#028 : 進化
モンスター化した領主を倒した後は、街で盛大な宴が行われた。
「あっはっはー!酒よー!お酒を持ってきなさーい!」
私は上機嫌で街の人々とお酒を飲んでいた。
『お姉ちゃん!飲み過ぎだよー☆』
「酔った勢いでサクラさんに密着せねば!」
とても嬉しそうにはしゃぐエスト様と鼻息荒く何やら企んでいる辰美。
「いやぁ…あははははは。」
街の人々と楽しそうに会話するジル。
わー!わー!
「この鬼の姉ちゃん!酒強すぎだろーw」
「わははははは!」
「でも!ぺったんこだよな!」
「わははははは!」
わー!わー!
ズガッ!!!
何人かドラゴンスクリューで地中に埋めたのを覚えている。
「……。」
辰夫はそんな楽しそうな私たちを見つめながら…水を飲んでいた。
コップに映った月がとても美しかった。
コップの月は落ちてくる涙によって、時折りその形を崩したが、すぐにまたその美しさを取り戻す。
…何度も。そう…何度でも…。
辰夫はそんな月に勇気をもらえた気がした。
そしてー。辰夫はとうとう労働基準局に行く決意をした。
…
その日の深夜、泥酔した私は、ジルの家の女子部屋で寝ていた。
するとその時…頭の中に天の声が響き渡った。
(アルコールの量が一定に達しました。サクラは次の役職である【酒呑童子】へと出世します。)
「ん…なんだよ?会社かよ?…むにゃむにゃ…」
私が寝ぼけながらツッコミを入れると、天の声が訂正を始めた。
(チッ…っせーなこいつ!……じゃあー?えっとー!…サクラは?一定の条件を満たしましたーぁ。んでぇーサクラはーぁー…唯一の個体であるーぅ?…【酒呑童子】へと進化しまーすーぅ。)
「今度は雑でイラッとするな…ん…?…進化…?むにゃむにゃ…」
天の声が適当にアナウンスをしたのを微かに覚えている。
…
そして翌朝、目が覚めると身体に変化が起きている事が分かった。
「あれ?あんなに飲んだのに…身体が軽い…?…んん?……あッ!そう言えば寝てる間に…出世だとか?…進化だとか?言われたよう…な…?」
すでに起きていたエスト様と辰美が【進化】と言う単語に驚いた。
『え!進化!?お姉ちゃん凄い凄い☆』
「進化って!めっちゃレアですよ!サクラさん!おめでとうございます!結婚してください!きゃ…言っちゃった…」
「…へぇ…そうなんだ…」
私は上の空で返事をすると、鏡を見てみた。
そもそも強くなる事にまったく興味は無い。
それもそのはず。強くなると前線で戦わなければならない。
危ないし、痛いしで、面倒なことこの上ない。
でもエスト様と世界征服という、この目標は達成したい。
だから私以外の誰かが頑張ってくれれば良いと考えているのだ。
「んー…?」
鏡に映った自分を確認したが、見た目に変化は無い。
しかし、筋肉が引き締まっている気がした。
そして!私はある事に気付いた!
「ぇ……きゃあああッ!?」
私が驚きの声をあげるとエスト様と辰美がビックリしながらこっちを見た。
『えッ?な!なに?』
「ど!どうしました?」
私は溢れる涙を堪え、震える声で2人に言った。
「胸が…胸筋が引き締まって…減ってない…?」
『減るも何も!元からあるか分かんねーから☆』
「ちょっと何言ってるか分かんない。」
こんな儚くも美しい涙を見た2人の口から、このようなとんでもない言葉が返ってきた。この2人には心というものが無いのか。
「…ほぅ…?」
私はコイツらを埋める決意をした。
しかし、その前に自分の身体の変化が気になった。
「それにしても絶好調すぎる…なんかスキル覚えたのかな?…とりあえずステータスを確認してみるか………ぁ!ステータスーッ!オープンッヌ!」
目の前にステータスウインドウが表示された。
私はマジマジとステータスを見る。
ーーーーー
★勇者・サクラの現在のステータス
・名前:サクラ
・種族:鬼族:酒呑童子 ← ☆New
・レベル:300
ーーーーー
「おお?鬼族の【酒呑童子】というものになってる!…おおお?…酒呑童子って…前世の記憶では確か…ヤマタノオロチの子で、鬼の中でも最強説があったはず!」
厨二病を拗らせている私なので、強くなる事に興味が無いとは言え、流石にこれにはテンションが上がった!
『「おお!最強の鬼☆」』
2人は興味津々だ。これからこの最強の鬼に埋められるのに。
「…んで…その酒呑童子さんの…効果はどこかな…っと…?」
私はステータスウインドウを下にスクロールすると、エクストラスキル欄に追加されているスキルを見つけた。
「お!あったあった!エクストラスキルだね!…どれどれー…?」
私は期待に胸を弾ませながらエクストラスキルを読み上げた。弾む胸は無いのに、である。
ーーーーー
エクストラスキル
酒豪 → 二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。← ☆New
ーーーーー
「ん…【酒豪】…で…【二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。】………?…なにこれ…ねぇ?…今、私の身に何が起きてるの?」
『よwww良かったねwwwいっぱいお酒飲めるねwww』
「ちょっとwwwなんで毎回笑わせるんですかwww」
「ほぅ…」
ドンッ!!!!!ドンッ!!!!!
2人は私のドラゴンスクリューを受け、回転しながら窓の外に放り出された。
窓の外では2人が頭から地面に刺さっていた。
それは、さながら墓標のようであったー。
「ホント!なんなんだよ!どうなってんだよ!この世界のシステムは!」
私は窓の外の2つの墓標を見つめ、手の汚れをパンパンと払いながら天の声の中の人の墓標も用意する決意をした。
「サクラ殿!?凄い音がしましたが!」
そして辰夫が慌てて部屋に入ってきた。
「ふん。なんでもないわよ。」
私は窓の外の2つの墓標を見つめながら言う。
「…そうですか…では。」
「あ。辰夫!」
私は部屋から出て行こうとする辰夫を呼び止めた。
「は、はい…?」
「…領主戦の時は……サポート…ありがとうね。」
私は窓の外の墓標から雲に視線を移しながら言った。
「…え…?…あ!は…は、はいッ!!!」
私の背中から聞こえた辰夫の声は、いつもより弾んでいる気がした。
…
ー そして、この時の私は忘れていた。
このステータス ウインドウがマルチタッチ対応デバイスである事を。
天の声の中の人の悪戯だろうか?二本指でタップして確認できる詳細には以下のような記載があった。
ーーーーー
エクストラスキル
酒豪 → 二日酔いになりにくくなる。肝臓大事。
(鬼剣舞 → 全ステータス2倍)
(鬼ころし → 鬼系モンスターへの攻撃力2倍)
(鬼山間 [赤ラベル] → 酔えば酔うほど強くなる)
ーーーーー
私がこれに気づくのはだいぶ先のお話。
(つづく)
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