#015 : クエスト
リンド村での生活にもだいぶ馴染んできた。
私は村の散策を日課にしていた。
道ゆく村人から挨拶をされる。
簡単ではあるが、コミュニケーションをとれる。
「サクラさんおはよう!」
「あら、おはようございます。」
「お!サクラさん!とても新鮮な野菜が入ったから食べに来てよ!」
「ありがとうございます。是非お伺いさせていただきますね。」
「お姉ちゃんおはよー!」
「ふふ。おはよう。」
これがとても気持ち良いのだ。
…
散策の途中、村長に呼び止められた。
「あ!サクラさん!少し良いですか?」
「おはようございます。村長さん。なんでしょう?」
「実は……村の北の山に火竜が棲みつきまして…村の狩人達が仕事にならないのです…火竜を退治していただくことはできませんでしょうか?」
「うーん…火竜…火のドラゴンか。良いですよ。まぁ竜王の辰夫より強いという事はないでしょうし。」
「本当ですか!ありがとうございます!お礼は弾みます!」
「はい。お任せくださいw」
私は村での信用度アップ、素材稼ぎ、お金稼ぎ、レベル上げの一石四鳥になると考え、この依頼を受けた。
「………今のさわやかな人…本当にサクラさんだよな…?」
遠くなっていく私の後ろ姿を見つめながら村長はしばらく悩んだという。
…
宿に戻るとエスト様と辰夫がゴロゴロしていた。
『お姉ちゃんおかえりー☆』
エスト様は寝転びながら読んでいた本を閉じて言った。
「さ、サクラ殿!我は夜のバイトまで休んでいるだけでして……」
辰夫は慌ててソファーから起き上がった。
辰夫を横目で睨みつけながら私は2人に話をする。
ちなみに何か理由があるわけでもなく、なんとなく睨んでるだけである。
(な、なんで…睨んでるのか…)
辰夫の動悸が上がっていく。
「エスト様。辰夫。決めました。この村を世界征服した際の拠点にします。エスト様のホームである常闇のダンジョンにも近いので、魔王軍の管理もし易いし、最適な場所となるでしょう。」
『なるほど☆』
エスト様の紅い瞳が輝き出した。
「ふむ。良い考えですな。」
辰夫も乗り気のようだ。
私は辰夫の両肩を掴み、ジッと眼を見て言った。
「よし!辰夫ッ!その為にも…まずは村に人を集めるような…村を豊かにするような…名物を作りますよ!この村を街にして、やがては大都市にするのです。サクラ帝国のねッ!!!!!」
「はい!……は…い?」
『お姉ちゃんはまだサクラ帝国をあきらめてなかった!』
「……だからね?辰夫!とても重要な任務を与えます。今から言う任務は辰夫にしかできないの!辰夫にだからお願いできるの!」
「お………ッはい!」
辰夫の眼に光が戻った。
そうだ。忘れてたが辰夫はこんな精悍な表情(かお)が出来るのだ。
「…温泉を掘り当ててこい。」
「…ん…?……はい?」
一瞬で辰夫の精悍な表情が曇った。
両肩を掴んでいる手に力が入る。
「聞こえなかったかな?…温泉を掘り当ててこい。掘り当てるまで帰って来るな!」
「ど、どのように…?」
私は辰夫の肩から手を離し、椅子に座りながら説明をする。
「ん?ドラゴンの姿になって天空まで上昇して、キリモミ回転しながら地面に穴を穿つ
「つ、使えません…。」
『つ!強そう☆』
「あぁ、私の言い方が悪かったのかな?ごめんなさい。…まずね?ドラゴンの姿になるでしょ?そして天空まで上昇します。高度1万メートルくらいがいいかな。あ!そこまで高くなると凍るから注意ね。その後にキリモミ回転しながら音速で地面に激突することで、深い穴を掘れます。これを
「……わ、技の使い方の問題ではありません。」
『なるほど!辰夫!簡単だね☆』
「ようするに無理なんだな?何ならできるんだよ!お前は!」
私は辰夫を一括すると、一筋の涙が辰夫の頬を伝うのが見えた。
「…と…まぁ冗談はこの辺にして、村を発展させたいと思います。」
私は髪を掻き上げ、足を組みながら言った。
『冗談だったんだ…』
「絶対に本気の顔でした…」
「っと…そ・の・前・にッ!北の山に火竜が棲みついたみたいで、これを退治してくれと村長さんから依頼を受けました。」
「む。火竜ですか。」
『おぉー!クエストだね☆』
「ちょっと辰夫と私で行ってきます。エスト様は留守番をお願いします。」
「ふむ。」
『ええー…私も行きたい!』
「エスト様…良いですか?私はエスト様を守ると決めました。それは危険があると分かっているところにわざわざ連れて行かないという事でもあるのです。」
『う、うん…そうだよね…。』
「良い機会なので、テレポートで常闇のダンジョンの配下の様子でも見てきてはいかがでしょうか。ワイトもサタンも喜ぶかと。」
『あ!そうだね!?最近会ってないしね!』
「はい。配下のモチベ管理は大事です。」
「!?」
辰夫はモチベーション管理について深く深く考えた。
「では、辰夫。行きますか。夜のバイトまでには戻らないとね。」
「は…い。」
辰夫はそれでもバイトには行かすのかと思った。
『いってらっしゃーい☆』
…
「ドラゴンの姿になって飛んでいきますか?」
「せっかくなので、散策しがてら行きたいかな。」
「ふふ。頼りにしてますよ。辰夫。」
「………え?あ、はい!」
ー こうして私と辰夫は北の山に向かった。
(つづく)
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