#012 : 村人

ダンジョンをあとにした私たちは、辰夫が見つけた村を目指していた。


… 道中のモンスターを蹴散らしながら進んでいくと、やがて村が見えてきた。

同時に村の兵士や男達が武装しているのが見える。


「ふむ……我の姿を見られたのかもな。」

なるほど。どうやら辰夫が偵察している姿を見られたらしい。


「めっちゃ警戒してますね。蹴散らしますか?蹂躙しますか?埋めますか?」

『お姉ちゃん!言ったでしょ!人間に危害は加えないの!』


「ぎゃふん!」

前世でも私はしつこい性格とよく言われたものである。



『まずは話をしてみようよ☆』

「そうですね。」

「うむ。」



私たちは村の入り口まで歩みを進めた。


入り口の前の村人達は武器や農具を抱えて震えている。


無理もない。こんなにも美しい私が来たのだ。


怯える村人達にエスト様が話しかける。


『こんにちは☆ 私はエストと言います。村や皆さんに危害を加えるつもりはありません☆』


「何かしてきたら を加える で溢れてるけどなぁーッ!?」

私は韻を踏みながら刀を舐めた。


エスト様は私を見た後に溜め息をつくと、話を続ける。


『私たちはただ、村にしばらく宿泊させていただきたいだけなのです。』


「私たちから滲み出る王者の ♪ ここで ♪ 村に 宿♪ お前達 ご馳走 ♪ リクエストは ♪ 断った時がお前らの天ぅー♪」

押韻(ライミング)がゾーンに入った私は最高のチェケラッチョポーズをキメた。


『お姉ちゃん…少し黙れ…。』

エスト様は私を睨みながら言った。

「ぎゃふん!」



村人は震える声で言った。

「そ、そちらのドラゴン様はもしや…リンドヴルム様では?」


驚いた顔の辰夫が応える。

「む?いかにも我はリンドヴ…ル…む?」

私は辰夫を睨みつけた。


「えと…我は辰夫と……言います…」

私は笑顔で頷く。


村人達はざわついた。

ざわ…ざわ…

「た…辰夫だって?な…なんか弱そうだぞ?俺たちで倒せるんじゃないか…?やるか…?やったるか…!?」

ざわざわ…ざわざわ…


「よし!俺たちの家族を!村の未来を辰夫から守るんだ!みんな!丸太は持ったか!?」

わーわー!わーわー!



「………。」

—— 辰夫はゆっくりと空を見上げた ——。

それは溢れた涙がこぼれ落ちないようにする為だった。春の木漏れ日がとても優しかった ——。

察した私はそっとハンカチを辰夫に差し出した。



『辰夫!お姉ちゃんを退場させて!』

「畏まりました。」

辰夫は私を咥え、遠くに離脱した。


「チクセウッ!!!小娘めッ!離せ辰夫!この村を の礎にするんだー!お前たちッ!あとで覚えてろよーッ!むきーッ!」

連れ去られる私の声がやまびことなってこだました。


『サクラ帝国ですって…?あぶない…またよからぬ事を考えてやがった…!』


エスト様はこの時は本気で安堵したと後に語った。



『…。』

私の姿が見えなくなるのを待ってからエスト様は口を開いた。


『オホン…バカが大変失礼しました。仕切り直しましょう。村への滞在の件です。もちろん常識は守りますし、宿代もあります。』


エスト様は話を続ける。


『先程のドラゴンはいかにも常闇のダンジョン最下層のリンドヴルムです。…しかし、筆舌にし難いとてもとても悲しい事情があり、今は辰夫という名前になっているのです。』


村人の緊張がとけたのか、少し安心した表情となった。


その中の1人がエスト様に近づき、話を始めた。


「ご丁寧にありがとうございます。ここはリンド村といいます。私は村長のマイヤーと申します。」


村長のマイヤーが話を続ける。


「この村は過去に大厄災に見舞われました。そして、この村はその大厄災からリンドヴルム様に救われたと伝えられています。そのご恩をいつまでも忘れないようにと、村の名前をリンド村としているのです。先程のドラゴン様がそのリンドヴルム様なのであれば、お断りする理由はありません。では…どうぞ村の中へお入りください。」



『えッ…えッえぇッ!?』

エスト様は驚愕した。


『…ッお姉ちゃんが居ないと話進むのめっちゃ早ッ!!』


ー エスト様はこのパーティーの癌に気がついた。



(つづく)

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