#011 : 村へ

ダンジョンの外に出ると柔らかな日差しが私たちを包んだ。


「うーん…!…ふふふ…季節は春かな…?」

私は背伸びをして日差しを浴びた。


久しぶりに陽の光を浴びた私は日本の春を懐かしんだ。

そして、私の名前の由来である を思い出すと同時に家族を思い出した。


家族は元気だろうか?

私が居なくなった事で心配をかけているに違いない。

お父さん、お母さん…突然居なくなってごめんなさい。

私は…サクラは…!この世界で 幸せ巨乳 になります…。

私はお日様に誓った。



『うわぁ…これが外の世界なんだね…暖かいねぇ☆』

初めてダンジョンの外に出たエスト様はとてもはしゃいでいる。


「ふふ…エスト様。たまたま今は暖かいだけです。この外の世界では時には水が降ることも、氷が降ることも、雷が降ることもあります。……あっはっはっはぁー!……そしてこれから愚かな人間どもの血を降らせに行くところだしなーーーーーッ!?」

私は刀を舐めながら叫んだ。


『お姉ちゃん…?』

「…。」

エスト様と辰夫は怯えていた。


「うふふ。いやだー私ったら☆冗談ですよw じょ・う・だ・ん☆」

「いや、もの凄い殺気だった…。」

『うん…』


そして、エスト様は意を決したように口を開く。

『あのね!お姉ちゃんと辰夫に言っておくけど、私は人間を苦しめるつもりは無いからね!』


私は の後遺症かとオロオロしながら確認をする。


「ええッ!?エスト様!?お気は確かですか?頭を何度も強く打ったからですか……?あんな自分の事だけしか考えてない欲深く…そして愚かで汚い生き物…生かしておく必要なんてありますか?」


(あくまでも個人の見解です。)

すかさず天の声がフォローを入れた。


『お姉ちゃん…元人間だよね…?過去に何があったの…?』

「うふふ。冗談ですよw じょ・う・だ・ん☆」

「いや、冗談に聞こえなかった…。」

『うん…』



私たちはまず、ダンジョンの周囲を散策する事にした。


どうやらダンジョンは森の中にあったようだ。

ダンジョンの周囲には木が生い茂り のような物が生えていた。


「あら、美味しそう。モンスターの肉ばかり食べてたから、こういう木の実は久しぶりだわね。」

私は野いちごを食べた。


—— その時である。


私の頭の中に が響いた。


(サクラは : を習得しました。)


「ファーーーーーーーーーーッ!?」

これは のモノマネでは無い。

私のモノマネレパートリーの中に甲子園のサイレンは確かに

しかし、これは違う。違うのだ。


私の脳裏にお婆ちゃんとの記憶が蘇る。

 (おばあちゃん!私ね?大きくなったら甲子園のサイレンになる!)

 (ふふふ...サクラならなれるかもねぇ…。)

 (えへへ!私の声でみんなが甲子園で野球するんだ!)

 (そうかいそうかい。それは楽しみだねえ…。)

お婆ちゃんはいつだって私を褒めてくれた。

お婆ちゃんは私の唯一の理解者だった。

お婆ちゃん…会いたいよ…お婆ちゃん…

………けて…助けてよ…お婆ちゃん…



『お姉ちゃん?お姉ちゃんッ???どうしよう辰夫!?完全にキマってる!!!!!』

「白目剥いてますな。」


地面に這いつくばっていた私はゆっくりとエスト様を見つめ、口を開く。

その目には光が無かったはずだ。


「……エスト様…私は…鬼となり……人間ではなくなりました…その後…哺乳類でもなくなり…ました…そして…今度は…哺乳類と…植物の…中間のような…存在に…なりました…要するに【(アルティミット・シイング)】にまた…近づいてしまいました…」


『また…ろくでもないスキルを覚えちゃったの?』

「ん?…あぁ、何か食べるとスキルを覚えると言ってましたな。」


「ううう…光合成なんてどこで…使うの…ううう…お婆ちゃん…」

『光www合成www』

「ぶはッwww ダメだ…笑ったら殺される…笑ったら殺される…」

笑い転げる小娘と必死に笑うのを我慢している辰夫を後でボコると決めた。


「…チクセウ…チクセウ…」

私は懐から一升瓶を出し、呑み始めた。


『お酒持ってきてた!』

「ラベルに って書いてあるのが絶妙ですな。」


『お姉ちゃんがポンコツ化したから今日はここで野宿しよっか☆』

「そうしますか。」


—— 私はそのまま光合成した。



そして夜が明けた。

(てーれってーれってってってーん♪)


翌日。



「…辰夫ッ!辰夫ーッ!」

私は手をパンパン叩きながら辰夫を呼んだ。


「は、はいッ!」

辰夫が慌てて飛んでくる。


「遅い!呼ばれる前に来いッ!ただでさえ昨日という貴重な時間を無駄にしてんだッ!!」


「酒くさッ!」

辰夫は酒の匂いを我慢しながら弱肉強食という言葉を思い出し、とても理不尽な事なんだなと思った。


「…まぁいいわ。近くに何か無いか空から見て来なさい。」

「か、畏まりましたッ!」


どうやら私は 竜王・辰夫 の調教に成功したようだ。


『良かった。お姉ちゃんが治った☆』

エスト様の笑顔が可愛かった。



辰夫が周囲の偵察を終え、戻ってきた。


「辰夫!遅いッ!」

「まだ酒くさッ!…えっと、近くに人間の村がありました。」


「人間の村か…どうしますか?私たちのこの姿で行っても怖がらせるだけですしねぇ。」

『うーん…って酒くさッ!』


「そうだ!村長とか子供を人質にして交渉しますか?」

『お姉ちゃん…?』

「サクラ殿…」


「セオリー通りならこの辺のタイミングで山菜を採りに来てる村娘がモンスターや盗賊に襲われてる時の悲鳴が………………聞こえませんね。」


『とりあえず、村に行ってみようか☆』

「そうですね。あとはその時のノリに任せましょう♪」


「いや、絶対大騒ぎになるだろ…。」

辰夫は帰りたいと思った。



(つづく)

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