第3話 タスクの夢
「ノエルの望みは、俺を仲間にして冒険すること、でいいんだな?」
ようやく縄を解かれた俺は、紫色の薬瓶やら怪しいキノコやらが並ぶ机に腰掛ける。
「そうですね、おおむねその通りです」
俺の問いに、満足したように腕組みしつつ頷く。
なんだか自信満々な様子だったが、どうしても気になることがある。
「この願い、どの時点で叶ったことになるんだ?」
冒険する、というなら街を出て草原に出ることも、人によっては立派な冒険になるわけで。この辺をどう解釈したら良いか、いまいち理解できていない。基準が曖昧過ぎるのだ。
彼女自身はっきりとは考えていなかったのか、俺の質問に悩みこんでしまう。
ひとしきりうんうん唸った後、突然椅子から立ち上がり
「よし、もう一度寝てから考えます!」
「またかよ! どれだけ寝る気だ!」
とは言え、夢や願いなんて大抵最初は曖昧なものだ。形になっていないのも仕方がない、と思う。
……その段階で呼び出されたのは多少不服だが。
「まあ、とりあえず追々考えていったら良いんじゃないか? 俺もしばらくはこっちでやりたいことがあるしさ」
不満がないといえば嘘になるが、これもまた運命だ。せっかくなら楽しませてもらおう。
その後、しきりに感謝するノエルが困ったことがあればできるだけ援助すると言うので、取り合えず何か履くものをくれ、と頼んで部屋を後にした。
「やりたいことがあると言ってましたが、何をするつもりなんですか?」
別室の、俺の部屋ほどもあるクローゼットを探りながら、ノエルが尋ねてくる。
異世界に召喚されたらしたいこと。これは何年も前から決めていた。それ故ノエルとは違い具体的な目標がある。親父にも、じいちゃんにも成し遂げられなかった偉業。むしろ、こいつのゴールが曖昧な分、やりやすいともいえる、そんな目標。それは……
「俺は、異世界攻略マニュアルを作りたい!」
「こうりゃくまにゅある?」
さながら1年生の初回授業といった感じで、ノエルが復唱する。
「ああ、この世界を攻略するためのマニュアルだ。ヘルプ集と言った方が近いかもしれない」
親父からは随分色々仕込まれたが、それには割と概論的な話が多く、こちらでの生活を直接助けるかと言えばそうでもない。剣技や文化などについては教えられたが、金に困ったらどうするのがいい、とか召喚者の願いをかなえた後はどうすればいい、等といったことは語られていない。
俺のマニュアルではそこを補完し、より異世界生活者の実際に沿った内容にしたい。要するにこれを持っていれば困らない、ガイドブック的な本が作りたいのだ。
「随分需要の狭そうな内容ですね……」
とノエルが苦笑い気味に頬を掻く。
「需要はあるさ、俺の子孫とか、他の転生家系あたりにな。親父はこっちの色々がわからないせいで一年以上ロスしたらしい。人生は短い。楽になるならその方がいいだろ」
そう言うと彼女はあきれ顔で頭を押さえ
「よくやりますねそんなこと。あなたには利益もないでしょうに」
確かに、金銭的なメリットは殆どないだろう。しかし
「こうすれば生きた証が残る。バトンを繋げるんだよ、次の世代に」
ノエルが雪のような銀髪を揺らし、首を横に振る。
「よくわかりませんね、異世界の価値観は」
彼女は俺に向かって笑いかけ、でも……と続ける。
「あなたがそれを成したいと願うなら、お付き合いしますよ。仲間ですからね!」
そう言ったノエルは、今日一番楽しそうな表情をしていた。
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あとがき
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