#013 : 演説

無事に村での滞在許可が降り、エスト様と村長は途中退場した私と辰夫を待っていた。

武装していた村人達は安堵し、村の中へ戻って行った。


『村長さん、すみません。もうすぐ戻ってくると思いますので…』

「いえいえ、大丈夫ですよ。ゆっくり待ちましょう。」


遠くから声が聞こえた。

「冗談だったのにーひどいよー!」

「まぁまぁ、悪ノリが過ぎましたな。」


ゆっくりと声が近づいてくる。

「久しぶりに人間に会えてさ!テンションが上がっちゃっただけなんだよー!」

「そうですな。そうですな。」


『あ!村長さん!ほらほら!来ました☆』

「そうですね(笑)』


エスト様が近づいてくる私たちに声をかけた。

『おーい☆』

「まだこちらに気付いてないようですな(笑)」


『お姉ちゃーん?辰夫ー?私たち村に…』

私は歩きながら辰夫を睨み付けて言った。

「まぁ…お前らはいつか殺すけどな?」

「サクラ殿…?」


『お姉ちゃん…?』

「………。」

村長はこいつらを絶対に村に入れてはいけないと思った。



「あッ!エスト様ー♪ 先ほどはすみませんでしたぁー♪」

エスト様の姿に気付くと、私は嬉しそうに駆け寄った。


『サイコパスかな?』

エスト様はつぶやいた。



『と、とにかく!村への滞在許可が降りました☆辰夫のおかげでね☆』

「む?何もしてませんが?」

『細かい話はまたあとでね☆ほら!いこいこ!』

「へぇ。良かったですね!あ?村長さんかな?宜しくお願いしますね。」


「………。」

村長はその約束を無効に出来ないかなと思った。



村に行く前に1つの課題があった。


それは辰夫である。

このドラゴンの巨体をどうにかしなければならない。

そこで私はとても素晴らしい提案をした。


「辰夫は馬小屋で良いかな?」

『馬達と並んでるドラゴンとか最高にシュールだね☆』


「牧場があれば、そこでも良いかも。」

『辰夫!しっかり羊さん達を見張るんだよ☆』



「…馬………羊………?……村長?村に労働基準局とハローワークはあるのかな?」

辰夫はゆっくりと空を見上げ、震える声で言った。


「え…?ありません…。」

村長は申し訳なさそうに地面に応えた。



そしてエスト様がファンタジーでは当たり前の事を聞いた。

『辰夫は人型になれないの?』

「む。竜人族の姿にならなれますぞ。」

「へぇ。それは凄い。それなら早く言いなさいよw」


「許可なく発言すると怒られる事があるので………ふむ…久しぶりだな。」

そう言うと辰夫は竜人族の姿に変身した。

年齢は30歳くらいの無精髭にロン毛の男性の姿だ。


『おー☆ かっこいー☆』

「へぇ。なかなかイケメンですね。」


「そうか。そうか(笑)」

辰夫はこのパーティーに入ってから約1ヶ月で初めての笑顔を見せた。


「あ、でも今日中に髭は剃って髪は短髪にしてこいよな。ロン毛にして良いのは木村さんだけだからな?そこんとこ勘違いしてる奴が多すぎるんだわ。」


(あくまでも個人の意見です。)

すかさず天の声がフォローをいれた。


「……はい。」

辰夫はゆっくりと空を見上げ、震える声で応えた。



村長に村を案内してもらう事にした。


村の中を歩いている私たちは注目の的だった。

無理もない。人間しかいない村の中をツノのある子供と女、竜人が歩いているのである。

そして私のこの美貌である。……な?



『…うーん…早い方がいいかな。』

そう呟くと、エスト様は村長に尋ねた。

『村長さん、広場はありますか?』

「え?あ、はい。こちらです。」

「ん?エスト様?」

「ふむ…?」


村長に広場へ案内された。

村人達が遠くからこちらの様子を伺っている。


ざわざわ…ざわざわ…


ざわめきを遮るようにエスト様が演説を始めた。


『村のみなさーん☆この竜人はドラゴンのリンドヴルムです。そして私たちはそのリンドヴルムの友達です。皆さんに危害を加えるつもりはありませんので、安心してください☆ 私たちはただ、しばらく村に滞在させていただきたいだけです。』


ざわざわ…ざわざわ…


エスト様は話を続ける。


『そして、これは私たちからのお近づきの気持ちです。………スキル!パンドラの筺☆』

エスト様の目の前に筺が出現した。

筺に手を入れ、次々とモンスターの死骸を取り出し、広場に置いていく。


『これらのモンスターは、私たちが採集したものです。これらをこの村に寄付したいと思います。食料にしたり、素材を取ったりと、どうぞご活用ください☆』



村人達はとても喜んだ!

「おおおー!グレートボア!え!?あ、あれはヘル グリズリーじゃないか?凄い!」

わーわー!わーわー!


エスト様は完全に村人の心を掴んでいた。

『ふふふ…良かった☆』


そして、私は子供の頃から憧れていたあの言葉を叫んだ。

「野郎どもーーーーー!宴だーーーーー!」


ドンッ!!!!!


わああああああああ!



意図せず宴が始まった。


『え?え?え?』

「わっはっは!サクラ殿に全部持っていかれましたな!」



—— 宴は朝まで続いた。



(つづく)

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