第13話 カジノ・ロワイヤル2

 ぐずぐずと泣きじゃくるノエルを連れて、カジノを歩き回る。


 周りの視線が痛い。中には「……最低ね、あの男」とか聞こえよがしに言うご婦人までいる始末。


 違うって、俺じゃなくて自業自得なんだって。ノエルが鶏レースに有り金すべてぶっこむのが悪い。


「それにしても、レンのやつどこに行ったんだろうな。ノエルは何か知らないか?」


「う、うう……私は何も知りません……勘弁してください」


 おいやめろ、勘弁してくださいじゃないんだよ。 そういう言い方するとまた……


「ま、まさか、あんなかわいらしい娘を拷問に!?」


 蜘蛛の子を散らすように、ご婦人方が俺から離れていく。

 ……もうこのカジノ来られないよ俺。


 それを見てノエルがペロッと小さな舌を出した。


 持ち金をすべて散らしたあとの、「私ってバカだよね」発言に同意したことで相当へそを曲げたらしい。


 ため息を一つついて、レンの捜索を再開する。


 端の方も見てみようと、レース場右の壁沿いに入口へ向かって歩き始めたのだが……

 レース場とカジノ入口、その中間あたりに人だかりができている。確かあそこは――


「カードコーナーですね。ポーカーやブラックジャック、変わり種ではスピードのトーナメントなんかもありますよ」


 歩くうち機嫌の持ち直したノエルが教えてくれる。


「スピード? そんなゲームあったっけ?」


 向こうにいたころは修行続きだったため、どうにも娯楽に疎い。

 俺が聞くとノエルはにやあっと音のしそうな意地の悪い笑みを浮かべ


「知らないんですかあ? なら教えてあげましょう。いいですか、スピードとは連番ゲームです」


「連番ゲーム? 七ならべみたいな?」


 七ならべなら、中学の時にやったことがある。修学旅行の定番といえば大人数でのトランプだしな。

 しかし俺の質問にノエルは渋い顔をする。


「うーん、似ていると言えば似ていますけど、色々違いますね」


「スピードは七ならべと違ってカードの柄に指定がありません。番号さえ続いていればオーケーなんですよ。それに参加人数は二人だけです」


 得意そうに説明するノエル。そういえば二人きりで遊ぶような友人はいなかったな。

 それもこれも親父の鍛錬がハードスケジュール過ぎて、学校の休み時間以外遊ぶ暇がなかったのが悪い。


「まずはカード全体を赤と黒に分けてプレイヤーに配ります。そのカードからプレイヤーは四枚めくって自分の前に表向きに並べます。さらに山札から一枚めくり、それをプレイヤー同士の中間地点に置きます。これが終わればプレイ開始です。手前の四枚から中央札の連番カードを探して中央札に重ねていきます。ただし、これはその名の通りスピード勝負です」


「手前のカードは補充するのか?」


「一枚使うごとに山札から補充してください。山札を最初に使い切った方が勝ちです」


「なるほど、案外単純なルールだな」


 解説を受けたところで人だかりへ向かう。隙間から覗いてみると


「エンド、私の勝ちです」


「い、一枚も出せなかった……」


 テーブルに並べられたカード、一方の山札は尽きており、もう一方は全く減っていない。

 圧倒的な実力差、いや、運の差もあるだろう。連番のカードに巡り合えるかはランダムなのだから。


「どうして、アンタはそこまで強いんだ。カードを出すスピードだけじゃねえ、なんなんだよその豪運は……俺なんか妻に逃げられ、カードでも負けて、なんにもうまくいかないってのに」


「運は、私にもわかりません。……でも、生きていればいいこともあるんじゃないですか。巡り巡ってあなたの元にも」


 役者の様に、やけに勿体付けて語り掛けるレン。


「そうかよ……嬢ちゃん、名前は?」


「レン・ニューヴァイス。では、私はこれで失礼します」


 颯爽と場を立ち去るレン。恐れをなすように人垣は割れてゆき――


「……あ」


 俺とノエル、二人を見つけ、顔はクールに、しかし声だけはどこか震えて


「聞いていた……?」


「まあ、ゲームの終わり際くらいから」


「忘れてください、恥ずかしいので」


 言いながら早足に出口を目指すレンに、なんだか親しみが湧いた。


 きっとレンは感情の少ない女の子なんかではなく、外から感情を読み取りにくいだけなのだ。


 これから頑張ってその精度を上げて行こう。と、決意を新たにレンの後ろへ続いた。


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 あとがき


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