第15話 伝説のハイオーク

 あれからなんとか7匹のオークを狩り、風呂と食事を済ませ、明朝帰路につくことにした。

 俺たちはしばらくリビングで今日の振り返りを行ったあと、それぞれ寝支度に入っていた。


「いくら親父のデータがあるとはいえ、そろそろ自分でも新しい情報を集めないとな」


 これからどういう方針で動いていこうか。未来に想像を膨らませるうち、自然とまぶたがゆっくりと落ちてくる。

 街に帰ったら何日かしっかり休もう。温泉に行くのもいいかもな。


 考えるうち、吸い込まれるように眠りへ誘われる……


「オォォォォォォォォォ!!」


 窓を揺さぶり、突如響き渡る轟音と胴に共鳴するが如き地鳴り。


「何が起きやがった一体! オークを倒したばかりだぞ!?」


 ともあれすぐに支度を整えて一階へ急ぐ。


 リビングへ降りると、すでにノエル・レンとオレン夫妻がテーブルの前に集まり轟音の正体を検討していた。


 ノエルは寝癖を直す暇もなく叩き起こされたためか、室内にも関わらず三角帽子を目深に被っている。柄にもなく怯えているのかその手がかすかに震えているのが見て取れる。


「お、オレンさん。なんですかこれは、オークの討伐だって話だったじゃないですか!」


「昨日まではこんな事はなかったんです。私にも何が何だか……」


 その口ぶりに嘘は感じられない。ノエルと同じく、未知の現象に慄く姿はことさら無力さを感じさせる。


「何でもいい、少しでも手がかりが欲しいんだ。本当に何も心当たりが無いか?」


 そうは言われましても……とオレンが考え込む。


「手がかり、というには根拠に欠けるかもしれませんが、裏の山の頂上にはハイオークと呼ばれる通常のオークとは比較にならないほど強靭で、巨大なオークが住むという伝説を小さな頃に聞いた覚えがあります」


「そいつの弱点は?」


「……せいぜい足が遅いくらいだと聞いています」


 憔悴し、絶望しきった声で返答するオレン。だがーー


「十分だ。一応村の人達を避難させておいてくれ、村も多少傷つくかもしれないからな」


 そう言い残して屋敷を出る。


「ちょ、ちょっと待ってください! 今の情報で何が大丈夫なんですか!?」


 焦って飛び出してくるノエル。


「私はタスクを信じる。この命、預けてもいい」


 表情こそ乏しいが、自信をみなぎらせ断言するレン。それを受けたノエルはひとつ大きくため息をつき


「わかりました、行きますよ! 信じますよ! ただしぜっっっったいに勝ってください、負けたら責任取ってもらいますからね!!」


「責任……ノエル、意外と大胆」


「そういうことではありません! 私は真面目に……」


 

 果樹園を出、山の方へ続く上り坂を行く。地鳴りはひっきりなしに聞こえ、段々と距離も縮まっているようだった。


「ついに出やがったか……さすがに普通のオークとは比べ物にならないな」


 村から少し離れた地点、山と道の境目近く、とうとう俺たちはハイオークらしきモンスターに遭遇した。ただ、向こうはまだこちらに気づいていないようだ。


「こ、こんなに大きいんですか!? 今からでも……いや、だめですね。後ろへ通すわけにはいかないんです。正直失神しそうなくらい怖いですが、やるしかありませんね」


 一瞬怯えに飲まれそうに見えたノエルだが、なんとか口を笑みの形に歪めて立ち直る。


 ハイオーク、確かに大きいが、親父に剣で解体させられた廃ビルはもっと大きかった。


「……普通のオークより、足が遅い。小回りも利かない。勝機はある」


 レンが冷静に、しかし自分に言い聞かせるようにも聞こえる声音でつぶやく。


「そう、勝機はある。だからこそ、気を引き締めて行くぞ!!」


「はい!!」


「了解」


 声をかけると同時、剣を抜いて地面を踏込む。この段になってまだ俺たちを視認できていないらしいハイオークは、お構いなしに歩を進めてくる。


「お前の相手はこっちだ!! なっ……!?」


 ガン! とまるでコンクリートを叩いたような音がして、刃が弾き返される。


「拘束の二、縛り抑えよ光の縄よ!!」


「システムワン、奪い貫け氷の槍よ」

 

 続けて二人も魔法を繰り出すが、両足を拘束しようと放たれた光の輪はハイオークの脚力に全く敵わず、あえなく引きちぎられる。レンの魔法も刃と同じく弾かれて、パラパラと小さな氷へ還る。


「くっ、やはりオークとは硬さがまるで違う」

 

 三人の連撃に、さすがのハイオークもこちらを認識したようだ。村をひと睨みし、次に足元の人間たちを見る。その態度はまるで俺たちを嘲笑しているようで、闘争心に火がつけられる。


「まだまだぁ! 始まったばかりだろ、戦いは!」


 奴の横へ回り込み、人間で言うアキレス腱あたりを一閃する。あいも変わらず鋼の塊はハイオークに傷一つ付けられず押し返される。

 すかさず俺は奴の後方へ移動。ふくらはぎを狙い、体重を載せ剣を突き立てる。

 これも文字通り歯が立たない。しかし、まだーー!


