#032 : 喪失

ゴロゴロゴロ…


「ぬおおおおおお!」

『あはははははは☆』

「サクラ殿もっと早く走ってください!」

「死ぬ!死んじゃう!」


超巨大な岩が後ろから私たちを追いかけてきている!


逃げながら辰夫と私が口論を始める。


「なんでダンジョンに落ちてるお菓子を拾って食べようと思うのですか?そのトラップを仕掛けた人も驚いてますよ!?」


「う!うるさい!うるさーい!お菓子が落ちてたら拾うのは女子の本能だから!」


『そんな女子いないから☆』


「だいたいサクラ殿はいつも勢いだけで動いてますが、もっと考えて動いてください!そんなんじゃ恋人の1人も出来ませんぞ!」


「うわーーーん!辰夫が私が気にしてること言ったーーー!」


「大丈夫!サクラさんには私がいますから!」

辰美が謎のフォローを入れてくる。

「黙れ!」


『あはははは☆楽しいねー☆』

エスト様は楽しそうだ。

「小娘はこの状況でなんで笑える!?」


「辰夫!辰美!この岩を破壊できるような技とか奥義とかないの?」


「「ありません!さすがにこの岩は大きすぎる!!!」」

2人は全力で首を横に振った。


「ホント!お前たちにはガッカリだわ!」

「「誰のせいでこの状況!?」」

私は自分のミスを棚の上に置いてみたが、2人からの当たりは強かった。


「…ふぅ…仕方ない…やるか…」

『お?☆』

「「え?」」


私は立ち止まり振り返ると超巨大岩に立ち向かった。

「貝殻ナックル装着ッ!からのーーースキル全開☆右ストレートーーーッ!!!」


チュドーンッ…!


巨大な岩が粉々に砕け散った。


「ふふふ…巨大な岩をも砕く私は美しい……」

私はいつもの決め台詞を放つ。


『おおー…さすがお姉ちゃん☆』

「割れるとかじゃなく…砕け散った?」

「サクラさん…いくらなんでも規格外すぎません?…好き…」


そして辰夫の頬をペチペチしながら言う。

「あ!そうそう。辰夫さん?…勢いで生きてる私に恋人が…なんだって?…よく聞こえなかったんだが…辰夫……なぁ…?…お前も砕け散ってみるか…?…なぁ…?」


「いえ。な、なんのことでしょうか…その…すみませんでした…。」

辰夫が私の目を見る事は無かった。


「アッハッハッハッハー!」

私が声を高らかに笑っていると、砕け散った岩の破片が口に入った。

「んがっぐっぐっ!…うわっ!岩を飲んじゃった…」


すると、恒例の天の声が脳内に響き渡った。


(サクラは スキル :【鉱物化】 を習得しました。)


「…ま、また変なスキル覚えた…。」


『「「お!」」』


私はステータスを開き、恐る恐る【鉱物化】の詳細を見てみた。


【鉱物化 : 自身を鉱物とする事が出来る。温泉に入ると鉱物が溶けて温泉の効能がアップするよ☆】


「みなさん…とうとう私は…鉱物にもなってしまいました…私が温泉に入ると効能が上がるってさ…ふふ…。」


『斜め上すぎるwww』

「わっはっは!」

「サクラさんが何であろうと私は構いません!」


—— 私はしばらく立ち直ることが出来なかった。



冒険者になった私たちは一攫千金を狙い、海底ダンジョンに来ていた。

海底ダンジョン最深部に存在するという【クリスタル珊瑚】の採取クエストのためだ。


「あ!みんな!あんなところに!またまたお菓子が落ちてるよ?ラッキー♪」

「「あ!ちょ…やめ……」」


ヒョイ!パクッ!


