#023 : 王国騎士軍精鋭部隊
リンド村を出た私たちは領主の住む街を目指していた。
この世界にも四季があるのだろうか。
陽射しがやや強く、少し暑くなってきた。
とても良い天気だ。
こんな日は光合成が捗る。
…エスト様の気も紛れると良いな。
「エスト様。気分はどうですか?」
『今日は気持ち良い日だねー☆』
エスト様が笑顔で応える。
「エスト様。歩くのに疲れたら辰夫に乗れば良いですからね。」
「む?うむ。」
『うん。ありがと☆でも今はちょっと歩きたいよ☆』
良かった。良い気分転換になってそうだ。
それより気になるのは辰美だ。
何故かずっと私の着物の袖口をつまんでいる。
「ねぇ……辰美?…これ…なに?」
私は辰美がつまんでいる部分を指差しながら言った。
「な、なんでもないです!ご!ごめんなさい!」
辰美は慌てて手を離した。
「変なの…」
私は首をかしげた。
「…。」
辰美は耳たぶまで真っ赤にし、しばらくうつむいていた。
しばらく初夏を満喫しつつ歩いていたが、その時。
乱視を克服した私の目が周囲の殺気を捉えた!
「ん…?……小娘ッ!トカゲ共ッ!囲まれてます!
『乱視が治ると殺気が見えるの!?乱視ってなに!?』
この非常時にも正確にツッコミができるエスト様。
嗚呼…やはり私にはこの方が必要なのだ。相方として。
「トカゲ共…。」
「あぁもう!ありがとうございます。」
辰美の様子がやはりおかしい。
私は腹を括り、声を張り上げて言った。
「……うーん…仕方ない。やりますか……はぁ…めんどいな…………私たちを取り囲んでいるのは分かっています!何の用か?」
すると、1人の男が近づいて来た。
「ほうほう。まさか我らに気付くとは。」
男は近づきながら話を続ける。
「私たちは王国騎士軍精鋭部隊です。私は部隊長のジルと申します。
「領主の依頼な。」
『領主の依頼だ☆』
「領主の依頼か。」
「領主の依頼ね。」
男は腰の剣を抜きながら歩み寄ってくる。そしてこの男の余裕な態度に私のイライラ度はマックスに達した。
「我々のモンスター対策は万全です。完全に取り囲んでいます。こちらとしても無駄な消耗は避けたいので、大人しく投降してくれるなら命まではとりませんよ。」
なるほど。随分と優しい。
これが騎士道なのかな?糸目だから怪しいけど。
「ほ、本当ですか?良かった…お助けください!糸目の騎士様!…大人しくします!ですから…どうか命だけは……私はただ、こいつらに脅されて連れ回されてる哀れで美しい鬼なのです…。」
『…ん?…そ、そうだね…死にたくないもんね…』
「…なるほど?…分かったから好きにしろ。」
「…はぁ?…そうか。やっぱりこうなるのか。はいはい。」
小娘達も私にしたがう。
「ふむ。物分かりの良い人たちで良かったです。では、捕まってください。おい!対象は投降した!縄を持ってこい!」
部隊長の糸目のジルは大声で叫んだ。
同時に周囲の殺気が緩んだように感じた。
「あの…糸目の騎士様…?」
「なんでしょう?」
糸目のジルが返事をしたその瞬間!
「…肩でも揉みましょう………カッ!?」
私は男の右足を掴み内側に錐揉み回転をした!
そうだ!得意技のドラゴンスクリューだ!
グリン!!!!!ズガッ!!!
