#040 : 駿

こんにちは。カエデです。

今はですね…街の広場で体育座りをして…雲を…雲を見ています…。


「雲は自由に空を飛べて羨ましいな。ね?ウィルソン?」

私は手のひらの良い形の石に視線を移し、語りかけました。


「元気出せよ…カエデ。」

手のひらの良い形の石から声が聞こえました。


「…宿屋…泊まりたかったなぁ…」


「仕方ないな。カエデ。あのガチップのキモさは異常だった。さすがの俺も引くレベルだった。奇行種よりも酷かった…令和の東京だったら逮捕されててもおかしくなかったと、俺は思うぜ?」


「そっか…そう…だよね。…私は…運が良かったのか。」


「おう。そうそう。だから元気…おっ?誰か来たぜ。」


—— すると、手のひらの良い形の石が人の影に覆われました。


そして、影の上の方から声が聞こえました。

「見ない顔だけど、どうかしたのかい?」


「…え…?」

私は顔を上げ、声の主を見ました。

そこには妊婦の女性が私の前に立っていました。


「あ…えっと…どこにも行くところが無くて…頼れる人も…居なくて…」

私は再度、手のひらの良い形の石に視線を移しながら答えました。


「なんだいなんだい!困ってんのかい?だったらとりあえずウチに来な!」


「…あ…ッ………」

その女性は私の手を掴み、強引に私を引っ張りました。


女性は私を引っ張りながら言いました。

「ウチはすぐそこのパン屋だよ。ほら!そこそこ!」

「パ…パンッ…!」



カランカラン…♪

パン屋さんのドアが幸せの音を奏でると、たちまちにパンの香りが私を包みました。


「ふわぁ…パンの…匂い……だ……良い…匂い…」

私は入り口で立ち止まり、目をつむって幸せの香りを嗅いでいました。


すると、女性は私の頭から足元まで見てから言いました。


「んー…うん!まずはお風呂だね!ほら!そこの奥がお風呂だから入ってきな!」


「…え…え?…あ、はい。ありがとうございます…」


私をお風呂まで案内しながら、女性はテキパキと動いていました。


「着替えはここに置いておくよ!私のお古だけどね!あはは!じゃあほら!入っといで!」


「え?あ!ありがとうございます…!」



浴室に入ると喜びが込み上げてきました。


「お…風呂…だぁ…うわー!うわー!お風呂だー!」

私は小声で思い切り喜びました。


久しぶりのお風呂…私は念入りに身体を洗いました。

身体を洗いながらも涙が、鼻水が止まりませんでした。


しばらくしてお風呂から出ると、脱衣所に用意されていた かぼちゃパンツを履き、黒いワンピースを着てから赤いリボンを付けると、パン屋さんの店舗側まで行きました。


「お風呂…ありがとうございました。…ホントに…!ホントに!ホントに!…ホントに!ホントにぃ…うっ…うっ…ありがとうございました!……ホントに…うっ…うっ…」

私は泣きながら何度も何度も頭を下げてお礼を言いました。


「なんだい!なんだい!たかだかお風呂で大袈裟だねー!あはは!…おッ!私のお古の服だけどさ!それ、とってもいいよ。黒は女を美しく見せるんだから!あはは!」


そして私は恐る恐る女性に尋ねました。

「…あ…あのッ…お、お金は払いますので、パンをいただいても…良いですか…?…実は…ここ最近ずっと野草しか食べてなくて…」


「野草?何があったんだい?まぁそれを聞くのは野暮ってもんか!どうぞどうぞ!好きに食べて良いよ!あはは!」


「…ッ!!」

私の口から声にならない喜びが出ました。


そして近くにあったパンに手を伸ばしました。

パンを掴むと、パンを持つ手が震えていました。


震えながら手に取ったパンを見つめると、生つば を飲み込んでからそのパンを一気に頬張りました。


(…ゴクン…)

……パクッ…!


「……ッ!!……………う"っ…う"ゔっ…お"…おびじぃ…ど、どでぼ…ぼ…美味…じびぃ……でじゅ…」


久しぶりに食べたまともな食べ物 ——。

涙が、鼻水が止まりませんでした。


「あはは!飲み込んでから話しなよ!パンは逃げないからさ!せっかくお風呂に入ったってのに顔がぐちゃぐちゃじゃないか!あはは!ほらほら!どんどん食べな!」


そして女性はパンを食べる私を見つめながら言いました。


「とりあえず今日は泊まっていきな!洗濯物も乾かないしね!鎧は自分で拭いとくれね!あはは!」

なんと、女性は私の服の洗濯までしてくれていました。


「何から何まで…ありがとうございます…ぅ…うっ…うっ…」


—— パンを食べ終わると、私は女性の胸でずっと泣いてしまいました。

女性は何も聞かずにいてくれました。私の頭を撫でながら ——。


しばらくすると、男の人がノソっと現れました。

「…わ!?わわッ…」

私が驚くと、女性が言いました。


「ああ!これはウチの旦那よ!旦那は無口でね!なぁに!とって食べやしないよ!あはは!」

女性は旦那さんのお尻をパシパシ叩きながら言いました。


「自己紹介がまだだったね。私はソロ。みんなからは おっソロさん なんて呼ばれてるよ。あはは!で、あんたは?」


「私はカエデ…と言います。」

「カエデ…良い名前だね!ねぇ?アンタ!あはは!」

おソロさんは旦那さんのお尻をパシパシ叩きながら言いました。


「ニャーゴ…!ニャーゴ…!」

パン屋さんのペットの黒猫が鳴きました。

「ああ!あんたもいたね!ヂッヂ!あはは!」


私は入り口に立てかけてあったデッキブラシを見つめながら…ここに住み込み、宅急便の仕事をしようかなと思い始めていました。

何故だかはわかりません。


パン屋さんの外をメガネの男の子が通りました。



ちなみにパン屋さんの名前はグーチョキおっと…誰か来たので、今日のお話はここまでです。


それではまた!



—— 異世界に放り出されたけど、私は元気です。



(炎上しなければつづく)

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