#025 : 殻
「はぁはぁはぁ…ぐっ…こ…これは…?……ジ…ジル…?…や、やって…くれまし……たね…」
『お姉ちゃん!?』
「サクラ殿!!!」
「サクラさん!?」
(ダメだ…意識が遠くなる……私は…エ、エスト様と…一緒に…世界を…征…ふ…)
遠のいて行く意識の中…ジルと目が合った…。
ジルは黙って私を見つめていた ーー。
…
ーー 話は数時間前に遡る。
…
無事にオーミヤの街に入った私たちはジルの家に着いた。
「さて、着きました。ここが私の家です。とりあえずはここを拠点にしてください。」
ジルはそう言うと、分厚い門を開けた。
『「「「えぇっ!?」」」』
『なにあれ?水たまりの真ん中から水が飛び出てる!』
「敷地だけで東京ドーム1個分はあるんじゃ…?」
「これは凄いですな…。」
「ほぇー…」
私たちはとても驚いた。ジルが案内してくれた家は大豪邸だったのだ。
「ジル!あなたは貴族ってやつなの!?」
「えぇ。まぁ…そうなります…ね。」
私の問いにジルは照れ臭そうに答えた。
「…そ、そうなんだ……ふーん…」
(どうする…?このままジルと結婚すれば大金持ちよ?一生遊んで暮らせるわよ…でも!でも!好きでもない男と結婚なんて!でも憧れの左団扇…いや!ダメよ!冷静になれ!私!……女の夢の玉の輿……ダメダメダメッ!……毎日高級料理…3食昼寝付き……ダメよ!ダメだったら!私たち…まだ付き合ってもいないんだもの!)
「だから…ダメだーーーッ!」
私は頭を激しく振って雑念を追い払った。
「…はふぅ…危なかった……ふふ…ジルよ!…そんな事では私の心は動かなくてよ!この私も安く見られたものねッ!」
「え…?私は何も…」
私がジルを睨みつけると、ジルは激しく動揺した。
『なんか凄い葛藤してた☆』
「玉の輿とか考えてたのでは。」
「強力なライバル出現だわ…」
ツッコミトリオは今日もちゃんと仕事をしている。良い傾向だ。
「…ま、まぁ、とりあえず中に入りましょう。」
そうこうしてるうちにジルが仕切り直した。
屋敷の中に入ると、執事らしき人が出迎えた。
「お帰りなさいませ。ジル様」
「アルフレッド。ただいま戻りました。この方々は私の大切なお客様です。丁重にもてなしてください。」
「畏まりました。」
アルフレッドは私たちにお辞儀をし、そしてとても柔らかな口調で話した。
「ジル様の執事のアルフレッドと申します。皆様の身の回りのお世話をさせていただきます。宜しくお願い致します。」
『「「「あ!はい!宜しくお願いします。」」」』
私たちもつられてお辞儀をした。
…
これからの事は明日考えることにし、旅の疲れを浴場で流すことにした。
浴場にはエスト様と辰美と入った。
『ふんふんふーん♪ 人は皆ー♪ 悲しみをー♪ 抱いているのさー♪ お山が無いよー♪ ぺったん♪ ぺったん♪ ぺったんこー♪ 』
「おい!小娘ッ!今すぐその不快な歌をやめろッ!」
「さ、サクラさんとお風呂…は、鼻血が…」
「辰美!お前の視線が気持ち悪いッ!」
浴場は鮮血に染まった。
今後、こいつらと一緒に入ることは無いだろう。
…
そして、ディナーの時間となった。
ジルが自慢気に料理の紹介をする。
「ここ、オーミヤの街では海の幸が名物なのです。シェフが腕によりをかけて作った我が家の自慢の海鮮料理をご堪能ください。」
「へぇ…海鮮料理か。初めてですね。エスト様。」
『そうだね☆』
私が海鮮料理に舌鼓を打っていると、突然!天の声が脳内に響き渡った。
(サクラは スキル :【殻体】 を習得しました。)
「ん…なんかスキル覚えた…けど……」
『お!久しぶり☆』
「……嫌な予感しかしない…とりあえず確認してみますか……ぁ!ステータスッ!オープンッヌ!」
『その掛け声も久しぶり☆』
目の前にステータスウインドウが展開される。
私は恐る恐る【殻体】の詳細を見てみた。
【殻体 : 炭酸カルシウムを消費して、自身に貝殻を作れる】
「か!?貝殻!?………を作れる!?」
『…お姉ちゃんが貝殻作れるようになっちゃったwww』
「…ッ…ッ…ぶははーッwww」
「ごめんなさいサクラさんwwwこれは笑うwww」
「え?え?」
人の不幸を爆笑する一同と、何がなんだかわからないジル。
コイツらは明日、死の直前まで貝殻で殴り続けると決めた。
それにしても…なんということだ。
またしても【究極生命体(アルティミット・シイング)】に近づいてしまったのだ。
この世で自分1人だけ特殊な生態系に分類されてしまっている私の【絶望感】と【孤独感】は誰にも理解できないのだ。
やがてこの感情は過呼吸を呼び、私の意識を遠くへと誘った…
「はぁはぁはぁ…ぐっ…こ…これは…?……ジ…ジル…?…や、やって…くれまし……たね…」
『お姉ちゃん!?』
「サクラ殿!!!」
「サクラさん!?」
「えーッ?」
完全に八つ当たりで濡れ衣を着せられたジルは何がなんだかわからず立ち尽くしていた。
ー その後、目覚めた私は 日本酒 の【鬼ころし】を飲みながら泣いて寝た。
「チクセウ…チクセウ…何なのよこの身体は…うっうっうっ…」
『「「「鬼が 鬼ころし を飲んでるwww」」」』
「てやんでぃ…ばーろー…チクセ……ぐっ…ぐがッ…Zzz…」
『「「「酒クサッ」」」』
…
一方その頃、領主の館では。
領主は焦っていた。
討伐依頼をした王国騎士軍精鋭部隊と音信不通になっていたからである。
「ううう…まさか…全滅…したのか?…このままでは…あの鬼が…また私の前に…来る…来てしまう…!あああ…どうすれば…どうすればいいのだー…」
領主が頭を抱えていると…その時!領主の影が動き出し、領主を襲った。
「ふははははは!領主よ……お前には…特別な力を与えてやろう!」
「…ひッ…うわあー!うわあああああああああああああ!」
翌日。
館に領主の姿は無かった ー。
(つづく)
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