#034 : 計画

「……辰美。」

辰夫が報告を終え、魔王の間を出て行ったのを確認すると、私は辰美を呼んだ。


「はい。私はここに。」

部屋の奥で待機していた辰美が近づいてくる。


(…どう?)

私は小声で問いかける


辰美は魔王の間の外をキョロキョロと確認し、戻ってから言った。

(…はい。今は大丈夫です。)


「………ぷはーw …シリアスモード疲れたーw …よいしょっと。」


ガチャン☆

私は魔王の玉座の背もたれを倒しながら腕をまくり上げ、ため息混じりに声を漏らした。


「ええ!?玉座って背もたれ倒れるの!?……それより辰夫さんにはずっとシリアスモードで行くんですか?」

辰美が私に問いかける。


「んーそうねー…なんか面白いからこのままでよくない?」

私は背もたれでユッサユッサと遊びながら答えた。

「別に良いですけどw 辰夫さん可哀想w」


「…本当に…いつものサクラさんに戻って良かったです…しばらくは見てられないほどに辛そうでしたからね…」


「とにかく前を向いて進まないとね。あのアミーとか言う魔神にもう一度会うために。」


私の考えはこうだ。


魔神にエスト様の蘇生をさせたい。

それにはその魔神を呼ぶ必要がある。

魔神は心優しいエスト様を失敗と言った。

魔神が創造する魔王で世界を恐怖で支配したいのであれば、その逆の平和な世界を作ってやる。

そうすれば魔神が私の元に現れるかもしれない。

そして、泣かす。泣くまで殴るのをやめない。


ちなみに拠点をこの魔王の間にしているのは、魔神が新しい魔王を送り込んで来るかもしれないからである。

その新しい魔王は私の配下にして、魔神の顔を潰す。



そうこうしていると、魔王の間の扉が開いた。


「大魔王サクラ様。ご報告漏れしておりました件が御座いました。」

辰夫がまた来た。


(辰夫ッ!?)

バイーン☆

私は慌てて玉座の背もたれを戻す。


「む?バイーン??何の音ですかな!?」

「辰夫か。何用か。」

「ははっ!かねてより進めておりました、常闇の村とリンド村の交流の件にございます。」


「ふむ…それなら辰美に一任してある。辰美。」

「はい。辰夫さん、私にお話ください。」


常闇の村とは、この常闇のダンジョン周辺を開拓して作ったモンスターの村のことである。

このダンジョン産の珍しい植物や野菜を農業で育て、リンド村に卸している。これらが薬にもなるので、大変好評なのである。

そしてリンド村の野菜や果物もモンスター達には好評だ。



辰夫と辰美が会話をはじめた。

「…で、あるからして。」

「ふんふん。なるほど。」


配置的に辰夫は私に背を向け、辰美は私の方を向いている。


「…というわけなのだ。」

私は辰美と目が合ったので、変顔をしてみた。暇だし。

「あぁ…それなら…ぶはッ!」


「…む?辰美、どうした?」

「い、いえ…何でもあり…ぷッ…ませ…ん…」

辰夫が振り返り、私を見る。


「なんだ?辰夫!」

私は辰夫を睨みつける。


「いえ!何でもありません!」

辰夫は慌てて私に背を向け辰美と会話を続ける。


「そして…そこで問題なのが…」

私は再度、辰美に変顔をした。暇なのだ。

「では、こういうのはどうで…ぶはッ!」


「辰美!さっきから変だぞ?」

「すみま…ぐっ…ぷぷッ…せん…」

辰夫が振り返り、私を見る。


「さっきからなんだよ辰夫ーッ!」

私は辰夫を怒鳴りつけ、聖剣エクスカリバーに手を掛ける。


「いえ!も、申し訳ありません!」

辰夫は慌てて私に背を向け辰美と会話を続ける。


「というわけで、宜しく頼んだぞ辰美。」

「ぐっ…は、はい…ぷっ…わかりました。」


「あと、人と話すときに笑うな!」

辰夫が真面目な話をしている時に笑うなと言った。当たり前である。

「は、はい…申し訳ありませんでした。」

「ふむ。次から気をつけるように。」



「では、大魔王サクラ様。失礼します。」

「うむ。」

辰夫が首を傾げながら魔王の間を後にした。


「ちょっと!サクラさん!何してくれてるんですか!辰夫さんに怒られちゃったじゃないですか!」

「…暇だったのよ。」

ガチャン☆

「背もたれ倒しながら言うな!もう!私も仕事があるので行きますね。ではまた。」

辰美も魔王の間を後にした。




「……。」

魔王の間で1人になった私は目を瞑り、呟いた。



「……小娘………待っててね…。」




(つづく)

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