…ゴゴゴゴゴ…ガシャン…


ゴロゴロゴロ…


「ぬおおおおおお!」

『あはははははは☆』

「「わざとだろ!」」



この海底ダンジョンに入って約1週間、数々の女子心をくすぐる巧みなトラップを踏んでは破壊しつつ進んでいた。


『女子は落ちてるお菓子を拾わないから☆』


道中のモンスターは私たちの気配を察してか、逃げ出す始末である。魔王と竜王が居るので当然と言えば当然か。


『お姉ちゃんの気配も異常だから☆』


そして——。


「この階層…ところどころ壁が光ってない?」

『キレイだねー☆」

「ふむ。クリスタルの結晶ですな。」

「おー!」


どうやら最深部に着いたようだ。

目的のクリスタル珊瑚が近そうだ。


少し進むとクリスタルで出来た巨大な扉があった。


「この扉は…全部クリスタル…?」

『おおおピカピカ☆』

「このダンジョンの主の部屋というところですかな。」

「ボス戦ですね!?」


私はこのクリスタル製の扉をトントン叩きながら、辰夫を見てニッコリ微笑んだ。この扉を辰夫に持たせて帰ると決めたのだ。

私と目が合った辰夫は「はい…」と小さく声を出した。


そして扉を開ける。


扉の向こうの部屋は大きな広間となっており、そこにはクリスタルで作られたゴーレムが居た。

その後ろにはクリスタル製の珊瑚が生えている。


「仕掛けて来ないわね…。」

『あのゴーレムさん気付いてないのかな☆』

「戦闘…ですかな?」

「硬そう…」

クリスタルゴーレムはこちらを見ているが、攻撃してくる気配が無かった。


「もしかしたら話せば分かるパターンかもしれないわね…辰夫?ちょっと近づいてみて。」

「えッ…」


「あんな危険そうなゴーレムに女子を近づけさせるの…?」

『そうだそうだ☆』

「辰夫さん!私怖いです。」


「女子…とは…?」

辰夫はお前らは女子の括りに入らないと思ったが言えなかった。


「竜王の辰夫さん!お願いします!…りゅ!う!おう!りゅ!う!おう!」

『「お!!」』


『「「りゅ!う!おう!!! りゅ!う!おう!!!」」』

エスト様と辰美も私のコールに合わせた。

さながら飲み会の一気飲みコールである。

ちなみにこれはパワハラである。


「わかりましたよ!行きますよ!」


辰夫はおそるおそるゴーレムに近づく。

すると、ゴーレムの目が光り、辰夫に襲いかかってきた。


ピカッ!…グオオッ!


「やはり来たか!」


ガンッ!


辰夫はゴーレムが振りかざした攻撃をガードした。


「我も竜王と呼ばれた存在…あまり舐めて…くれるなよ…!」

辰夫はドラゴンの姿になり、ゴーレムに向かってブレスを吐いた。


ブオオオオオオッ!!!


ブレスをまともに受けたクリスタルゴーレムは動かなくなった。


「おー!辰夫やるじゃん!」

『辰夫!カッコいいー☆』

「辰夫さん!さすがです!」


「はっはっは!」

辰夫は得意そうに笑った。

その姿を見た私はイラッとしたが、出来る上司なので我慢した。


「さーてクリスタル珊瑚を採取しましょー!!!」

『「「はーい!」」』


その時!

「相変わらず騒がしいな…」

突然声が聞こえると、目の前の空間が割れ、1人の女が出現した!


「あ!面白お姉さん!こんにちは!」

「また会えたー!やったー!」

私と辰美は再会を喜んだ。


『…あ…あれが噂の…?…たしかに…私に似ている…』

エスト様は困惑している。


「この者…ただならぬ魔力ですぞ!」

辰夫は警戒している。


「我が名は【アミー】…そこのエストを創造した【魔神】だ。」


『え…創…造…?』

「魔神……神ってこと?」

「このとてつもない魔力は…皆!撤退を!早く!!!」

「えっえっ!?」


「エスト…お前は失敗作だ。ここで始末する。」

アミーは小さな声で言った。


ズンッ…!


『ぇ…いた…ぃ…』

その瞬間!アミーから放たれた魔法の槍がエスト様の胸を貫いていた。

『お、おねぇ…ちゃ…』


「小娘ッ!!!!!」

「エスト殿!!!」

「エスト様…?」


私は倒れているエスト様を抱き抱えた。

「い、息をしていない…そんな…エスト様が死んだ…?エスト様!エスト様ーーー!!!」


「ふむ…鬼の女よ。面白い成長をしているな。お前の存在はとても興味深い。もう少し様子を見させて貰おう。」


ドンッ!


アミーはそう言うと、衝撃波を放った。


「ぐっ…」

「ぐはッ!」

「きゃあ!」

その衝撃波が私たちを弾き飛ばした。


「……。」

そして、アミーはエスト様と空間に消えていった。


「エスト様!!エスト様ーーーーー!!!!!」

私はアミーとエスト様の消えた空間に向かい叫び続けた。



——魔王エストは死んだ。




(つづく)

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