第21話 ウワサの真相
温泉の都クライムから帰ると、宿にギルド職員が訪ねてきた。先日のハイオーク討伐報告の際対応してくれた栗毛のゆるふわウエーブが特徴的な女性だ。
「結論から言うと、ハイオークが山から降りてきてしまったのはどうもデスタードラゴンに追い出されたからのようなんです」
「追い出された? つまりそのドラゴンがどこかから飛んできたと?」
そう言うと職員は何かを思い出そうとするようにこめかみを指でぐりぐりする。
「うーん……実は今回の出現は前兆が全くつかめなかったんです。ドラゴンのような巨大モンスターの移動を見逃すことは無いはずなんですが」
「とにかく今はあの山にデスタードラゴンが居座っている、ということなんですね?」
とノエルが確認する。
「ええ、調査隊が目視で確認しており、麓の集落はギルドの誘導で避難を開始しています」
そこまで聞いて一つの疑問が生じた。
「なぜわざわざそれを報告に? 別に次のクエストを受けに行ったときでも良かっただろうに」
すると栗毛の職員はバツの悪そうな表情で
「お三方にはドラゴン討伐にご協力いただきたいんです。今ギルドでは王国軍と協同して討伐隊を組むところでして、実力ある冒険者の方にお声がけしているんです」
「実際ドラゴンってのはどれくらい危険なんだ?」
「タスクさん、ドラゴンは端的に言って一撃のブレスで街の区画が一つ消えます。国を上げた討伐隊で撃退するのが精々でしょう、それもかなり難しい仕事になると思います……」
ノエルが考え込む。今までならこんな依頼には飛びついて喜んだだろうノエルが、迷っている。しかも天秤はマイナスに傾いている。
しかし、だからこそ、ノエルの夢はここにあると直感した。
「なあ、受けてみたいんだろ? この依頼」
冷や汗の中に、かすかな笑み。共に過ごしてわかった。一か八か、丁か半か、そんな馬鹿げた博打に、コイツは心を燃やす人間なのだ。
ならば、と俺は微笑む。
「かましてやろうぜ、こんな冒険を待ってたんだろ? 自分の力がどこまで通じるか、俺も試してみたい。レンはどうだ?」
「私はタスクに付いて行く」
即答だった。しかしその目に映る覚悟は固い。前にも気になったが、レンは俺に選択を依存しすぎるきらいがある。このあたりで誤解を正しておかないと命の選択まで俺に委ねかねない。
「レン、俺はあのとき目の前で困っているお前を助けたかった。だけど、俺が新たな重荷になるなら……」
「タスク、それ以上あなたを貶めるなら、たとえあなたでも許さない」
レンの声に力がこもる。
「重荷? あなたは周りからも、どこからも浮いていた私をそれでも地上に繋ぎ止めてくれた。ならそれは私に必要な重さ、大切な、重さ」
友人もなく、仲間にも見捨てられ、俺たちに助けられた少女。その意味を、俺が一番理解してあげられていなかった。
だから、俺は
「そうか、ありがとう」
「ん、こちらこそ」
とにかく、これでパーティーの方向性は一致した。それをギルド職員に伝え、クエストの準備に移ることにした。
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