第5話 買い物

 ノエルの道具屋を出た俺たちは、装備を整えるため装具店にやってきた。店内には木偶人形が鎧を着た状態で展示されており、壁面には剣が何本も掛けられている。


「さすがに実物は迫力が違うな!」


「あれ、向こうでは見たことないんですか?」


 唇の下あたりに指を当て、不思議そうな表情でノエルが尋ねてくる。俺のような家系では当然その辺も履修済みと思っていたらしい。


「今までは木刀で修行してたからな。親父のやつが銃刀法違反だとか言って剣を持ち帰って来なかったらしい」


 それを聞いてノエルの表情に疑いが混じる。


「その、じゅうとーほー、というのが何かは存じませんが、経験なしで本当に大丈夫なんですか? 剣とか鎧って意外と重いですよ?」


「まあ木刀はおもり付きの特製品で、修行も妹を背負いながらやらされたんだ。これで効果がなけりゃ泣けてくるよ」


 それならいいんですが、異世界はわかりませんねと若干渋い反応をして、品定めを始める。昼間でも暗い店内に、白のローブがひときわ目立つ。


 しばらく商品を眺めていると、店主だろうか、ノエルと同じくらいの身長で髭面のいかつい男が話しかけてくる。いわゆるドワーフという種族なのだろうか。


「装備をお探しかい? うちはこの町一番の鍛冶屋でもあるんだ。いいもん揃ってるぜ」


「ええ、実はこの方の装備を整えるところでして」


 そうかいそうかい彼氏かい? などとセクハラまがいのやりとりを聞き流し、俺は別のことに意識を集中させていた。というのも、親父の授業中、装備に関して話題に上ったことがあったのを思い出したのだ。

 あれは何だったか、

 思い出した、こういう時は確か


「一番いいのを頼む」


「あいよ! ちょいと待ってな」


 思い出した言葉をそのまま言ってから思い出したが、俺には手持ちがない。つまりこの場で財布を握っているのは


「タスクさん。ワタシ、ワタシノオカネデスヨ?」


 首をかしげながら目を見開いて、鼻先がくっつきそうなほど顔を近づけるノエル。大きな瞳から光が失われている。


「わ、悪かったって、ついノリで。大体、俺の装備が整うのはお前の利益にもなるわけだろ?」


「それはそうですけど、なんだか納得いきません。私に確認くらいしてください、ふんっ」


 そう言うとプイっと可愛らしくそっぽを向く。その拍子にさらりと伸ばした銀髪が舞い上がり、俺の顔を叩く。ふわりと香る柑橘、その香りに、俺は――


「ふあっくしょい!!」


 鼻の異物感にくしゃみをした。


「ちょっと!! 髪についたらどうするつもりですか! いや、どうしてくれましょうか! こう見えて髪には気を遣ってるんです、何かあったら魔法で髪を全部抜きますからね!!」


 くしゃみに恐れおののき、赤子をあやすように髪を撫でる魔法少女。髪を抜く魔法ってなんだよ。


「悪い悪い、髪がくすぐったかったんだよ。そもそもノエルが至近距離で急に頭を回転させるのが悪いんだろうが、今度やったら鼻水でトリートメントしてやるからな」


「うええ、気持ち悪い想像をさせないでください!」


 お腹に手を当て、今にも吐きそうな姿勢を取る。


 なんて不毛な争いをしているうち、髭面店主が鎧と剣を携えて戻ってきた。


「待たせたな、こいつがうち一番の業物だぜ」


 自信ありげに店主が一振りの剣を差し出す。その刀身は鈍く輝き無駄な装飾を排したシンプルな美しさがあふれていた。


「こ、これは……」



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 あとがき


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