#018 : 魔王軍

私と辰美は北の山からリンド村への帰路に着いていた。


「辰美。これからは村で人間と暮らす事になるけど、辰夫と同じく、人型にはなれるよね?まぁ…なれなくても力技で人型にするけどなぁ…?」

私は歩きながら辰美に尋ねると、刀を舐めた。


「ひぃ!り、竜人族の姿になれます!」

そう言うと辰美は人型に変身した。


「…お?」

竜人族の辰美は私と同じ10代後半くらいの姿だろうか。

髪は赤い色のショートヘア、ややキツめの目つきがとても美人である。



ー そして…私は胸に目を移す。



「……辰美ーーーーーぃッ!」

「は、はい!?」


「……私たち…ずっと親友だぜ…?」

私は最高の笑顔で親指をグッてした。


「くっ…」

辰美は自分の胸を押さえた。


そう——。

辰美もだった。


上機嫌の私はスキップしながら辰美に話す。


「いやぁ良かったよー主人より大きかったらさーぁー?刀で切り落とす必要があったからさーwww…………あ!…首をな?」

私はスキップを止め、刀を舐めながら言った。


「ひぃッ…」

辰美はペッタンコで良かったと心から思った。


そして、私たちはリンド村に戻った。



村長に火竜討伐の報告し、この一緒に居るのがその火竜だと告げ、慌てる村長を尻目にしつつも、いつもの宿屋に着いた。


「エスト様。ただいま戻り……あら…ふふ…。」

部屋に戻るとエスト様はベッドで寝ていた。


「ああ…この方が、魔王様ですね。…なるほど…確かにさっきの面白い人に似てますね。」

辰美はエスト様の寝顔を見て言った。


「あらあら。お腹を出しちゃって…風邪をひきますよ。」

私はエスト様が風邪をひかないようにと、そっと布団をかけた。


「ふふ。可愛い寝顔ですね。」


「ツノがあるだけで普通の女の子ですね。」

辰美が言った。



『…うーん…?』

そしてエスト様が目覚めた。


「お目覚めですか。エスト様。ただいま戻りました。」

『あ!お姉ちゃん☆おかえりー☆』


「火竜討伐に行って、火竜を配下にしてきました。あと…こないだの酒場の冒険者3人も成り行きで…」

私はちょっと残念そうに戦果を報告した。


『おおー☆さすがお姉ちゃん☆』

「辰美。自己紹介を。」


「はい。火竜の辰美…と言います。特技は火を吹く事です。好きな食べ物はタマネギ、嫌いな食べ物はピーマンです。宜しくお願いします。」


『私は魔王のエストだよ☆よろしくね☆』

エスト様は嬉しそうに笑った。



少ししてから私はエスト様に似た面白い人のことをはなした。

「というわけで、その人がめっちゃ面白かったのです。」


「私!あの人にまた会えたら友達になってもらおうと思ってます!」

私が説明を終えると、辰美は目を輝かせながら言った。


『うーん…私に似てた…かぁ…心当たりが無いなぁ…』

エスト様は首を傾げていた。


「そうですか。まぁ、また来るみたいな事を言ってたので。」



次に、本題である温泉の報告をした。


「エスト様。北の山で温泉を掘り当ててしまいました。そのお湯をこの村と常闇のダンジョンの2引っぱる工事をしたいのですが、常闇のダンジョンの魔王軍を使っても良いですか?人間に見られないよう、夜にこっそりと工事をする予定です。」


「おお…。」

辰美は魔王軍にそんな使い方があるんだ!と、関心した。


『うん!いいよー☆でも、村は分かるけど、ダンジョンに温泉を引いてどうするの?』

エスト様が疑問を投げかける。


私は「よくぞ聞いてくれた小娘!」というドヤ顔で語り始めた。


「温泉は魔王軍のモンスターへの福利厚生的な意味合いとなります。魔王軍に少しづつ娯楽を増やして行きましょう。」


私のドヤ理論は続く。

「ダンジョンの周辺をモンスターの村にします。将来的にこの村と繋げて、人とモンスターが共存する街にしたいと考えてます。」



さらにドヤ理論が続く。

「その為にも我々がこの村で安全な存在であること、有益な存在であることのアピールをし続けなければなりません。まぁ…これを実現するには…課題はたくさんあると思いますけどね。」


『おおお☆えっと…確認なんだけど…あなたは…サクラお姉ちゃん…だよね?』

エスト様は疑いはじめた。


「黙って聞け!小娘が!」


『あ!お姉ちゃんだ☆』

エスト様は私に抱きついてきた。

ツノが脇腹に刺さって痛かった。


「村側の工事は辰美と3馬鹿にやらせましょう。常闇のダンジョン側はワイトとサタンに。私は村長に話を通しておきます。」


『わくわく☆』


「ちなみに辰夫は今のバイトを続行です。私たちの生活費が無くなってしまいますので。」

『うん☆そうだね☆』


「え?魔王パーティーはバイト代で生活してるの!?」

辰美は帰りたいと思った。



—— その夜。


ざわざわ…ざわざわ……


月明かりの元に喧騒がこだまする ——。


私は温泉工事の為に、北の山の温泉前に魔王軍を集めていた。

ゴブリン、オーク、コボルド、リザードマン、巨人…等々と、錚々そうそうたる顔ぶれである。


ざわざわ…ざわざわ……


モンスター達のざわめきを断つように私は演説を始めた。


「聞きなさい!この世でもっとも邪悪な存在達よ!! これよりお前たちに重要な任務を与える。これは何よりも優先すべき事となると心得よ!」


ざわざわッ!ざわざわッ!



「オホン……!温泉に入浴…すなわち………」

「ニューヨークにーーーーー!行きたいかーーーーー!?」


………………ざわ…?…………ざわ…?



「…………えっと…皆さんが乗り気ではない事がよくわかりました……それでは、今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます。」

私は右肩を上げたり下げたりしながら話した。


……ざ…わ…!?…ざわッ!ざわッ!ざわーーーッ!!!!!



「うんうん♪温泉に入りたいみたいで良かったです。では、ワイトとサタンの指示に従って工事を遂行してください。」

私は両手で股関節をなぞる体操選手のマネをすると、演説を終えた。



その後、ワイトとサタンに念押しをする。

「いいですか。ワイト、サタン。あなた達が現場監督です。人間に迷惑をかけない事を最優先で指揮しなさい。少しでも人間に迷惑をかけたら後頭部を右ストレートですよ?…ちなみに私はお前達と戦った時より数倍強くなっています。具体的に言うと、私のレベルは53万です。」


「「ひ!は!はいーッ!」」

魔王軍にも馬鹿しかいない。


こうして温泉工事が始まった。



—— そして約1週間後。


村に温泉という観光名所が出来た。

常闇のダンジョンの温泉はモンスターにも大好評だった。

そう。お風呂が嫌いな生物は居ないのである。



(つづく)

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