ご主人様如きが奴隷に逆らうとは何事ですか? 〜理想のペットライフ目指して積極的、成り下がりストーリー!〜
猫舌ノほがらん
序章、まだ見ぬご主人様編
EP01【それぞれの選択肢】
僕は侯爵家の一人息子、ロイ・ハーネス。
僕の育ったカイヌ帝国は古くから奴隷を大いに活用して、発展を遂げてきた世界有数の軍事国家である。
そのため、貴族家の人間は奴隷を使いこなせて初めて一人前であると社会から認められる風習となっている。
僕も例に漏れず13才の誕生日に父上からの贈り物として、初めて専用の奴隷を与えられる事となった。
奴隷市場の檻の前にて、初めて自分自身で奴隷を選ぶのは13才の成人になる通過儀礼だ。
法律により1度手に入れた奴隷は基本的に手放す事は許されず、奴隷のしでかした失態は全てその主人が責任を負う事ととなっている。
なので奴隷選びはとても慎重にならざる負えない。
たくましすぎる奴隷を飼うと、隙を見て飼い主を絞め殺したりする可能性がある。
また虚弱体質な奴隷を飼うと、役に立たずにすぐ死んでしまう。
僕自身で制御ができて、なおかつしっかり働いて役に立ってもらえる奴隷。
必然的に腕力が低い女奴隷が最初に選ばれる事が多く、僕もやはりそうするべきなのだろう。
僕は父上の付き添いの元、女奴隷が複数並べられている檻の前でじっくり品定めをしていた。
中には筋肉ムキムキの男と見間違えるような女や、骨と皮しかなくて今にも息絶えそうな女、鋭い目つきで睨めつけて今にも噛みついてきそうな女。
様々な女奴隷がこちらを見つめてくる。
この時点で僕はかなり気持ちが萎えそうになっていたが、その中で他の女奴隷達から少しだけ離れた位置に、比較的健康そうな女奴隷がいるのに気がついた。
その女奴隷は僕より頭1つ分身長が低く、腕回りや足回りの筋肉もある程度あるが、いざというときは僕でも組み伏せられそうな印象を受けた。
肩まで伸びている赤みがかった髪の毛、瞳の色も同じ赤色、肌はうっすら日焼けした小麦色。
カイヌ帝国の人間とは明らかに人種が違う様子から、おそらく征服して植民地化したところから連れて来られた者だろう。
僕は何となくその女奴隷を指さし、奴隷商人に『この女をもらいたい』と伝えた。
選ばれた女奴隷が、首輪につながれた鎖を引かれて僕の前まで連れて来られた。
「こちらの坊ちゃんが、お前の新しいご主人様だ」
奴隷商人は女奴隷に
短い説明を受けた女奴隷がまっすぐ僕を見てくる。
「ご主人、、、様、、、?」
それまで真顔だった女奴隷が奴隷商人の言葉を聞き、少しの間を置いて口端を跳ね上がらせ、少し目尻が垂れたように見えた。
その表情は、これから一生こき使かってくるはずのご主人様を目の当たりにした奴隷のする表情とは思えない。
逆に何かを期待しているような、その謎の笑みに、何だか一瞬背筋が凍りついたような感覚が走る。
僕はその感覚を生涯忘れることはなかった。
〜〜〜〜〜〜
私こと
とある日曜日、私は近所の公園へ父と遊びに来ていた。
父が休みの日には決まって一緒に過ごしてもらうのが我が家の日課であり、父もいつも微笑みながら私との時間を楽しんでくれているようだった。
公園内のドッグランで元気いっぱいに走り回り、たまに飼い主とも戯れる犬達を見ていれば、まだ幼い私が『自分で犬を飼ってみたい』と考えるのは、もはや必然だった。
その日の夕食時に私はさっそく両親へ『犬を飼いたい』という、ささやかなお願いをしていた。
両親はたまにする私のお願いに対して、基本的に何でも聴き入れてくれる優しい人たちだった。
しかし、この時に限ってだけ、両親はすぐに私のお願いに対し了承せず、困った表情をしていた。
そして父が諭すように私に対して何やら語り始めた。
「いいかい? 犬を飼うって事は命に対して責任を持つという事なんだよ」
それは今まで見たことがない、父のどことなく物悲しいような、そして真剣な表情だった。
私は子供ながらに、これは何か重要な内容だと感じ取り、父の話しの続きを真剣に聴いていた。
父の話を要約すると以下の通りだ。
・犬をはじめ、ペットはご主人様を選べない。
・ペットはご主人様の飼い方次第で幸福にも不幸にもなりうる。
・ペットは
・もしペットを虐待したり、無責任に捨てたりしたら動物愛護法によって重く罰せられる。
このように、ペットを飼う際の心構えを、私は父からじっくりと聴かされたのだ。
ネット動画でも身勝手な飼い主や、不幸になった犬猫の実情を散々、両親とともに試聴した。
じっくりとペットを飼う事に関する知識を共有したところで、改めて両親からペットを本当に飼うかどうか、私に決めさせてくれる話の流れになった。
正直私は軽い気持ちで犬を飼いたいと発言していたが、今回の両親の話を聴いて考え方が劇的に変わっていた。
両親としては決してペットを飼いたくないから、このような話を長々と私にした訳ではないようだ。
ここで私が『それでもやっぱり犬を飼いたい!』と言えば両親とも笑顔でそのお願いを叶えてくれるだろう。
私達親子には、それが自然に分かるぐらいの信頼関係で繋がっていて、とても幸せだった。
そして私はじっくり考えた結果を両親に堂々と宣言した。
「やっぱり犬を飼うのはやめる! そして私がペットになって、ご主人様に責任を持ってもらって、楽しく悠々自適な生活を送っていく!」
私の一世一代の宣言を聴いた両親は、先ほどのペットを飼う事の責任感を語った父を大きく上回る悲しい表情を浮かべていた気がした。
それはたぶん気のせいだと思うけど、その後なぜか何時間にも渡り、何かの説得を必死の形相で両親から受ける事になった。
しかし、今後の人生プランを決めて清々しい気持ちになった事や、すでに夜遅くなっていた事もあって、もう両親の話は私の耳へはほとんど入って来なかった。
私は優しい両親のもとに生まれた事を改めて実感して、世界一の幸せ者であると感じながら夢の中に沈んでいった。
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