#004 : 選択

「うーん…どうするか…」

気絶しているエスト様を見つめながら私は考えを巡らせていた。


このままエスト様を人間に引き渡すことで、魔王を倒した英雄として、チヤホヤされて生きていくという選択肢が出来てしまったのだ。


だが、それには問題がある。


そう。私はもう人間ではない。

今の私の見た目は鬼なのだ。


例えば…「わーい!わーい!魔王をやっつけたよー!」 と、人間の街に行ったところで 「鬼め!退治してくれる!」 「ちょ!やめてよー!悪い鬼じゃないよー!」とかいう流れになるのは目に見えている。


回復魔法が得意なプヨプヨしたモンスターもピンクの鎧の戦士と出会うまで迫害されていたのを覚えている。



フレンドリーな感じで 「ほら!見て見て!簀巻きすまきにしたんだぁ★ 魔王の簀巻きすまきwwwめっちゃ可愛いwww」 と、面白美人お姉さんを演じてみても 「なんと残酷な…鬼め!退治してくれる!」 とか言い出す空気の読めない奴は絶対にいるのである。



『う…ん…?お姉ちゃ…ん…?』

「む?」

エスト様の意識が戻ったようだ。良かった。


その刹那!

私はすかさずエスト様の横に回り、その小さな顎にパンチをかすめる。


「シュッ!」


「はぅッ☆」

エスト様の顎から という掠れた音が聞こえると、エスト様は再度気絶した。


思った通りである。

先ほどのパンチの衝撃でエスト様の顎は グラスジョーガラスの顎 になっていた。

これで今後、何かあった時は顎を狙えば良いという保険もできた。




(テレレレッテッテッテー♪)


私の頭の中でファンファーレが流れ、アナウンスが聞こえた。


「よし。」

私はガッツポーズをした。


(サクラのレベルが 120 に上がりました。)


「120か。ふむ。こんなもんか。勇者の [] が付いてこれくらいなのね。」


(サクラは を習得しました。)


「ふーん。光魔法か。勇者っぽいね。」



私は再度、エスト様を見つめながら考えを巡らせる。


人間の前に出たとして…最悪、私が新しい魔王として指名手配される可能性すらある。

仮に人間に受け入れられ、チヤホヤされて生きていけたとしても、私の胸には穴が空いたままだ。Fカップ巨乳じゃないから。


そうだな。

やはりここはエスト様と愚かな人間どもを征服する方が良いかな。

Fカップ巨乳にして貰えるから。


「何も悩む必要は無かったよね。Fカップ様…じゃなかったエスト様」

私は気絶しているエスト様の頬を撫でた。



『う…ん…?』

エスト様の意識が戻ったようだ。良かった。


「良かった!お目覚めですか!エスト様!」


『あぁ…うん…お姉ちゃんのパンチ凄いね☆ びっくりしたよー☆』

エスト様は紅の瞳をキラキラさせながら言った。


「たまたまです。」

『でさ、でさ!レベルは上がった?』


「はい。少し…ですが…」

『そっか!じゃあ今度は本格的にスパーリングしてみる?』


「あ、いえ、大丈夫です。それよりもお腹空きませんか?」

『そうだね。外に狩りに行こうか☆ レベルも上がるだろうしね ☆』

「畏まりました。」


『それよりもさ?私が起きたらまたアゴを狙ったよね?』

「いいえ。」


私は外出する準備を続けながら、エスト様に質問してみた。


「あの、エスト様、ひとつ聞いても宜しいでしょうか?」

『うん☆』


「仮に、仮にですよ?目の前に勇者が居たらどうします?」


『そうだねー 全魔力を使った封印魔法で永久に地獄を旅行して貰おうかな☆』


「は、はは…そんな事が出来るのですね。さ!流石で御座いますッ!」

私は震える声で最高に良い返事をした。


その時である!エスト様の足下に蛇が近寄っているのが見えた!

「あ、エスト様!危ない!!」

『わわ!』


光の矢が蛇を両断した。


「ふぅ。小型の蛇でしたが、毒があったかもしれませんしね。お怪我はありませんか?」

『…? お姉ちゃん? 光魔法は勇者だけが使えるんだけど、なんで?』


「ぇ…!?」


「シ…シュッ!」

私は慌てて レベル 120 の超高速ジャブを繰り出した。


「はぅッ☆」

エスト様の顎から という掠れた音が聞こえると、エスト様は気絶した。




(テレレレッテッテッテー♪)

(サクラのレベルが 130 に上がりました。)



「さてさて、これからどうしようか…。」


私はエスト様を見つめながら頭を抱えた ー 。




—— とにかく!こうして、前代未聞の魔王と勇者のパーティーが誕生したのである。




(つづく)

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