#033 : 君臨と降臨


—— 魔王エストの死から1年後。


常闇のダンジョンは異様な雰囲気に包まれていた。


その中を辰夫は魔王の間に向かって歩いている。


コツコツコツ…ガチャッ…


そして、魔王の間の扉を開くと、跪いた。


「失礼します。ご報告が御座います。……大魔王サクラ様。」

「辰夫か。良いだろう。話せ。」

そこには魔王の玉座に座ったサクラの姿があった ——。


「はッ!王都のラウワですが、間も無く陥落致します。」

「ほう。それは良い知らせね。」


「そして、隣国トウキヨの征服に向けた指示を賜りたく。」

「ほう…。」


「いかが致しましょうか。大魔王サクラ様。」


「…お前はそんな事も自分で判断できないのか?」

サクラは腰の聖剣エクスカリバー抜き、辰夫の首に突きつけた。


「い、いえ…!申し訳ありません…!ただちに魔王軍の進軍を開始致します!」

辰夫はサクラに一礼すると、魔王の間を後にした。


(サクラ様は勇者であり魔王となった…その力はもう想像も出来ない…この世界を手中に収めるのも時間の問題であろう…)



—— 同時刻。

常闇のダンジョンより遥か遠く離れたオサカの国。



……シュパッ!!



広大な魔法陣の中心に1人の女が現れた。


「ん…えッ!…はれれ?…私は会社に行こうとして…玄関を出…て…?…あれ…?ここは…?」


「おおお!」

「成功した!」

「やっと…やっとだ!」

「勇者様!」

「勇者様ーッ!!」

魔法陣を取り囲んでいる魔法使いのような人達から歓声が上がっている。


「え?えええ?…これって!?…もしかして?…異世界転移ーッ?」



私の名前はカエデ。

どうやら異世界に勇者として召喚されたみたいだ。

元の世界に帰るには魔王を倒さなければならないらしい。


カエデは用意された部屋で泣いていた。

「ったく…勝手に召喚しといて…ひどい話よね…平和な令和の時代を生きて来た私が魔王と…戦えるわけ無いじゃない…どうしよう…どうしよう…帰りたいよ…」


そしてカエデは友達のことを思い出した。

「あッ?去年、突然行方不明になったサクラも…実はこの世界に召喚されてたりして!?…あはは!サクラならきっと魔王になってるわね…あはは……なんてね…そんなわけないか……それにしてもサクラ…どこに行ったのかな…?…こんな時はサクラみたいなタフな性格が羨ましいな…会いたいよ…サクラ…」


——ポツリと呟いたカエデの胸がポヨンと揺れた。



(つづく)

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