#047 : 探竜
こんにちは。辰美です。
辰夫さんが家出してしまい、サクラさんが面白おかしくなってしまったので今日は私がお話を進めますね。
えっと…そうですね…では!辰夫さんが夜に家出した翌朝から。
…
「た、たたたたたた!大変!辰美ーッ!辰夫が居なくなっちゃった!どうしよう?辰夫!?たつおーーーーー!?」
辰夫さんが家出した事を知ったサクラさんが慌てていました。
「うーん…まぁ普通は逃げますよね…」
慌てて走り回るサクラさんを見ながら私は呟きました。
ここからサクラさんの錯乱っぷりが面白かったのです。
ガラッ!
「辰夫!?」
「サクラさん…そこ引き出しです。」
ガチャッ!
「辰夫ー!?」
「サクラさん…そこトイレです。」
ヒョコッ!
「たーつおッ!?」
「サクラさん…ベッドの下に居るわけないです。」
「ぐぬぬ…こ、こんなに探しても居ないなんて…」
「部屋しか探さずにこんなに!?」
と、まぁこんな感じで常軌を逸した行動をとっていました。
あ!元から常人には理解できない部分もありましたけどね。
「な、何がいけなかったのかな…」
「私には心当たりしかないですよ!?」
サクラさんがオロオロしながら言いました。うーん。可愛い。
「どうしよう…辰夫が居ないとお風呂上がりの肩揉みが…朝風呂の後の愉しみが…」
「そんなことまで…辰夫さんに……辰夫さん…今度は幸せになれると良いな…」
私は辰夫さんを偲び、涙を拭いました。
情緒が仕事していないサクラさんは突然叫びました。
「…がせ…探せ!辰夫を探せーッ!辰美ィーッ!大至急!魔王軍集合ーーーーーッ!」
「うーん。とりあえず面白そうだから承知しました。」
こうして魔王軍を集結させることになりました。
…
—— その夜。
ざわざわ…ざわざわ……
ざわ…ざわ……
月夜の中を魔の者たちの喧騒が響く —— 。
ざわ…ざわ…
ざわ…ざわ…
「聞きなさい!この世でもっとも邪悪な存在達よ!!」
一堂に会したモンスター達のざわめきを断つようにサクラさんは演説を始めました。
「いいか!これよりお前たちに重要な任務を与える!これは何よりも優先すべき事となると心得よ!」
ざわ…ッ!ざわ…ッ!
「お!なんだ!?久しぶりの戦か?」
「へへ…腕が鳴るぜ!」
血の気の多い魔王軍は久しぶりの大役に心を躍らせていました。
サクラさんはそんな魔王群を見渡し、大きく息を吸ってから言いました。
「裏切り者の竜王である辰夫を!!!!!捜索して連れて来るのだッ!!!!!」
【来るのだ!】の部分でサクラさんの持っているマイクの小指がピンと立ちました。
うん。ホントこの人は面白い。
………………ざわ…?…………ざわ…?
「う、裏切り…?」
「あれ?そうなの…?いや…待てよ…?」
「辰夫さんさ?いつも大量のサプリと胃薬を飲んでたよな…死んだ目で…。」
「肉が重たくて食べれない。年のせいかな?最近は野菜が美味しいんだ。って言ってたぜ?」
「あ!そうそう…ドラゴンだけどヴィーガンになるかなって言っててリアクションに困ったわ…」
だんだんと魔王軍のざわめきが大きくなってきました。
……ざわ…!………ざわ…!
「ふざけるな!辰夫さんが家出したのはあんたのせいだろ!」
「そうだ!そうだ!辰夫さんは何も悪くないだろ!」
「あんた!辰夫さんにずっとパワハラしてたじゃないか!」
魔王軍からブーイングが起こりました。
サクラさんは思いもよらぬ魔王群からの反発に目を丸くしていました。
「ち、ちょっと待ちなさい!お前たち!よーく考えて欲しい!!…本当に…本当に悪いのは私なのでしょうか?」
サクラさんは両手を胸に当て、訴えるように言いました。
………………ざわ…?…………ざわ…?
「…?」
「え…?」
「……あ、あれ…?」
「…ど!どう考えてもあんたのせいだろ!」
「あ、危ない!一瞬考えてしまった!」
「ふざけるな!反省しろ!」
「卵投げてやれ!」
一瞬止んだブーイングでしたが、より一層激しくなりました。
鳴り止まぬブーイングの中、サクラさんは続けました。
「やめてください!卵を投げないでください!…クッ…ぐぬぬ………そ!そうよ!私が全部悪い!だから…だから…謝りたい…のです…」
サクラさんは夜空を見上げて言いました。
………………ざわ…?…………ざわ…?
「謝る…?」
「あの鬼のサクラ様が謝るだって…?」
「なんか裏があるぞ…」
動揺する魔王軍。そんな中、サクラさんは続けました。
「辰夫が居ないと…私は!私は……靴下の……場所も…わからないのです…」
夜空を見上げるサクラさんの耳たぶが真っ赤になっていました。
………………ざわ…?…………ざわ…?
ざわ…?ざわ…?
「お!おい…サクラ様…靴下を履いてないぞ…」
「え?ちょっと待って!竜の王様が靴下を洗濯してたの!?」
「サクラ様…もしかしてADHDじゃないのか?」
魔王軍に更なる動揺が走りました。
そしてとうとうサクラさんが逆ギレしました。
「…はい!では今回も…皆さんが乗り気ではない事がよくわかりましたーッ!それでは!今日も皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいますーッ!では、そこの端からいきますよー?」
サクラさんは何かが吹っ切れたのか、掠れ声でコマネチをしていました。
……ざ…わ…!?…ざわッ!ざわッ!行ってきまーすッ!!!!!
そして最終的にはいつも通りサクラさんが脅迫することで魔王群が動いたのです。
—— こうして辰夫さんの大捜索網が引かれました。
サクラさんは大群が去った後にポツンと落ちていた軍手を見つめながら呟きました。コマネチポーズで。
「明日から…何を着れば良いのかな…爪切り…耳かき…替えのシャンプー…どこにあるのかな…」
「辰夫さん…主夫かよ!」
私はそうツッコまずにはいられませんでした。
(つづく)
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