#024 : 街へ

領主の差し金で命を狙われた私たちはとにかく早く領主にお礼を言いたくなったので、ドラゴンフォームの辰夫と辰美に乗り、旅路を空路へと変更した。



やがて潮の香りとともに、領主の居る街であるオーミヤが見えてきた。

オーミヤは海に面した大都市であり、巨大な壁に囲まれていた。


『あれが領主のいる街かー!うわー大きいねー☆後ろのは水?大きい!すごーい☆』

エスト様が風に靡く髪を掻き上げながら言った。

声が弾んでいる。どうやらこの旅は正解だったようだ。


「エスト様。あれは海と言います。こっちもそうかな?全部塩水なんですよ。」

「そうです。塩水です。」

辰夫が答えた。


『へぇー!あとで行ってみたい☆』


はしゃぐエスト様を見れた私は嬉しかった。

と、同時に地球を思い出した。


「久しぶりに見たな…海…この世界にもあったんだね。」

「この世界…?」

私がボソッと言うとジルが疑問を抱いた。



どうやら街に入るには検閲が必要となるようだ。

私たちは街の手前で降り、作戦会議を開く。


『これは私たちがそのまま入ると大騒ぎになるやつだね☆』


「うーん…その辺の人間を人質にして領主のところまで行きますか?それとも魔王軍を召喚して強行突破しますか?私的には前者の方が簡単かなと思います。あ、後者の方がそのまま領土を奪えるか…悩みますね。」


『危険思考やめろ☆』


「あッ!では!ドラゴンの姿の辰夫と辰美にこの街を襲わせて、それを私たちが助けて英雄になるというのはどうです?…辰夫!辰美!半殺しくらいにとどめておくので、タイミングよく退散して人型になって戻ってきなさい。」

私は辰夫と辰美に向かって最高の笑顔を振りまいた。


「ええ…」

「そんなご褒美!良いのですか!」

怪訝そうな辰夫の横で辰美の目が輝いていた。

どうやら辰美は大人になってしまったようだ。


「あのー…空から領主の家に行けば良いのでは?」

辰夫がボソッと言った。


『おおッ!一番まともな案が出た☆』


「な、な!ななな!辰夫のクセに生意気だぞ!トカゲ!このトカゲめ!エスト様!その案は今ちょうど私が言おうとしてましたッ!」


「辰夫さん!ご褒美が無くなります…」


驚くエスト様の横で悔しがり罵倒してくる私とその横でガッカリする辰美を見ていた辰夫は「このパーティはもうダメだな…いや…最初からかな…」と思ったところで、糸目のジルが口を開いた。


「えと、良いですか皆様。どの案も人々を怖がらせる事になり、街全体を敵へと回す事になります。私が交渉してみますので、普通に街に入りましょう。そこで、こちらのフードをかぶって正体を隠してもらえますか。」

糸目のジルはそう言うと、私たちにフードを渡した。


『ジルさん有能☆』

「ふむ。ツノは隠れるけど、逆に怪しくない?」

私はフードを受け取り、ジルの縄を解きながら疑問を投げかけた。


「まぁ…モンスターという事でそこで戦闘が始まるよりはマシかと。とにかく交渉します。必ず愛しのサクラ様のお役にたってみせますよ。」

ジルはウィンクをしたようだが、糸目だからよくわからなかった。


「ぇ…ち、ちょっと…ゃめて……ょ…」

色恋沙汰経験値が全く無い私はモジモジしながら応えた。


「サクラさんが困ってるだろ!そういうのやめろ!でも可愛いサクラさんをありがとう!」

辰美の情緒が仕事をしていない。


『大丈夫かな…』

「不安しかありませんな…」

エスト様と辰夫は溜め息をついた。



ジルを先頭に街の入り口の鉄門に着くと、すぐに検閲の兵士がジルに気付いた。


「これはジル様!ご苦労様であります!」

「はい。ご苦労様です。この方達は私の大切なお客様です。急用がありますので、すぐに街へ入りたいのです。通してもらえますか。」

ジルはフードを被った私達を見ながら言った。


「なるほど…しかしながら…ジル様の客人となれど、その素性を確認しないわけにはいかないのですが…」

兵士が困惑した顔で言った。当然である。


「聞こえませんでしたか?私の大事なお客様だと言いました…私に恥をかかせる気ですか…!」

ジルは言葉に殺気を込めながら言った。

私は糸目が開くのを期待しながら見ていたが、開かなくて残念だと思った。


「ひッ…わ、わかりました!お通りください!」

「私の顔を立ててくれてありがとうございます。このお礼はいつかお返ししますよ。…さて、それでは皆様。参りましょう。」



無事に街の中へ入れた。


「ふぅー………なんとかなりましたね。」

ジルが緊張を緩めながら言った。


『ジルさん凄い凄い☆』

「ふ、ふん!な!なかなかやるじゃない!で、でもまだ認めたわけじゃないんだからねッ!」

「大騒ぎにならずに良かった…」

「ツンデレサクラさんが尊すぎる…」


私たちが安堵してると、ジルが言葉を続けた。


「さてと…とりあえず私の家に行きましょうか。」


『「「「ジルさんマジ有能すぎる!!!」」」』


私たちは口を揃えた。



(つづく)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る