悪魔の書物に魔力が満ち溢れたところへ、大量の人間の死骸と魂が周囲に集まっていた。


 少女が刈り取った盗賊団の命15人、盗賊団が屋敷で刈り取った命25人。


 それに加えて、少女が過去に戦場で刈り取った兵士の命も合わせると、約400人を超える分の魂が集まっていた。


 40人分の死骸と約400人分の魂は、1体の悪魔を生涯使役するには十分すぎる供物となった。


 「おぉ〜! この大量の供物に、魔王様を彷彿とさせる濃厚な魔力! 新たなご主人様は大当たりの逸材のようですね!」


 召喚された悪魔は大いに昂っていた。


 悪魔の本能の為か、与えられた供物に見合うだけの働きをしたくて堪らないのだ。


 召喚されたは良いが、今はご主人様がお取り込み中のようだ。


 使い魔としての自己紹介は、ご主人様がお1人になって時間が空いている時に行わせていただこう。


 それまではご主人様の陰に控えさせていただく事にする。


 一流の使い魔は、決してご主人様の行動や発言、思考のお邪魔をしてはならない。


 また、ご主人様の都合や立場、嗜好パターンを把握して、言われなくても適切なご奉仕を率先してするのが役目なのだ。


 おやおや?


 主人様の背後から下賎げせんな人間が棍棒を持って殴りかかろうとしている。


 さっそくお役に立てそうな予感が、、、あれ?


 ご主人様、魔力を感知して背後の人間の存在に気が付いているのに、まったく反応しようとしていない?


 そのまま棍棒が振り下ろされた。


 ご主人様は分かっていて、敢えてそのままにしている様に見える。


 本来ご主人様に害をもたらす者は、使い魔が始末するべきだ。


 しかし、この場合はご主人様に何か思惑があるようで、使い魔の私が勝手に手を出す訳にはいかない。


 棍棒がご主人様の後頭部に接する瞬間、ご主人様が魔力を棍棒に流し込んだ。


 棍棒は流れ込んできた魔力量に耐えられず、一瞬で微粒子レベルに粉砕された。


 ご主人様の周囲の人間はもちろん、使い魔の私ですら目を見開き驚愕していた。


 ありえない。


 ただの人間であるご主人様が保有出来る魔力は、たかが知れている。


 そのはずが、規格外の魔力量に緻密ちみつな魔力操作。


 脆弱な人間のはずのご主人様が、まるで私より遥か格上のデーモンロードの様だ。


 対して私は2段階格下のグレーターデーモンだ。


 果たして私はこの先、このご主人様の元、お役に立つ事ができるのだろうか?


 先程まで昂っていたテンションが、今では急激に下落している。


 冷静に考えてみれば、ご主人様はただの人間の子供だ。


 悪魔である私を呼び出し、現世に受肉にする為の死骸と、活動エネルギーの為の魂を、必要量用意できている時点で異常な事だった。


 とりあえず気を取り直そう。


 時間はたっぷりある。


 ご主人様が天寿を全うするまでに、使いっ走りでも何でもして、与えられた供物の分は何としても働かなくてはならない。


 最悪、ご主人様が天寿を全うした後でも、そのご子息にお仕えしても構わないのだ。


 急がず慌てず落ち着いて、この小さなご主人様に憑いて行く事にしよう。


 この時私は軽く考えていたが、今後もご主人様から、ほぼ一方的に与え続けられる供物によって、返済困難な負債を増やしていく未来が待っている事に、まだ気が付いていなかった。




       あとがき

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 分かりにくいと思うので本作での悪魔の序列について記載しておきます。

 下から

・レッサーデーモン

・グレーターデーモン(今回登場の悪魔)

・アークデーモン

・デーモンロード(悪魔から見た楓の評価)

 この様になっております。


 他作品や宗教によって、呼び方や種類の量に違いはあると思いますが、あくまでも本作品内での序列となります。

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