#014 : 冒険者
夜通しでの宴が終わると、私たちは宿屋に向かった。
「部屋は2部屋で、私の部屋とエスト様と辰夫の部屋で異論はありませんね?」
『異論しかない☆』
「我は…屋根があれば…どこでも……良いです…。」
私は辰夫のことをもう少しだけ優しくしようと思った。
…
案内された部屋に入るとベッドが2つあった。
「おおお…ベッド…久しぶりのベッドに布団…」
『お姉ちゃん!これフカフカするよ!わーいわーい☆』
エスト様はベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そうか。エスト様には初めての体験なんだな。
思えば…この子は魔王としての過酷な運命を背負って生まれたのに…とても優しいし純粋だ。
私が守らなければ。この子を。この笑顔を。
それよりも埃が舞うから飛び跳ねるのはやめろ小娘が。と思った。
…
そして大浴場に向かった。
この異世界に転生してから初めてのお風呂である。
「おおおおお!お風呂ー!やったー!お風呂ー!」
『おおおおお?お湯?なにこれ!お湯?わーい☆』
エスト様は湯船にソロっと指を入れたり出したりしてはしゃいでいる。
『ぁ…ぺったん…じゃなくて…お!お姉ちゃんッ!早く世界征服しよう…ね…?』
「………。」
私の胸を見たエスト様が何故か決意を固くし、同時に私の殺意も固くなった。
…
その後、村の酒場で食事をする。
昨晩の宴で村人達の警戒心は和らいでいるように感じた。
エスト様も辰夫もまともな食事に感動していた。
「調味料で味の付いた料理ー♪…んーおーいしー♪」
『うわぁー何これ!何これ!美味しい☆美味しい☆』
「我は…残飯を…いただきます…」
私は辰夫のことをもう少しだけ優しくしようと思った。
…
その晩、私たちは宿屋の部屋で今後の方針を話し合った。
『しばらくはこの村を拠点にしようよ☆』
「賛成です。とても良い村ですしね。」
「うむ。」
『じゃあ決まり☆』
「村人達と早く打ち解け合いたいですね。何か仕事を手伝うとか良いかもしれませんね。」
「なるほど。なるほど。」
…
—— それから数日後。
その日は辰夫が夜間の土木工事のバイトに行ったので、私とエスト様の2人で酒場で食事をしていた。
私たちが食事に舌鼓を打っていると、3人の男が絡んできた。
「おっとー?なんで魔物の女がこんなとこでメシ食ってんだ?あ?」
「へっへっへ」
「けへへへ」
私はビールの樽ジョッキを置くと溜め息をついた。
「はぁ…異世界転生のお決まりパターンが来ましたね………まったく…どこの世界でも男ってやつは…」
『お姉ちゃん。暴れちゃダメだよ?』
エスト様が心配そうに私を見る。
「はい。大丈夫です。エスト様。」
この平穏な生活を守るためにもここで暴れるという選択肢は無かった。
「何だお前たちは?私たちに何の用だ?」
会話をしつつ、スキル 神眼でステータスを確認する。
(ふむ。全員レベル50前後…ねぇ…。)
「鬼の姉ちゃんよ!俺たちはな?クエストでこの村に来てる冒険者様さ。魔物が俺たち人間と同じメシを食ってんじゃねーよ!」
「楽しい食事の時間だというのに…邪魔をしないで欲しいわね。」
「ツノの生えた化物が!こんな不気味なガキまで酒場に連れてくるんじゃねーよ!酒が不味くなるんだよ!とっとと出てけよ!」
男が激しく机を叩く。
「ふふ…エスト様の悪口は良いとして…この美しい私への悪口は許せない…ですねぇッ!」
私は立ち上がり男たちを睨みつける。
『あれ?!…お姉ちゃん!今度さ!私たちの関係をちゃんと整理しよう?』
「そして私の胸ばかり見るな!いやらしい!」
「「「ないだろ!」」」
男たちはすかさずツッコミを入れた。
『ないだろ☆』
エスト様もツッコミを入れる。
嗚呼…なんということでしょう。
身内であるエスト様も血祭りの対象となってしまったのです。
良いだろう。もう平穏な生活とかどうでもいい。
小娘も含めてコイツらは殺そうと決めた瞬間、店内がざわつき始め、他の客達の声が聞こえてきた。
ざわざわ…ざわざわ…
「ないない。」
「な…い…よな…?」
「あぁ…ないな…。」
「え?どこにあるの?」
「ねーよwww」
「そういう種族なのかと思ってたw」
「ママー?あのお姉ちゃん…なんでお胸が無いの?」「しっ!見てはいけません!」
「いつから胸があると錯覚していた?」
「わんわん!」(ないだろ!)
「にゃーにゃー!」(私のがあるわ!)
ざわざわ…ざわざわ…
「……うわーーーーーん!この店にいるみんな!表に出ろーーーーー!」
…
そして数分後…
私は酒場の外で冒険者の男たちと対峙していた。
「ほら?本気でかかってきなさい。3人同時でも良いわよ。」
『お姉ちゃん?』
エスト様が心配そうに私を見る。
「わかってます。殺しません。自信満々の男のマウントを取って憂さ晴らしをするだけです。そして…小娘…貴様の命の心配もしてろよな…?」
私は刀を抜き、その刀身を舐めた。
『お、お姉ちゃん…?』
「何をごちゃごちゃ言ってんだ?」
「はぁ…いいからきなさい。」
私は溜め息を吐きながら おいでおいで のジェスチャーをする。
「ふざけやがってー!」
1人の男が剣を抜き、斬りかかってきた。
男の動きはとてもゆっくりに見えた。
スキル 神眼 の効果だろうか?
私は男の斬撃を指2本で挟んで止めた。
「遅いし軽いわね。ほら?次は?」
その掴んだ剣を離して微笑みながら言った。
しかし、男の動きが止まってしまった。
「う…うぅ…」
「あれ?来ないの?まさかもう終わり?」
「そ、そんな馬鹿な!う!うわああああああ!」
格の違いに気付き、追い込まれた男はその場でうずくまってしまった。
どうやら仲間の2人も戦意を喪失しているようだ。
「なんだ。終わりか。参考までに私のレベルを教えておきましょうか。」
「……くっ…くそっ!」
「私のレベルは53万です。」
「な…あ…あぁ…」
『な…お姉ちゃん…いつの間に!?』
震えだす冒険者の横でショックを受けるエスト様。
私の主は馬鹿だった。
「ふん。さっきまでの威勢はどこにいったのやら。その実力じゃ採取クエストしかできないんじゃない?冒険者とか名乗るのはやめて採取クエスト専門家と名乗った方がわかりやすくて仕事が増えるわよ?それじゃあね。採取クエスト専門家さん達。外はモンスターでいっぱいだからあまり遠くに行っちゃダメですよーwww困ったら雇われてあげても良いからその時は声かけてねwwwばーかwばーかwww」
『めっちゃストレス溜まってる☆』
「く…くううううぅ…」
男は地面を叩いて悔しがっていた。
「さぁ行きますか。…ふぅ………。ばーかwwwばーかwwwばーかwwwばーかwww」
私は振り向いてトドメを刺した。
『しつこッ!』
「ぐううううう…」
男は地面を転がりながら悶絶していた。
「さ、てと。エスト様。食事の続きをしましょう♪ あー!スッキリしたッ♪」
『性格悪ッ!』
ー その後の食事はマウントにマウントを重ねる事によって生成されたスパイスが上乗せされ、格別だった。
(つづく)
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