第8話 教会に行きました

8歳になる歳に教会でするお祝いは、国として大事にしている行事のため、8歳を迎えた子どもは全員が参加する。今年は5名の参加となった。


フィール村の中心である広場にみんなで集まり家族と友だちで教会へと向かう。村から教会までの間に危険な動物や魔物は出ないので、基本的に警備は最低限だ。


8歳になったばかりのナコたちにとってもこの行事は特別だ。村の外は子どもたちには危険なこともあり、この行事に参加するまでの間は村の中だけで過ごすことが決まっている。そのため、教会に行ける今日は初めての村以外の場所へのお出掛けなのだ。


日中毎日仕事をしている家族も、この行事と冠婚葬祭と成人の儀式だけは仕事を休んで参加する。朝のお祈りから始まり、夜の食事まで一日を通してお祝いをするのである。


この国では、行事がある日に雨が降ったことはない。神様がお祝いをしてくれているからとされている。ナコも今日を楽しみにしていたので、教会へ行くまでの間が楽しくて仕方がない。


「お父さん、教会では何をするのですか?」


「教会に着いたら、今日だけは該当の子どもたちだけで教会に入るんだ。そのまま教会で神父様とシスターとお祈りをする。そのあと教会の裏手にある泉にお参りに行って、瓶に泉の水を入れて戻ってくるんだ。家族と家に戻ったらその水を家の好きなところに撒いて終了だ。そのあとは家でゆっくりして過ごす。お祝いだからご飯が出るので好きな時に集まって食べることもできるぞ。」


「なんだかやることいっぱいですね。」


「やることたくさんあるように感じるが全て神父とシスターが誘導してくれるから、心配はないからな。安心して行っていい。」


「わかりました!」


カズマと話している間に教会に到着した。教会の外には今日のために家族が座る椅子が準備され、外でシスターが待っていた。教会にはこの日のために領内からシスターがフォローに来ている。


「では、皆様お揃いのようなので、お子様だけどうぞお入りください。」


「よし、時間だな。行ってきなさい。落ち着いてな。」


「「「「「行ってきます!」」」」」


5人はシスターの後をついて教会の中へ入った。教会の中は、静かなのにあたたかい雰囲気だった。家具なども豪華なわけではないのだが、手入れが行き届いている。窓から入ってくる光がキラキラと光ってとても綺麗だった。


「では、1人ずつ椅子にお座りください。」


シスターの声で、それぞれが席につく。そのまま話などはせずに静かに待っていると、神父が入場してきた。


「皆さん、はじめまして。私はフィール村の教会の神父である、クトルです。皆様8歳なっているということでおめでとうございます。神々は我々を見守っておられます。本日はそんな神々に感謝を伝えお祈りをしましょう。」


神父であるクトルの言葉に合わせて祈りの言葉を口にする。


———ようやく来たか、どれひとつ話でもしようかの。


その言葉と共に、意識が別の場所へとんだ。





目を開けると真っ白な空間にいた。あたりを見回していると、突然目の前に髭を生やした男性が現れた。


「ようやく、会うことができたな。」


「あなたは、創造神様ですか?」


「左様。そなたもいよいよ8歳となったのじゃな。」


「はい、この世界では8歳ですね。あの、私は転生したんですよね?」


「そうじゃ。」


「何であたしだけ転生したんですか?」


「別にそなただけではないよ。生まれた生命は、どの世界でも生まれ変わる。しかし、同じ世界で同じ魂ばかりが生まれ変わっていると、世界に淀みが起きたり、魂が消失してしまうこともある。そうならないように定期的に別の世界の魂と入れ替えるのじゃ。じゃから異世界から来た魂は他にもいるが、その中から我々神々の目に留まった魂だけが記憶を持って生まれ変わる。それだけの話じゃ。」


「じゃあ、なぜあたしは神様の目に留まったんですか?」


「たまたまと言いたいところじゃが、君が可愛がっていた猫がいたじゃろ?実はあれはわしの世界の精霊での。別の世界に迷い込んだところを君に拾われたのじゃ。あやつに言われたので、君をこの世界に迎えることにしたのじゃ。」


「そうだったのですね。じゃあこてつもこっちに来ているのですか?」


「君が向こうで死んだ時に、わしに君の転生を願った際に力を使いすぎての。しばらく眠っていたのじゃよ。だいぶ力を取り戻せたと思うし、もう少しといったところかの。」


「神様、こてつと離さないでくれて本当にありがとうございます。向こうの世界では神様なんて会えなかったし信じてなかったからお礼なんて言えなかったけど。前世も今世も幸せに過ごせてます!」


「それはよかったの。そんな素直な君にちょっとしたプレゼントじゃ。【神の目】をプレゼントしよう。それがあれば色んなモノがよーく見えるぞ。それを上手に使って幸せに生きなさい。」


「ありがとうございます。大切にします。教会でお祈りもしますね!」


「わしらは別に教会にいるわけではない。教会では皆の祈りがあるから、繋がりやすいがの。どこでも見守っているよ。」


そんな創造神の声を最後に再び意識がとんだ。





気がつくとみんなとお祈りをしている状態のままであった。現実世界では、時間が進んでいなかったようだ。祈りの時間が終わると、神父様の声が響く。


「これで神々への挨拶は終わりました。このあとは、裏手にある泉に行って水を汲みます。1人ひとつ取りに来てください。」


小瓶を受け取っていると、ユリが話しかけてくる。


「ナコ様、どうでした?私はお祈りというものは初めてでしたけど、何となく身体が暖かくなったような気がします。」


「私も、何だか背筋が伸びる思いでした。これも神様の力なのでしょうか?」


2人がそう話すものだから、ナコは思わず2人に何かあったのかじっと見た。すると先ほどまでは見えなかったモノが見えるようになっていた。そこには2人の情報が載っていたのである。


【ユリ】

状態:水の神様の加護


【ミズル】

状態:火の神様からの加護


「えーっと」


「ナコ様どうかしましたか?」


「ううん、なんでもない!神様ってすごいんだよ、きっと。」


驚きを隠さなかったが、とりあえずその場では何も言わないことにし、みんなで泉の方へ移動する。


「さてそれではそれぞれ水を入れてください。水を入れる時は、神様に水を持って帰ることを伝えるように心で思いながら汲んでくださいね。」


「入れ終わりました!」


「では、これにてお祈りは終了です。ご家族のもとへ戻りましょう。今汲んだ水は、神様に自分の家を覚えてもらうために、自分の家に撒いてください。場所はどこでもいいですが、トイレや水浴び場ではないところにしましょうね。」


「「「「「はーい!」」」」」




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