EP03【自分磨きと襲撃】
私こと
前世ではどのように死んでしまったのか全く記憶にないが、もしかして死というのは大体こういう物なのかもしれない。
心残りとしては、残して来てしまった愛する両親の事だ。
まだ充分に親孝行できていなかった。
せめて私がご主人様を見つけて、幸せになれた姿を見せて、安心させてあげたかったな。
過ぎてしまった過去、というか前世の事は今更後悔しても仕方がない。
前世で果たせなかった野望を、今世こそ叶えてみせる。
今世で生を受けた世界は、前世と違って古風というか外国?
どことなく中世ヨーロッパを彷彿とさせる世界観だった。
私はオーシャン男爵家の次女として生まれたようだ。
我が家は中々の名のある武闘派で、先の戦では功績を上げて近々子爵への格上げも囁かれているらしい。
そして私の他に兄2人、姉1人が既にいた。
このまま何事も無ければ兄のどちらかが家の跡取りとなる。
次女である私は政略結婚で裕福な貴族家の元、ご主人様に飼ってもらえるステキなペットライフが待っている。
それでも、不安要素が無い訳では決して無い。
それは前世の父の教えによる、『ペットはご主人様を選ばない』という残酷な事実であった。
ステキなご主人様なら良い。
しかし、場合によっては性格破綻者で、まともな飼育環境を用意してもらえない可能性も十分考えられる。
そんな性格破綻者のご主人様の元で飼われる事になったら、私のペットライフは悲惨な末路を迎える事になってしまう。
私は考えた結果、ご主人様を逆に調教できるように、自分を心身共に鍛え上げる事に決めた。
『ペットは飼い主様の調教次第で幸せにも不幸にもなる』
前世の父の教えには、確かこうあった気がしたが、別にペットが飼い主様を調教してはいけないと聴いた覚えはない。
そこから私は今の家族の目に付かない時間の全てを、自分磨きに費やしていった。
全身の筋肉を鍛え上げ、理不尽な暴力に負けない身体を手に入れた。
全身ムキムキボディーになってから気がついたら事だが、よく考えたらこんな筋肉質な女を誰が
この筋肉は、何としても隠さなければならない!
そこで私はこの世界で、魔法が存在している事へ着目した。
魔法の種類は様々で火や水を利用した生活や攻撃に使える魔法もあれば、光の屈折を利用した幻惑の魔法も存在していた。
私は幻惑の魔法を常時展開して、隆起した筋肉質な肌を平らで滑らかなお肌に見せる事に成功した。
魔法の習得に伴い、本来睡眠でしか得られない成長ホルモンの分泌や、疲労物質の排除を強制的に行えるようにもした。
これにより人生の約1/3の時間を睡眠から自分磨きに費やす事に成功し、さらなる理想のペットライフの準備を進めて行った。
時は経ち、自分磨きを始めて3年。
私は10才になっていた。
いつのまにか周りから『才色兼備』とまで言われるぐらい、自分磨きは完成しつつあった。
後2〜3年もすれば予定通り政略結婚にて、晴れて理想のペットライフが実現するところまで来ていた。
そんな中、事件は起こった。
ある夜、私は日課の自分磨きの為、邸を抜け出していた。
私は王立図書館の禁書保管庫から勝手に拝借して来た本を、数冊抱えて邸に帰っているところだった。
何やら邸の方から夜闇を照らす明かりが見えた。
よく見ると邸が燃えていて、中庭には私の家族や使用人達が惨たらしく殺されて並べられていた。
その光景は凄まじく、私は抱えていた禁書を足元にぶちまけていた。
その音で近くにいた盗賊に即バレし、周りを取り囲まれた。
眼を見開き、ただ棒立ちになっている私に盗賊は不敵な笑みを浮かべながらジリジリ距離を詰めてくる。
「親分、コイツじゃないですかね〜? 特徴的な赤髪、赤目の整った容姿をしたガキは〜?」
「たぶん、そいつだなぁ〜、間違いない。屋敷内を隈なく探しても見つからない訳だ。まさかこんな夜遅くに出歩いているとな〜」
「知ってたらこんな騒ぎにはならずに済んだのに。不運な使用人達だぜ〜」
盗賊団はニマニマしながら私を囲んで、話をしている。
盗賊の親分の言う通り私は赤髪、赤目だ。
確か7才の時点ではまだ髪も眼も両親と同じ黒だったと記憶しているが、気がついたらこうなっていた。
結果として一目で私がこの家の次女である事が、盗賊団にバレたようだ。
そんな事を考えていたら、盗賊の下っ端Aが私の背後より近づいて来たのが分かった。
縄で私を拘束しようとしているようだが、そう易々と捕まるわけにはいかない。
私は瞬時に両手の指先に意識を集中させて、魔力の刃を形成した。
振り向きざまに私を拘束しようとしていた、盗賊の下っ端Aを切り刻む。
何が起こったのか理解していない様子の下っ端Aが、地面にバラバラになって崩れ落ちた。
その光景があまりに現実離れしていたのだろう。
私が次の獲物改め、下っ端Bの懐に飛び込んでいる事に、誰一人として気が付いていなかった。
下っ端BもAと同じように細切れにして、次々と下っ端C、Dを元々人だった肉の塊へと加工して行く。
この加工作業は、コッソリ父の戦に付いて行った時に、何度も経験していた。
その為、今では何の抵抗もなく、手慣れた流れ作業も同然だった。
私がコッソリ参加していた戦は、敵の犠牲者数の割に、功績を立てた味方の数が全然合っていなかった。
だが、そんな事は無意識に味方が奮戦した結果として軽く片付けてられていた。
圧倒的戦力差の局面も難なく覆す、父の采配能力は王より高く評価されていた。
父は『全軍突撃!』しか言ってないのにね。
我が家は相次ぐ戦勝の功績で、男爵から子爵、伯爵へと異例のスピードで出世を成し遂げていた。
そんな伯爵家となった我が邸が、まさか盗賊団風情に攻められたのだ。
あまつさえ、その邸内の当主を含め使用人も皆殺しにされるとは、誰も想像していなかった。
まぁ、今世の父は突撃バカだ。
普通に考えて私不在で、まともに応戦できるわけないか。
雇っている兵士も普通で、一般的な強さしかない。
同等数以上の盗賊団の奇襲を受ければ、この結果は当たり前だったね。
だが私は、絶対この盗賊団を許すわけには行かない。
何しろ、今世での私のライフプランである『政略結婚で夢のペットライフ』をぶち壊されたのだ!
仮に私だけが生き残り、跡を継いでしまえば、生涯『女伯爵家当主』の肩書きが付き纏う事になる。
私がやりたいのは決して飼い主の立場ではない!
ペットとして養われる立場なのだ!
この盗賊団の皆殺しは当然だ!
さらに、おそらく裏で糸を引いているであろう、我が伯爵家の没落を望んでいる敵対貴族を探し出して潰す!
私の恨みはそのぐらい深いのだ!
無我夢中で暴れていたら、20人はいたであろう盗賊団は残り5人になっていた。
もはや盗賊団の戦意は喪失しているが、まだ許さん!
しかしそこで盗賊団の『親分』と呼ばれていた奴の呟きが聞こえて来た。
「そんなバカな! 才色兼備の伯爵家次女を
その呟きを聴いた瞬間、私の怒りは一瞬で消えた。
下っ端P(16人目)の首を落とす直前でピタッと魔力刃を止め、尻餅を付いて下半身から液体を漏らしている親分に私は一瞬で詰め寄った。
「その話、詳しく!!」
「えっ!?」
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