「ムタッ!?」
糸目は騎士らしくない声を出すと地面に頭から突き刺さったまま動かなくなった。
「カッカッカッーーーーーッ!ぶぁーーかーめーぇー!!!騎士道ー?…ご立派でーすねー!カーーーーーッカッカッカッ!!!」
『ヒロインの笑い方じゃない☆』
「はっはっは!やけに素直だったからな。」
「卑怯なサクラさんカッコよすぎ!」
「あとは気持ちの切れた周囲の雑魚掃除よ!辰美は小娘と空へ!小娘は空から魔法!辰夫は適当に暴れてこい!」
『あい☆』
「応。」
「はい!」
…
そんなこんなで私が30人ほど地面に突き刺したところで勝利した。
「うーん…エスト様。こいつらどうします?ダンジョン開墾の為の労働力にしますか?」
『そうだね☆お迎え呼ぶよ!【百鬼夜行】☆サタン!』
エスト様はサタンを召喚した。
シュバッ!!!
瞬間!サタンが現れた!
サタンは昼ドラを観ている主婦のように寝転んで煎餅を咥えていた。
「んなーッ!?こ…ここは!?」
慌てたサタンがキョロキョロしながら言った。
「ほぅ。真昼間からサボりか?」
私は刀を抜きながら言う。
「いや、あはは…魔王様…サクラ様…この突然召喚するやつ、こちらの事情も考慮してもらわないと困ります。」
サタンはゆっくりと起き上がりながらクレームをつけた。
『えー…めんどいし☆』
「お前が意見するな!」
「申し訳ありませんでした。」
私が一括するとサタンは黙った。
ざわざわ…
「「え?魔王…?」」
「「魔王が復活していたのか…?」」
「「ど、どっちが魔王なんだ…?」」
ざわざわ…
正座している精鋭部隊がエスト様の正体を知ると怯えだした。
『とりあえずサタン!この人たちを連れてってお仕事を与えて☆』
「畏まりました。魔王様。【眷属召喚】!」
無数の悪魔が現れた。
「「ひ!ヒィッ!」」
「「いやだ!助けてくれー!」」
精鋭部隊は絶望した。
「ふふ…私たちの命を狙って来たんだ。殺さないだけありがたく思うことね。」
私は部隊長の糸目に刀を突きつけながら言った。
しかし、糸目は私の話には上の空の様子で私をジッと見つめながら想定外の返事をした。
「…美しい……そして強い……どうやら私は貴女に惚れてしまったようです。どうか私を貴女の側に置いてくれませんでしょうか?」
「え?なッ…?…はい?ちょ…やめてょ…そういうの…ゃめなょ…」
突然の告白に私は慌ててうつむいた。
転生前からこの性格が禍いしてか、色恋沙汰とは全く無縁なのである。
「だ!ダメだ!サクラさんは私の……えっと…と、とにかくダメだッ!でま今のサクラさん可愛い!それはナイス!」
そしてその横で辰美の心が壊れていた。
『お姉ちゃん。罠のような気もするけど、糸目のジルさんは一緒に連れてった方が街に入りやすくなると思わない?』
エスト様が提案した。
「なるほど。一理ありますな。」
辰夫も相槌をうった。
「エスト様!?どうしたのですか?小娘のクセに頭めっちゃ良い!小娘のクセにッ!やっぱり体調が優れないのですかね……それと辰夫は黙れッ!」
私はエスト様の成長に震えた。
エスト様と辰夫も震えていた。
「うーん。とりあえず縛ったままで連れて行きますか。…辰夫!この糸目をしっかり見張りなさい。言っとくけど、糸目は絶対何かあるからね。目が開いたらめっちゃ強いとか、目が開いたら裏切るとか。目が開いたら第二の人格が現れるとか。」
「承知。我もこの男には何かを感じます。」
私がフラグを立てていると、辰夫が返事をした。
「ありがとうございます。私はサクラ様の忠実な僕として生きて行きましょう。証明して見せますよ。」
糸目は言った。だが、まだ目が開いてないので真偽は分からない。
「私もサクラさんに縛られたいなー。」
辰美がボソッと言った。辰美はもう色々ダメな気がする。
…
さてさて、そんなわけで領主に挨拶する楽しみが増えた。
(つづく)
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