第4話 アイデア

 その後は他愛もない世間話や、他の同級生との下ネタなど正直どうでも良い内容が録音されていた。

 全ての音声を聞き終わった後、俺は怒りに震えていた。あの会話がもし本当なのだとしたら、人を殺しておいてのうのうと暮らし、そしてそんな人間が市長になろうとしている。

 しかし、彼らが言っている灯ノ下さんと、俺が出会った灯ノ下さんはどういう関係なのだろうか。

 俺はその日、眠れぬ夜を過ごした。


 翌日、俺は図書館へ向かった。会話の中で当時新聞に載ったと言っていた。その時の新聞記事を確認すれば、何かわかるかも知れないと思ったからだ。

 開館と同時に中へ入る。そして、一直線にアーカイブを確認できるパソコンへと向かった。行方不明をキーワードに検索すると、目的の記事はすぐに見つかった。

 【高校三年の女子生徒、失踪か!?】とタイトルの書かれた記事。三十年前の七月二十五日、友達に会いに行くと言って出かけた女子生徒が、そのまま家に帰らず行方不明になったという事件。そして、行方不明になった女子生徒の名前が灯ノ下塔子だった。

「うそ、だろ?」

 その新聞記事には顔写真も載っており、灯台で出会った灯ノ下さんと瓜二つだった。というより、本人としか思えない。

「一体、どうなってんだよ」

 その後も色々な記事を確認してみたが、それ以上詳細な情報は出てこなかった。やはりもみ消されてしまったからか。

 もし、奴らの言っていたことが本当なら、今でも砂浜に灯ノ下さんの遺体が埋まっているということだ。

「なんとかしてあばけないかな」

 そして、どうすれば悪事を表沙汰にし、奴を失脚させられるだろうか。

「そうだ! ライブ配信だ! 配信しながら穴を掘ろう」

 録画した物だと加工やヤラセを疑われかねない。しかしライブ配信であれば、たまたま見つけたという事にできるのではないか。

 ただ、『ライブ配信前に仕込んだのでは?』と言われる可能性もゼロじゃない。いかにして偶然そこを掘ることにしたのか、そのあたりの選択が難しい。

「何か、穴を掘る明確な動機が欲しいな……」

 地面に穴を掘る動機。落とし穴か、タイムカプセルか。ただ単に落とし穴を掘る動画ではつまらないだろう。誰かを落すわけでもないし、実際どれくらいの深さにのか分からない。

「待てよ、何もる必要はないじゃないか」

 俺はとてつもなく良いアイデアを思いついた。確実ではないが、やってみる価値はありそうだ。

 

 早速準備を整えると、俺は灯台へ向かった。時間は午後二時過ぎ。録音された会話では夕方ごろに見に来ると言っていたが、気が変わって早めに来て鉢合わせしないかドキドキしたが、結局誰とも行き会わなかった。

 いつもの通り自転車を目立たない場所に置き、灯台に侵入する。バルコニーを覗いてみたが、やはり灯ノ下さんの姿は無かった。そして目的の物を回収した後、話に出ていた大岩の前に立つ。恐らく埋めたのは海側の岩陰だろう。灯台側だと、穴を掘っている姿が目立ってしまう。海側であれば多少死角が出来るので、人目に付かず掘ることも出来そうだった。

 俺は手を合わせた後、少しだけ砂を掘り、灯器に引っかかっていた赤い布を少しだけ見える様にして埋めた。

 恐らく、こうすればあいつらが様子を見に来た時に焦るだろう。そして、確かめたくなるはずだ。砂浜の下にまだを。そうなると多分、いても立っても居られず穴を掘りだすだろう。

 俺はその様子をこっそりと撮影する。あくまでライブ配信中に映ってしまったていよそおうのだ。

 岩からは少し離れ、死角となる木陰に待機しライブ配信を開始する。もちろん長時間の配信に耐えられるようモバイルバッテリーも持ってきているし、飲み物も準備済みだ。

 そして、ライブ配信を開始してから一時間ほどが過ぎた頃、大岩に近づいていく二人組が現れた。泥門とその友人だ。

「あれ? なんか二人組が来たんだけど何だろ」

 カメラをそちら側に向ける。

 そして、砂浜に視線を落すと友人の方が驚いた様に腰を抜かした。泥門はキョロキョロと辺りを見回している。俺は見つからないように身をひそめる。

「なんだ? 何をやってるんだ?」

 すると案の定、砂浜を掘り出した。

「なんか、掘り出したんだけど。あそこに何か埋まってるのかな? 伝説の海賊が残した財宝とか」

 視聴者にはあえてそう言い、自分は何も知らない風を装う。

 すると、手だけで掘るのに限界を感じたのか、友人の方が慌てる様に大岩から離れて行った。その間、泥門は必死に手で掘り続けている。

 数分ほどすると、友人がスコップを持って走って来た。そう言えば確か昨日、背面にスコップを付けたジムニーが店の駐車場に止まっていたな。

「えっ? なんかスコップ持ってきたんだけど。しかも様子ヤバくない?」

 一心不乱いっしんふらんに砂浜を掘り続ける二人。

 ライブ配信アプリを確認すると、視聴者は五十人ほど。コメント欄でも『ヤバくない?』とか『必死過ぎワロタwww』など書かれている。

 だがまだ通報するのは早い。今ならいくらでも言い逃れは出来るし、親のコネで事なきを得そうだからだ。

 腰の深さぐらいまで掘り進めると、突然二人の動きが止まった。お互い顔を見合わせるとスコップで掘るのを止め再び手で掘り出した。そして、何か白いものを持ち上げる。

 人間の物と思われる頭骨とうこつ

「マジかよ! あれって人間の骨だよね?」

 遺体がそこに有る事に安堵したのか、頭骨を放り落した後、穴の縁に腰掛け談笑し始めた。もう、人としてどうかしている。

「ちょっ、誰か通報お願い。俺はこのまま撮り続けるから。場所は間藤まとう灯台傍の海岸」

 もはや自分の身バレは覚悟だった。もし視聴者の中に近所に住んでいる人が居ればとつしてくるかも知れない。まぁ、それはそれでも面白そうだけど。

 『通報しよう』『ダレか頼む』『どうせ仕込みだろ』『盗撮の方が問題』など、コメント欄も荒れ始めた。

 けど、誰かが実際通報してくれたみたいで、すぐに警察は到着した。二人は慌てて穴を埋めようとしたが間に合わず、白骨死体も発見され、そのままパトカーに乗せられて行った。

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