EP02【決意表明!そして何故転生?】

 一世一代の決意表明をした幼少時代の覚悟は、あれから20年たった今となっても色褪せる事なく私こと東條 楓とうじょう かえでの中に残っている。


 残念ながら未だに私を飼ってくれる、ステキなご主人様とは出会えていない。


 もう既にアラサー女子になっている事もあり、私は最近焦り始めているところである。


 ペットショップでも、あまり成長してしまった犬猫たちは売れ残って、最終的には悲惨な末路が待っている。


 私も手遅れになって成長しすぎた犬猫たちみたいに、悲惨な末路が待っているのだろうか?


 そんな恐怖を感じつつ、懐かしの故郷を目指して今は電車に揺られている。


 私は年に2〜3回実家へ帰省し、優しい両親に会って甘えているのだ。


 その際、未だにご主人様を見つけられていない事をしょんぼりしながら報告するのが、とても心苦しい。


 何故かその報告を聴くたび、両親は心底泣いて喜んでいる。


 この反応はいつもの事ではあるが、何だか不思議である。


 普通なら娘がアラサーにもなったら、早くご主人様を見つけて幸せになってもらいたいと考えるものではないだろうか?


 おそらく、うちの両親は感性が普通とは異なっているのだろう。


 もしくは、よくある『娘は誰にもやらない』的な考えが両親ともにあるのかな?


 愛されているのはとてもありがたいが、流石にそろそろ精神的な子離れをしてほしいところでもある。


 実家に着いた後、色々と積もる話もあり、リビングのコタツに足を突っ込み両親と談笑をしつつ、私はのんびり過ごしていた。


 話題もある程度尽きてきので、私の今後の計画を両親に発表する事にした。


 それは今年中に私を飼ってくれるご主人様を捕まえる事!


 そのために、めぼしい独身男性をリストアップ済みである事!


 そして、私を飼うにあたり絶対断る事ができないように、その男性達の弱みを徹底的にリサーチ済みである事!


 仮に飼い主様が警察や弁護士に訴え出でも、ご近所の大物国会議員の弱みを握っている為、いざとなったら圧力をかけてもらえるので安心である事!


 以上が長年かけて私が築き上げてきた完璧な計画であり、愛する両親へ堂々と胸を張って発表した内容である!!


 私の計画を聴いた両親はあまりに感動したのか、3分ぐらい硬直していた状態だった。


 しばらくすると両親はお互い青い顔を見合わせて頷きあい、何やら行動を始めた。


 母は私にとても良い香りのする紅茶を淹れてくれた。


 紅茶の中では、何かが溶け出たような気泡があり、少し気になったが、たぶん気を利かせてくれて砂糖を先に入れてくれたのだろう。


 母は私が甘党なのを知っていて、何も言わずに味を調整してくれる優しい人だから大好きだ。


 父はキッチンから七輪を持ち出してきて、炭に火をつけている。


 たぶん餅や芋を焼いてくれるのだろう。


 どちらにしろ、私は大好物だ。


 私の大好物を何も言わずに用意してくれる父も大好きだ。


 ただ紅茶に餅や芋って合うのかな?


 それは分からないけど、私は母が淹れてくれた紅茶を飲みながら、父の作業を穏やかな気持ちで見ていた。


 数分後、なんだか周りがフワフワした感覚になり、眠くなり始めた。


 すると父が何やらリビングの窓の方へ、ガムテープを持って歩いて行くのが見えた。


 窓にヒビ割れでもあったのかな?


 私は気が付かなかったけど、父は細かい事に良く気がつく、まめな人だと感心してしまった。


 母は私の手を両手で握り締めて、何か泣きながら話している。


 「ごめんね、あなたをめるにはこうするしかなかったの。 本当にごめんなさいね」


 何を泣いているのだろう?


 既に夕方だし、今日はこのまま実家にまる気だったから泣く事ないのに、少し表現が大袈裟な母だ。


 すると父が母と私の肩を抱き寄せて、こちらも泣きながら話してくる。


 「1人ではかせない、俺たちも一緒に逝くから、寂しくないからな」


 いやいや、帰る時は一人で帰るから!


 両親揃って私と共に、一人暮らし中の都心部までくつもりかい!


 両親のボケに全力でツッコミたかったが、なぜか声を上手く出せなかった。


 それでも久しぶりの両親の温もりを感じつつ、コタツで眠りにつく。


 あぁ〜、幸せだ〜!


 私は改めて、世界一幸せ者なんだと思いながら夢の世界へ落ちていったのだった。


 〜〜〜〜〜〜〜


 その後の記憶は定かではないが、私はなぜか異世界に転生していた。


 はてさて、前世で死んだ記憶は全くないが、どういう事だろう?

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