第16話 レアドロップ
ハイオーク討伐ののち、俺たちは急いでレンを村に連れ帰った。村の薬師兼回復術師のお姉さんが言うには命に別状はなく、施した回復魔法で傷跡も残らず今まで通り活動できるまでに回復するそうだ。ただし、数日は可能な限り安静に、湯治に行くのもおすすめとのことだった。
「レンも無事で、村も守れて、結果オーライですね」
「いや、俺たちは冒険をなめすぎてたのかもしれない。今回でよくわかったよ」
レンを預け、仮眠を取った後、俺とレンは朝焼けの中ハイオークの耳をもぎに来ていた。ギルドに討伐の報告をするためで、本来こういった証明には頭をまるごと使うのだが、大きなモンスターは体の一部で代替することがあるらしい。
耳を刈り取ると、不思議なことにハイオークの肉体は淡い光を放って消滅してしまった。
カランカラン――光の消えた後、棒状の何かがハイオーク跡地に落下する。
「何だこりゃ、一応剣みたいだけど……」
落下地点を見てみると、アラベスクのように緻密な文様と見るからに加護のありそうな赤い宝玉を持った黄金の剣がそこにはあった。
「タスクさん、これはもしかしてレアドロップというやつでは?」
レアドロップ、特定のモンスターが低確率でドロップする貴重なアイテムや強力な武具。魔法のある世界だ、何が起きても不思議はないが……
「なんかあのオークから出てきたと思うと気持ち悪いな……」
「うえ……そういう生々しいこと言うのはやめてくださいよ、ワクワクが台無しじゃないですか」
露骨に顔をしかめ、ジト目で睨んでくるノエル。
「まあ拾うだけは拾ってみるけど、どんなもんかな」
さして期待もせず、剣を拾い上げる。試し切りには山の方向にある一本の木を使うことにした。
「せいっ!」
せっかくなので格好付けて居合のように剣を抜いてみる。
結果、木は難なく両断できた。ついでに斬撃が斜面を駆け上り、山の中腹くらいまで、鬱蒼と生い茂っていた木々が全て切り倒された。
「うわっ、俺の聖剣……強すぎ……?」
結局、ハイオークとの戦闘で前の剣がボロボロだったこともあり、ドロップした黄金の剣を当面使うことにした。
村に戻った俺たちは、朝食をごちそうになって帰路についた。帰りはオレンがお礼にと4人乗りの馬車を追加報酬として贈呈してくれたので、とてもスムーズに進んだ。荷車を引くのとは雲泥の快適さだ。
「レン、今回はすまなかった。お前を守れなくて」
「タスク……」
流石に今回は俺が悪い。油断の結果、レンがそのツケを払った。普通なら激怒してもおかしくない場面だ。
「つまらない冗談はやめてほしい」
そうだよな、それが本音だろう。自分を危険にさらして、こんなパーティーやってられるかと、そう思っているかもしれない。
「私はタスクを守って死ねるなら本望」
「レン……お前そんなにも仲間のことを……!」
「タスクは絶対に何か勘違いをしてる……」
軽くため息を付き、うっすら呆れた表情を浮かべるレン。
「ありがとう、レン。せめて罪滅しに壊れたペンダントを買い直すよ」
「とりあえず……次のペンダントは、私だけに選んでほしい」
そう言ったレンの頬には、なぜか少しだけ朱が差したように見えた。
街へ帰り、レンをノエルに任せた俺は、冒険者ギルドにオーク・ハイオーク討伐の報告に来た。
「……ハイオーク、ですか?」
ふわりとした栗色の長髪に、赤縁のメガネが特徴的な受付さんが口を開いてぽかんと呟く。と思ったら
「ハイオークですか!?」
開いた口をそのままに、今度は目を大きく見開いて驚きをあらわにする。
「あ、あの”歩く災厄”と言われたハイオークを3人で倒したんですか!?」
「まあ、棚ぼたみたいなもんだけどな。一応これが証拠だ」
どん、と使い込まれ小キズの目立つカウンターに袋に包んだハイオークの耳を置く。
「え、これ私が確認する……しかないか、どれどれ……」
受付さんが袋を開くとそこには油粘土のように不気味な緑色をした、手のひら2個ぶんくらいある耳が鎮座している。
「お、おぇぇ……、私こういうの無理なんでお引取り頂いて……いや、引き取るのはこっちなんですけどね」
なんだかにぎやかな受付さんだった。
その後、奥から白髪がダンディなお偉いさんが現れ
「本当にありがとうございました。ハイオークが山から降りた理由についてはこちらで調査を進めますが、あの山にも安全が戻りそうです。報酬の割増はもちろんですが、こちらはささやかな気持ちです。ゆっくりお体を休めてください」
そう言って彼が取り出したのは
「温泉の都クライム、三ツ星旅館宿泊券でございます」
特別報奨としてもらった三枚のチケットを携え、宿屋のノエルたちに会いに行く。二人はレンの部屋におり、レンはベッドで横になって、そばに椅子を置いたノエルが座っている。
「実はギルドでこんなのをもらった」
「旅館の宿泊券ですか、レンの湯治にもいいかもしれませんね。私も楽しみです!」
「温泉……混浴?」
淡い水色のパジャマ姿で小首をかしげるレン。なんでそうなる。
「そんなことはこの破廉恥奉行が許しませんよ!! 嫁入り前の婦女子が裸を見せるなんてアウトオブ論外です!!」
「それだと二回外に出てる……」
「流石に混浴には入らないから安心しろ」
異性のパーティーメンバーと裸の付き合いは、その後が気まずすぎる。二人とももちろん優れた容姿をしており、邪な気持ちが無いとは言えないが……。
「そう、残念。じゃあそこのおかゆを食べさせてほしい、安静にしないといけないから」
そう言ってレンはサイドテーブルに置いた深皿を指差す。体を休めるのも仕事のうちだ、仕方ないだろう。俺は返事をしておかゆを掬い、レンの口元にゆっくり近づける。
「あー……む、美味しい」
おかゆを飲み込んだレンがかすかに微笑む。その笑顔はまるで粉雪のように淡く消えてしまいそうで……
「美味しいも何もレンが自分で調理したおかゆじゃないですか」
と、ノエルが不思議そうにレンを見つめていた。
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あとがき
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