第7話 不思議な本と出会いました
初めて文字を覚えた日から、ナコは勉強が楽しくて仕方がなかった。そして、自分の書字版という特別感も嬉しかったのである。この世界では、また物は個人で保管するよりはみんなで使う物という意識が強く、特に子どもの時代は、兄弟とシェアすることも多かった。書字版は、ナコにとって初めての所有物なのである。
(大事にしなきゃ♫)
ナコが書字版を持っているのを見て、ユリやミズルも従者として自分達も学びたいと言い、今では勉強する仲間が2人増えたナコ。ソフィーも欲しがったため、ソフィーの分の書字版も用意されたが、ソフィーの書字版はもっぱらお絵描きに使われている。
夜になるとナコは1人で書斎へ行く日が続いた。カズマは快く受け入れ、2人で書斎で過ごしたり、母がやってきてナコ勉強を見てくれたりした。そんなある日、書斎で勉強していると、妙に本棚が気になったナコ。本棚に近づくと一冊の本がうっすら光ってみえた。
「お父様、この光っている本は何ですか?」
「どれのことだ?」
「この本です。」
「これか?光って見えるのか?」
「はい。うっすらですが光って見えます。それに何だかこの本は私のもののような気がするんです。なぜかわからないけど、そう思うんです。」
「そうか。」
自分には見えない光がナコには見えるという。ナコの自分のもののような気がするという言葉を聞いて、カズマもまた『ナコが持っていなくてはならない』そう感じた。
「その本はナコが持っていなさい。どんなことが書いてあるのかわかったら教えてほしい。」
「わかりました!ありがとうございます!」
自室に戻り、本を確認する。この国の本は、動物の皮でできているものしかない。現に、カズマの書斎にあった本は全て動物の皮でできた本であった。しかし、ナコの手元にある本は、植物紙でできている。
「どこか遠くの国には植物紙が作られているのかな?」
そう疑問に思いながら、本をめくると、中は白紙だった。字や絵などはどこにも書かれていない。これは本なのか、日記帳のようなノートなのか。ノートだとしたらペンが必要だがペンは持っていない。八方塞がりであった。
「わからないから、とりあえずしまっておこう!」
大切にしなくてはと感じたナコは自室のクローゼットの奥に、本をそっとしまった。その時、部屋の扉がノックされる。
「ナコ様、ユリです。少しお時間よろしいでしょうか?」
「どうぞ、入ってー」
「失礼します。」
「ユリ、どうかした?」
「ナコ様、明日はいよいよ教会に行く日ですので、いつもよりも少し早めに起こしにまいります。特に必要なものなどはありませんが、明日の服はこちらで用意させて頂きますので、着替えずにお待ちください。」
「わかったよ。明日楽しみだね。同い年なんだから、ユリとミズルも一緒に行くんだよね?」
「はい。我々も同行させていただきます。よろしくお願いします。」
「わかったよ、こちらこそよろしくね!」
ユリが退出した後、布団に入る。一応貴族であるフィール家、家事や準備などは従者にお願いするが、着替えや就寝などは1人でしている。カズマを筆頭に、自分のことを自分でやる方が楽という考えをしているからである。布団に入るとすぐに意識がなくなり、しばらくすると声が聞こえてきた。
———ナコ
———ナコ、聞こえる?
———もうすぐ会えるよ。待っててね。
すごく温かな声だった。
「楽しみにしてるね。」
ナコは声の主にそう返し、深い眠りに落ちた———
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