#030 : 指名手配

(サクラ…あなたはやれば出来る子なのよ。常に前を向いて頑張りなさい。)


(お婆ちゃん!?ま!待ってよ!おばあちゃーん!)


「…はっ!」


ガバッ!…ガンッ!


「いたッ…」


私は亡き祖母の姿を追って起き上がると、何かに頭をぶつけた。


「…夢か…そうか…私はヤドカリになっていたんだっけ…ね…」


…ゴソゴソ…


私はヤドカリの外に出て、夜空を見上げた。


「逃げてちゃ…何も…解決しない…か……はは…また…助けられちゃったね…ありがとう…おばあちゃん…。」


その日の月はお婆ちゃんに黙って食べた…お婆ちゃんがとても楽しみにしていた どら焼き と同じ形をしており、とてもキレイだった。


「…ふふ。」

私はベッドで寝ているエスト様の頭を撫で、寝相の悪い辰美に布団を掛けると…


「どっせーい!」

…ヤドカリの殻を窓の外に投げ捨てた。


『「!!」』

寝ている2人がビクッと動いた。



——翌朝。


「起きなさい!いつまで寝てるんですか!?」


『…んん…あッ!!お姉ちゃんが復活してる☆』

「サクラさーんッ!!」

寝起きのエスト様と辰美が私の姿を見るや否や飛びついて来た。


「2人とも!な、何よ!あ、あれは静かなところで考え事をしてただけなんだからねッ!?」

『なんでもいいよーお姉ちゃん☆お姉ちゃん☆』

「サクラさん!サクラさん!」


「…ふふ…まったく…」

私は二人の頭を撫でながら微笑んだ。


「…さて!と!…借金返済のために活動開始しますよ!…辰夫!聞こえてるんでしょ?こっちに来なさい!」


…ダダダダダッ!…ガチャッ!


「サクラ殿!?…良かった…一時はどうなるかと…」

「サクラさん…!!……やっと…やっとその美しい姿を見れました…」

辰夫とジルが慌てて部屋に飛び込んで来た。


「…や!…ゃめてょ………ま、まったく…どいつもこいつも…私が居ないと何も出来ないのかなーー?」


私は照れ隠しするために窓の外を見た。

小鳥がそのさえずりによって清々しい朝を知らせてくれていた。

私は昨晩投げ捨てたヤドカリがジル家の庭の噴水を破壊しているのを見つけたが、何も見なかった事にした。

(後に借金に1000万リフルを追加された事を付け加えておくこととする。)


『あ、そうだ!お姉ちゃんも出てきたし、今日の実験は中止だね☆』

「ですな。」

「はい。少し残念ですw」


「ん?…実験?」


『えっと!今日はヤドカリお姉ちゃんを崖から海に投げ捨てたら出てくるのかー!?の実験だよ☆』

「「うんうん。」」


『でね?明日はヤドカリお姉ちゃんをドラゴン辰夫が高度1万メートルからキリモミ回転を加えて落としたら温泉を掘り当てる事が出来るのかー!?の実験だったんだよ☆』

「「うんうん。」」


「…あ…危なかった…お婆ちゃん…ありがとう…」

額から冷ややかな汗がたれると同時に、私は改めてお婆ちゃんに感謝した。


「はいはい!そんなわけで!冒険者ギルドに行って一発で10億のクエストを受けます。」

『ないだろそんなの☆』

「ふむ。地道に働くしかないですな。」

「ふひひ…サクラさんと冒険…」

「私は領主の仕事で行けませんが、ギルドへの道をお知らせしますね。」



そして、オーミヤの街の冒険者ギルドへとやってきた。


冒険者ギルドの中はたくさんの冒険者で賑わっていた。


「へぇーここが冒険者ギルド。」

『強そうな人たちがたくさんいるね☆』

「ふむ。そうですな。」

「まぁ私たちより強い冒険者は居ないと思いますけどね。」


ざわ!ざわ!

冒険者の一人が私たちの姿を見て言った。

「お!モンスター領主を倒した人たちだ!」

「おー!あの時のキレイな鬼の姉ちゃん!」

「へぇ…あれが…」

ざわ…ざわ…


「ふふ…すっかり有名人ね。仕方ないわね…こんなにも美しいのだから…」

『でもペッタンコ☆』

私は冒険者達に軽く会釈をし、そのまま小娘に頭突きをしてその場を切り抜けた。


まずはクエストを受ける方法を確認しなければならない。

「辰夫、辰美。クエストを受けるための手続きを確認して来なさい。」

「「はい。」」


辰夫達に指示を出し、私は掲示板(クエストボード)を見てみる。


「へぇ…色んなクエストがあるのね。…高額なのはどれかなっと……ん”……?」


私の目に とある依頼書が飛び込んで来た。


——その依頼書にはこう記してあった。



【魔王討伐 → 報酬:10億リフル】



「んん…?……うーん…?」

私は依頼書とエスト様を交互に見る。

エスト様は冒険者たちとはしゃぎ回っていた。


「エスト様!エスト様!ちょっと良いですか?」

『ん?なーに☆』


私はエスト様の耳元で小声で確認をする。

「あの…念のため確認なのですが、エスト様は魔王ですよね?」

『何をいまさら☆あったりまえなのだ☆』


「ですよね。えっと…あのクエストなのですが…」

私は魔王討伐の依頼書を指差した。


『ん?どれど…れ……ええ…わ、わたし!?…10億……?」

依頼書を見たエスト様がショックを受けていた。


そして、私は頷きながら尋ねる。

「…そのようです…それで、あのクエスト…受けますか?」

『受けないよ!』


「あ、すみません。私の言い方が悪かったです。」

『え?』


私はエスト様の両肩に手を置き、揺さぶりながら諭す。

「…魔王様…?…どうします?…自首…しますか?」

『しないよ!まだ何も悪いことしてないよ!』


私はアヒル口で確認する。

「…10億なのに?」

『捕まったら私はどうなるの?』


私はアヒル口で雑に答える。

「…VIPとして高待遇されるのかな?」

『いーや!疑問系ーッ!』


私は身構えながら裏声で言う。

「デタナ!マオウ!」

『ちょ!ここではシャレにならないからヤメロ!』


エスト様が手足をドタバタさせながら慌ててると、辰夫達が戻ってきた。


「お!何やら楽しそうですな。」

「あはは!ホントあの2人は仲が良いですよねw」



——こうして私は一発で10億の夢のクエストを諦めた。




(つづく)

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