#020 : 領主
村に温泉施設が完成し、商人や旅人からまたたく間に噂が広まり、リンド村は温泉観光地として賑わうようになってきた。
観光客の中には私たちの姿に驚く人も居たが、村人達のフォローもあり、大きな騒ぎにはならなかった。
「うんうん。良い感じね。」
…
この日も私はいつものように、村の広場でハカセに勉強を教えていた。
(ふーん。頭の回転が早い子ね…。これは拾い物かもしれないわね…?)
ハカセは飲み込みが早く、とても教え甲斐があった。
道ゆく村人も不思議そうに私たちのことを覗き込んだり見学したりしている。
(狙い通りね。もっと見なさい。興味を持ちなさい。)
村の広場を使っているのには、とある理由があった。
—— 話は少し遡る。
…
私はいつもの散策で村の状況を理解したところでエスト様に とある提案をした。
「村の状況がだいたい理解できました。そこで!私から提案があるのですが…聞きたいですか?なぁ?…おいぃ!聞きたいよな?聞きたいって言えよッ!お願いしますが聞こえねーな?あ?」
私は耳に手を当て返事を確認する。
『はい と言わないとめんどくさいやつ☆』
「そこまで言うなら仕方ないな?特別だからな?感謝しろよ?…な?」
『はい と言ってもめんどくさかった☆』
私はメガネをクイックイッしながら話を始めた。
「…オホン!……えー…まずですね…文字を読み書き出来ない人が多すぎます!村人の識字率を上げましょう。
…文字を読み書き出来れば、コミュニケーションの幅が広がるのです!
具体的には、戦争になった時に紙で作戦を伝える事が出来るようになります。
口頭で作戦を伝えるよりも間違いや勘違いは無くなるので作戦の成功率が上がります。」
私は話を続ける。メガネクイッの速度も上がる。
「そっしってっ!計算も出来るようにしましょう。
…計算を下地に、論理的思考力を養うのです。
具体的には戦争になった時に敵にトドメを刺す事にためらいがなくなります。」
「さっらっにっ!育成しつつ、才能のある者を見極め!魔王軍にスカウトします!
…ゆくゆくは役職を与えて部隊長や軍師にしたり、平気開発を進めるのも良いですねッ!」
演説を終えると、私は鼻息をフンスフンスしながら最高のドヤ顔をキメ、メガネを外した。
『…全部……戦争前提だった☆』
「しかも村人を兵士にして、村を兵器工場にする気ですな…」
「魔王様が2人…?…あれ?」
辰美は混乱した。
「ところで、私は何故か会話は出来てますが、読み書きは出来ないので、私も文字を覚えるところからになりますけどね。」
『あ☆お姉ちゃんがこっちの世界の言葉を理解出来るのは召喚時のギフトだよ☆』
「ギフト…?あれ?…そんな仕組みが…?では…なぜ!そんなしょうもないギフトより……なんで…なんで…Fカップにしてくれなかったんですか…?」
私はエスト様の両肩を激しく揺らしながら尋ねた。
『え?しょうも…え?…そ…そうなの…?異国でコミューケーション取れる方が…あれ…?ご、ごめんなさい…?』
エスト様は困惑しながら謝った。
…
と、このように村人改造計画を実行中なのだ。
広場で勉強を教えるのには村人に勉強に対して興味を持ってもらうためだった。
頭ごなしに「勉強教えるから来い!」なんて言っても絶対に来ない。
人は抑えつけると反発するものだ。
ふふふ。私はなんて賢いのだ。
ゆくゆくは学校のような形にし、村のレベルアップを図る予定だ。
…
すると、村長が慌てて走って行く姿が見えた。
「あ?村長さーん?どうかしましたかー?」
「おお!サクラさん!実は突然 領主様が温泉の視察に来られまして…色々準備をしなければならないところなのです。急ぐので!それでは!」
「あ、はい。」
村長は慌ただしく走り去って行った。
「ふーん。領主…ねぇ………?………あ!ハカセ!ごめん!急用思い出したから今日はここまでね!」
「あ!はい。わかりました!今日もありがとうございました。」
…
私は急いでエスト様の元に戻った。
「エスト様!エスト様!なんと!この村に領主が来ているみたいです!」
『ん…え…?』
エスト様はキョトンとしている。
「これはチャンスですよ!」
私はエスト様の両肩に手を置いた。
『え?なんで?』
「いやいやいやーッ!エスト様の目的をお忘れですか?…世界征服でしょ?しっかりしろよ!眠たいんか?やる気あるんか?…お?…小娘がッ!!!」
両肩に置いた右手をエスト様の顎にスライドさせ、アゴを持ち上げた。
『たまにひどい毒を吐く☆』
「たまに…ですか?」
辰夫が確認した。
私は両腰に手を当て部屋中をスキップをしながら言う。
「なのでーッ↑ 領主にはーッ↑ 行方不明にーッ↑ なってもらいーッ↑ 私たちでーッ↑ その領土をーッ↑ 奪い取るのでーすッ!ピースピース!ブヒーブヒーブヒー!」
『…それは笑い声なの!?…お…お姉ちゃんに豚の悪魔が…?』
「サクラ殿…?」
「あれ…どちらが魔王様でしたっけ?」
辰美は再度確認が必要だと思った。
気を取り直したエスト様が言った。
『まぁ行方不明にはしないけどさ☆ 挨拶はしといた方が良いよね☆いつか侵略するんだし☆』
「ですよね!ですよね!」
私は両手を併せてピョンピョンしながら喜んだ。
「「…。」」
私たちが キャピキャピ している様子を辰夫と辰美はヤメトケという視線で見ていた。
『そうと決まればー!レッツゴー☆』
「はいな!…………ん?ほら、辰夫と辰美も行くんですよ!さぁ!ホラ!早く早く!」
「「…。」」
辰夫と辰美は絶対トラブルになるから心の底から行きたくないと思った。
(つづく)
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