#027 : 影

領主は私を睨みつけている。

「さて…鬼の女よ…どう始末してやる…か…ぐははー…」


「えっと…ぁッはは…あー怖い怖い………辰夫!」

私は領主への警戒はそのままに、横目で辰夫に声をかけた。


「はい!」

「エスト様の気を引いて。理由は分かるな?」

私は小声で辰夫に指示を出した。


「…なるほど。わかりました。」

私の意図を察した辰夫はエスト様に話しかける。


「エスト様。ち、ちょっと相談があるのですが…。」

『なになに?辰夫!今じゃなきゃダメなの?見えないよ!?』

「実は…バイト先に最近ちょっと気になる娘がいまして…。」

『なになに!?恋バナ?恋バナ?早く!早く!』


(ッ…ははッ!辰夫 上手い上手い!)「…よし!辰美は私と一緒に…ッ魔法を放てッ!」

私はエスト様と辰夫の恋バナの様子を横目で見ながら、辰美に魔法を放つように指示をだした。それとエスト様の将来が心配になった。


「はいッ!ファイアアロー!!!!!」

辰美が魔法を放つのを確認し、私は魔法を合わせた。

「よし!ライトアロー!!!!!」


領主の左右から魔法が襲ってくる!

「…ぐ…くそッ!」

領主はこの魔法攻撃に困惑した。



ボンッ!!!ドンッ!!!



領主は左右から魔法を被弾し、体制を崩した。

「ぐっ…がぁ!」



「え!?サクラさん?今のは光魔法?…ゆ、勇…「説明はあとね。」

驚く辰美の肩をポンと叩きウィンクをすると、

「ジルにも後で説明するから!とりあえず今は動くな!」

領主の隙を伺っていたジルにも指示をだした。


「は、はい!わかりました!」(気付いてくれてた。嬉しい…)

ジルは驚いて返事をした。


私は体制を崩した領主を確認すると、辰美の両足を掴んだ。


ガシッ!

「え?は?なッ…嬉し…な!なんですかーーーーー♪」

辰美は慌てたが嬉しそうに叫んだ。


私はそんな辰美を見てニヤリと笑ってから領主に叫んだ!

「…ふっはっはーーー!喰らいなさい!私と辰美の合体技!【ビックバン☆辰美アタック!】

辰美に回転を加えて領主に投げつけた!


「きゃあー!あ!ありがとうございますううううう♪」

何故か喜ぶ辰美が領主めがけて飛んでいく!


ギュルルルルルッ!!!!!


「そして…避けられないように…念のため【フラッシュ!】」

慎重で美しい私は光魔法で目眩ましをした。


ピカッ!!!!!


「ぐわっ!」

辰美の背後が激しく光り、領主は目を抑えた。


「領主さん!危なッ…いーーーーーィッ!!!!!」


ドンッ…!!!!!

辰美は叫びながら領主に衝突した。

「ぐぁッ!!」


…無事に辰美は領主に命中し、領主は大きくよろけた。


「にゃッはははー!スットラーーーイク!そしてーーーーー!チャーンス!到☆来ッ!」

好機と判断した華麗で美しい私が追い打ちをかける。


「へのつっぱりはぁーーーーー!…いらんですよッと!」

領主に駆け寄りながら貝殻を纏った拳での右ストレートをその顔面に叩き込んだ!


ガンッ!!!!!

ドンッ!!!!!

パンチに弾かれた領主は地面に叩きつけられ、動きが止まった。


「ふう…倒した…かな?………んー……………」


「…。」

ドンッ!!!!!

「…ぐがっ!」

念のためエルボードロップをしといた。


「…。」

ドンッ!!!!!

「…ちょっ!」

念のためエルボードロップをしといた。


「…。」

ドンッ!!!!!

「…も…やめっ!」

念のためエルボードロップをしといた。


「…。」

ドンッ!!!!!

「ご…ごめ…ッ!」

念のためエルボードロップをしといた。


「…。」

ドンッ!!!!!

「………。」

念のためエルボードロップをしといた。


「…こ…怖い…む…無言で…淡々とエルボードロップを繰り返している…」

「サクラさん!領主さんが死んじゃう!」

エルボードロップを連発する私を見てジルは怯え、辰美が領主を庇った。


「ふぅ♪ もういいかな♪ …はぁ…♪…スッキリッ♪」

私は新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のように爽やかな気分となった。


すると…領主の影が動き出した!

そしてその影から声が聞こえる。


「なるほど。人間の身体ではこんなものか…。」


聞き覚えのある声だった。

「…ん!あ!辰美!この声!エスト様に似てる面白お姉さんの声だよ!」

「あッ!お久しぶりです!お元気でしたか!?またお会いしたいので、是非いらしてください!」


「……くっ……ぷぷ…クソッ!…思い出し……調子が…狂…うぷぷ…覚えてぷ!」

そう言い残すと影は消え去った。


「「覚えてぷ!www」」

やっぱりお姉さんは面白いなーと、私たちは思った。


影が消えると領主は人間の姿に戻った。

それを見た街の人々は安心したのか、歓声をあげた。


わーわー!

「おお…!領主様が戻った!」

「あの鬼の人…カッコよかった!」

「街を救ってくれてありがとう!」

「体当たりも凄かったよ!」

「光魔法使ってなかった?」

「気のせいだろ?遠くてハッキリ見えなかったしな!」

わーわー!


「わぁぉ…」

「あはは…」

私と辰美が照れていると、

『…あれ?もう終わっちゃった?』

「ふむ。そのようですな。」

エスト様と辰夫が戻ってきた。


わーわー!

「お嬢ちゃんも魔法のバリアありがとうね!」

「バリア凄かったよー!」

「あれ?そこの竜人族の男は何もしてなくね?」

「この非常時に恋バナの相談してたよ!」

「はぁ?ふざけんな!卵投げろ!卵!」

わーわー!


「…ふむ……良い天気…ですな…」

辰夫は空を見た。

ー それは涙が溢れないようにする為だった。


ここでジルが動く。

「皆様!見ていたのでお分かりになると思いますが、この方々は決して悪い人たちではありません。私の大切なお客様ですので、どうか受け入れていただけますよう、お願いします。」

ジルが最高のタイミングで私たちを紹介した。


わーわー!

「ジル様!この方々を連れてきてくれて助かりました!」

「そうだよな!この方々が居なかったらこの街は消えてたよ!」

「えっと!でもさ!そこの竜人族の男は何もしてなくね?」

「だからこの非常時に恋バナの相談してたよ!」

「はぁ?ふざけんなよ!石投げろ!石!」

わーわー!


「…ふむ……太陽が…眩しい…な。」

辰夫は再び空を見た。


ー 辰夫を照らす太陽はとても優しかった。




(つづく)

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