#002 : 衝撃

魔王エスト様と共に世界征服を誓った私は早速その仕事に取り掛かろうとしていた。


「エスト様。ご進言を申し上げたいのですが、宜しいでしょうか。」


『え?うん。いいよ☆』

エスト様は読んでいた本を閉じると紅い瞳を私に向け微笑んだ。


「勇者の奴に をしかけましょう。」

私は最高の笑顔をエスト様に向けて言った。


『…ん……?…えッ…?』

エスト様から動揺が伺える。


所詮は小娘。この発想は無かったのであろう。

勝てば官軍、負ければ賊軍なのである。

正義とは歴史が決めるものなのだ。


私は説明を続けた。


「勇者が強くなる前に摘むのです。脅威になる前に刈り取るのです。殺られる前に殺るんです。つき進みましょう……冥府魔道を。」

私は再度、最高の笑顔をエスト様に向けた。



『……ち、ちょっと待って…まずは異世界召喚されたばかりだからさ?…自分のステータスを確認するとか、世界の事を確認するとか…もっとこう……色々あるよね?』


…ふむ。なるほど。

確かに異世界に転生して目覚めてからまだ数分しか経っていない。

エスト様の言うとおりである。


私には…まず…どうしても確認しなければならない事があった。

憧れの…夢に焦がれた Fカップ巨乳 を目の前にぶら下げられ、私はいささか浮き足だっていたようだ。


「そうですね…エスト様…私はこの異世界に召喚されましたが…」


エスト様は溜め息を漏らしながら言った。

『元の世界に戻る方法ならないよ?あきらめてね☆』


私はエスト様の言葉を遮るように続けた。


「……鬼に転生させる時に…胸を大きくするとか、胸の大きい種族にするとか…選択肢は色々とあったと思うのですが、ぶっちゃけ…そこんとこ…どうなのでしょうか?」


『元の世界に帰るとかより人間じゃ無くなったことよりも胸を気にしてた!』


を言っても仕方ありませんが、もっとこう…なんと言うか…セクシー↑ダイナマイッ↓!…なサキュバス的な種族もあったと思うし、むしろサキュバスが良かったしッ!?……なんでサキュバスじゃねーんだよ?……どう考えてもサキュバス一択だろ?おい!なんで鬼なのですか!?」


『めっちゃ を言ってくる!』


「あーはいはい。鬼で良いです。私は鬼でーす。鬼ですよーだwww種族は鬼!…鬼てwww豆にビビればいいですかwww」


『お姉ちゃん…捻り潰してやろうか☆』

エスト様の手のひらにドス黒い魔力が集まっていく。


私は 長い溜め息を吐き、やれやれ というリアクションをしながら勇者の話に戻すことにした。


「はぁーーーーー…。」

『その やれやれ ポーズ…イラッとする☆』


「…えっと…先ほどの勇者野郎への奇襲の件ですが、きちんとご説明をさせていただきます。」


『…続けてみて☆』


「奇襲と言っても殺してしまうのはもったいないので、こちらの味方につけるのです。」


『ふむふむ☆』


私は拳を強く握りしめながらこの完璧な作戦の説明を続ける。


「私のこの美貌を利用し、ハニートラップで堕とすのです。…なぁに…男なんてみんな…頭の中は ”” ですよ…そうなんです…そういう生き物なんですよ…男なんてなッ!…胸を見ながら話やがるッ…!チクセウ!チクセウッ!」

私はハンカチを噛み締めながら泣き崩れた。


『前世で何があったの!?』


「私はですね!?太陽とか青い空とか…そういうものが大嫌いなんですよ!」

握りしめた拳からは血が滴り始めていた ——。


『あれ?その作戦だけどさ、お姉ちゃんはその…”乳・尻・太もも”…?お姉ちゃんは揃ってないんじゃない?』


「えっ?」

『えっ?』

今、この小娘は私の禁忌に触れたのか?

どうなんだ?どうする?確認するか?埋めるか?


—— 私は気のせいという事にした。

確認したらきっと泣いてしまうから ——。

確認したらきっと小娘とはここでお別れになってしまうから ——。



そして、エスト様は溜め息を漏らしながら淡々と説明を始めた。


『ふー…まずね。私たちが今いる場所はね、とあるダンジョンの最深部なの。…ここでね…昨日…私が生まれたのよ。これから魔王軍を組織して世界征服をするわけなのさ☆』


「あれ?今はエスト様と私だけなのですか?魔王軍ではなく、魔王パーティー?…ん…?……あ、そうなの?昨日生まれたって事は…小娘!…お前は0歳なんだな?お?」


『いきなりのタメ語きた☆』


『まずはね。お姉ちゃんも私もこのダンジョンの外に出るためにレベル上げをしないとならないのだ☆』


エスト様は斜めピースサインを自分の目に当ててウィンクをした。

正直かなりイラッとしたが大人なので我慢した。



「ん"?…レベル…上げ…ダンジョンから…脱出…?」

『うん☆』


「なんで?最強なのでは?」

『違うの☆』


「魔王なのに?」

『なのに☆』


「…えぇ…?」

告げられた超絶メンドくさい事実。



—— 私はこれからどうなってしまうのか。



(つづく)


次回!私、サクラのスキルが明らかに!?

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