「ノエル! あの魔法を頼む! この鈍さなら間に合う!」


「がってん承知!! 一なる神の僕にて、聖なる誉れ高き剣。清なる御霊よ、頂守りし破魔の剣よ、善きを守り、穢れを喰らいて力と為せ!!」


 辺り一面を照らし出し、ノエルの極大魔法が夜を駆ける。光線はそのままハイオークの胸を貫


「だめです、タスクさん! 表面すら削れません」

 

 苦しそうな声で報告するノエル。その言葉通りハイオークの胸には焦げ跡のひとつも付いていない。

 まだだ、まだ、絶対に弱点はあるはずだ。冷静になれ、葦原助。観察しろ、奴はどんな動きをする? 何を身に着けている? 癖は何だ? 動きは遅い、たすきのような革ベルトを身に着けている。ここに普段は武器を

 

「……スク!? タスク! 危ないっ!」


「うおっ、どうし、た……!?」


 突然、必死の形相をしたレンが俺を突き飛ばした。刹那、目の前にパッと、血しぶきが舞う。

 その場に力なく膝を付き、こちらへ倒れ込むレン。


「ま、にあって、よ、かった……」


「レン!」


 片手に剣を持ったまま、意識を失ったレンを抱きとめる。その衝撃で、レンの首元から何かが落ちる。

 首を向けて確認すると、街でレンに贈ったペンダントが、血に塗れ地面に放り出されていた。


 俺は静かに、静かにレンを地面へ横たえ、ペンダントを拾う。レンの背からは服を大きく濡らすほど、血があふれてくる。走り寄ってきたノエルが何か叫んでいるが、耳に入らなかった。


 俺はアイツを、絶対に――


「ああぁぁぁぁ!!」


 その場を強く一蹴り、ハイオークへ飛び込む。奴はそれ自体建物と見紛うほどの腕を振り下ろし、巨大な足で俺を踏み潰しにかかる。


「遅いっ! どこを見てやがる!」


 振り下ろした腕から肩まで駆け上がり、腕を切り落とすつもりで剣を振る。


 先程と同様、剣は簡単に弾かれる。


 これでだめなら、と肩を離れ、背中側に飛び降りながら一回転し、背中を斬る。


 しかしながら、斬れたのは巨大な革ベルトのみで、その巨体には傷一つ付けられない。


「タスクさん! 見てください! アレ!!」


 いつの間にか背中側へ回り込んでいたノエルがハイオークを指差し訴える。

 何かと思いよく観察してみると――


「傷が……付いてる?」


 オークの背中、中間辺りに未だ癒え切らない、俺の身長ほどの傷がある。

 

「そうです、タスクさん! ベルトを斬り落としたときに、その傷が!!」


 大きさや傷口の古さから見て、明らかに俺の付けた傷ではない。しかし、このチャンス、活かすしかない!!


「ノエル! 魔法だ、あの傷に魔法を打ち込め!!」


「了解です!! 最後の賭けです、立てなくなるくらい魔力を込めてやりますよ!!」


 流石にハイオークといえど俺たちの思惑に気づいたのか、体の向きを変えて魔法から逃れようとする。


「させるかっ!!」


 俺はすかさず正面へ走り、剣をバットのように使ってハイオークの目を狙い石を打つ。


「グォォォォォォォォォォ!!!!」

 

 こんな狙い方をされるとは思っていなかったのか、たたらを踏んだハイオークが雄叫びを上げる。

 この時間が稼げれば十分だ。ノエルの詠唱が後半に差し掛かり、ロケットの打ち上げのように、周りを照らしていく。

 思わずレンのペンダントをギュッと握りしめる。これで、これで終わりだ。


「――善きを守り、穢れを喰らいて力と為せ!!」


 ひときわ大きな光が杖の先端から放たれ、巨大なスポットライトのようにハイオークの胸を貫く。


「ァアアアアアアアアア……!!」


 断末魔もかき消される轟音の中、山の如き巨体が柔らかい地面に崩れ落ちた。



------------------------------------------------------------------------------------------------


 あとがき


 この小説が「面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけたらぜひ


 星、ハート、コメントやフォローお願いいたします!


 皆さんの応援が日々のモチベーションになります!!

 

 更新は毎日20時ごろを心がけます。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る