第2話 ノエルの夢

「それで、どうしてノエルは俺なんか呼び出したんだ?」


 わざわざ異世界から人間を召喚するということは、何か目的があるはずだ。

 それに召喚魔法というのは、使用する供物の影響でかなり高くつくらしい。そこまでして成し遂げたいこととは一体なんだろうか。


「あ、あの、これは少し、少しだけ恥ずかしいお願いかもしれないんですが」

 

 ノエルが長い銀髪を指先でクルクルともてあそび、照れたように下を向く。

 これから告白でもするような仕草だった。少し幼さを残した顔が赤く染まる。

 

「なんだよ、別に笑ったりしないって。お前にとっては異世界から人を呼ぶほど大事なことなんだろ?」


 もちろん、もちろんですよ。なんて言いつつ決意を固めたように、すぅっと息を吸い


「わ、わたしの仲間になってほしいんです!」


 まほうつかいが なかまになりたそうに こちらをみている!


「はあ……そうですか」


「ちょっと! 人がさっきした発言で遊ばないでください! 真面目に言ってるんですよ。私は一緒に冒険する仲間が欲しいんです」


 ノエルは少し怒った様子だったが、しかし俺の反応も仕方ないと思う。仲間が欲しいならギルドなりなんなりで、募集をかければよさそうなものだが……。俺がそれを指摘すると、ノエルは切りそろえられた前髪を触りながらばつが悪そうに


「……しましたよ」


「え?」


「しましたよ! そんなの、今まで何度も!! でも、もうダメなんです……」


 この世界の冒険者というのは、魔物や盗賊との闘いで命を落とすことも多いらしい。

 仲間との死別や裏切り、そんなこともあるところにはあるという話だ。こいつもそういった悲しみを抱えて、この世界で仲間を集めることを断念したのだろうか。


 だとすれば、俺にできることなら協力してやりたい、と思った。

 ノエルが泣きそうな顔をして話を続ける。


「探索中にはぐれたり、うまく連携が取れず全員に逃げられてしまいました!」


「…………」


 てへぺろ状態のノエル、苦虫噛潰状態の俺。沈黙は金と言うが、金より重い沈黙だった。


「じゃ、俺はこれで。がんばれよ」


 こんな奴と一緒の部屋にいられるか。俺は帰らせてもらう。

 最後の挨拶をして、部屋の端、ベッドの向かい側に位置するドアへ向かう。

 と、一歩目を踏み出した瞬間


「拘束の二! 縛り押さえよ光の縄よ!」


「ぐえっ!」


 ノエルの詠唱と共に脚、胴、首にビームのようなもので構成された縄が巻き付く。


 おい、首はやめろ首は!


「ふふふ、侮りましたねこの私を! これであなたは私に協力するしかありません。まるで、あれ、えーと……あれです! なんとかの上のなんとか」


 こめかみに指をあて、あてはまることわざを思い出そうとしているようだが、どうにもうまくいかないらしい。と、いうかこのことわざ、もしかして……。


「ま、まな板の上の鯉って、言いたいのか?」


「そう、それです! いや、知ってましたけどね!? こんなっ、常識なんて!」


 どうやらことわざも通じるという親父の話は嘘ではなかったらしい。


 それはともかく、照れ隠しなのか何なのか知らないが、ノエルが光の縄をグイグイ引っ張ってくる。


「ぐ、ぐるしい……。ばか……」


 酸欠のためか、段々何を言っているのかわからなくなってくる。

 俺の冒険の書は、ここで終わった。



「はっ!」


 長い暗闇を抜けると、そこは異世界であった。というのはさっきからそうなんだが、これはどういう状況なんだ。


「目を覚ましましたね、タスクさん。先ほども説明した通り、あなたには私の仲間として冒険に付き合ってもらいます」


 光の縄、ですらなく普通に茶色い縄で縛られ、転がされている俺を、ノエルが見下ろしてくる。こんな細身の人形みたいな女に転がされるとは……親父から魔法の対処法を聞いていたはずなのに、完全に油断した。そういえば、親父曰くこんな状況に陥った時、これを言うのがマナーらしい。


「くっ、殺せ……!」


「殺しませんよ!? 仲間が欲しいって言ってるじゃないですか!」


 普通に驚かれてしまった。親父のマナー教室、全然あてにならん。


「大体、別に何かするつもりはありませんよ。タスクさんが逃げるから捕まえただけです。これはあなたのためでもあったんですよ?」


 人を捕縛しておいてあなたのためとは、なんてふてぶてしいやつだ。


「あっ、なんですかその目は! さては信じていませんね? お父様から聞いていないんですか?」


「親父から……? この世界に関しては大抵聞いたと思うけどな」


 思い出してみても、言語から風俗、政治体制まで一通りのことは教わっているはずだ。


「そうですか……。では召喚魔法についても、ご存じですか?」


 召喚魔法、それは俺たち一族が18歳を超えるとどこかで経験する、通過儀礼のようなものだ。だからもちろん、召喚魔法については親父から何度も聞かされている。


 曰く

 ①召喚魔法について

 召喚魔法には膨大な魔力を必要とし、人間に内在する魔力のみでは補いきれない。そのため外付けバッテリーのように大量の魔力を保存した魔道具が供物として捧げられる。


 ②召喚者との主従関係について

 召喚先の魔法使いと被召喚者の間に直接的な主従関係は発生しない。

 

 そして


 ③被召喚者の帰還について

 被召喚者が元の世界へ戻るには召喚者の望みを一つ叶える必要がある。


 ……忘れてた。



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 あとがき


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