第6話 文字を覚えよう

魔法があると知ったナコは興奮が冷めやらぬまま、カズマの書斎へ向かい、扉を叩く。


「お父様、ナコです。」


「入っていいぞ。」


少しソワソワする気持ちを隠しながら書斎に入る。カズマの書斎へ入ったのは記憶を探ったが初めてだ。カズマの書斎には、この村の重要事項や契約書なども置いてあるため、基本的にはカズマ以外は少数しか立ち入りを許可されておらず、不用意に人を近づけないように扉の前に兵士が常駐しているのだ。


中へ入ると、カズマは書類にサインをしているところであった。


「この仕事が終わるまで、そこに座って待っていてくれ。」


「わかりました。」


ナコは言われたまま椅子に腰掛け、書斎の中を見回す。書斎には本棚や書類棚、その奥へつながる扉がある。鍵がついているところを見ると大事なものが入っているのであろう。小さくはない本棚には、本が並べられている。本などこの村で見るのは初めてである。


「待たせて、すまない。」


「大丈夫です。忙しい時にごめんなさい。」


「父さんこそ、昼にお前たちとの時間を取ることができず、すまないな。で、何かあったのか?」


「実は今日、サラに魔法の話を聞いたんです。それで興味があって…」


「なるほど。この国では8歳になる歳の春に教会にて神様に祈りを捧げることになっている。その時に魔法適性があるかも調べることができる。ナコはちょうど8歳になったから次のお祈りには参加しような。」


「ありがとうございます!楽しみです!」


「ちょうど来週がそのお祈りの日だからそれまで待ちなさい。」


「はい!私、教会は初めて入ります。」


「そうだな。教会は普段ナコたちが行かない山の上にあるからな。」


「そうなんですね。言われてみれば村の横にある山の方には道があります。教会へ行くための道だったんですね!」


「そうだ。教会には毎日誰かしらが常駐しているぞ。教会組合から派遣された者がな。」


「わー、神様についても知りたいです!」


「いいだろう。この世界は創造神様以外に各属性の神様がいるとされている。」


「じゃあ、属性が8つあるから、創造神様を入れて9人の神様がいるということですか?」


「そうだ。しかし、厳密には邪神様もいて封印されていると聞いたとこがある。」


「邪神様はなぜ封印されているのですか?」


「こういった話は教会が管理しているのだが、その教会の話では、邪神様はこの世界を壊そうとしたところを創造神様に見つかり封印されたとされている。」


「封印が解かれることはないのですか?」


「そういった話は聞いたことがないな。そもそも創造神様たちが見守って下さっているんだ、心配ないさ。」


「ふーん。(ずいぶん神様のことを信じているんだな。無宗教だった前世の記憶があるからか、あまりわからない感覚だなあ)他の神様たちのことも知りたいです!」


「それなら、本を読んでみたらどうだ?教会で神様の話はしてくるが遠くてなかなか行く機会がないからな。一応、簡単に読める本も少しならある。ナコの年齢ならそれが丁度いいだろう。しかし、本というのは貴重だからな。貸し出すことはできないが、私が書斎にいる時であれば、この部屋で読んでもいいぞ。」


「わーい!ありがとうございます!あ、でも私文字を読むことができないです。」


「それなら先に文字を覚えるといい。サラも文字は読めるから、文字を習うといいぞ。サラにはこちらから伝えておく。」


「お父様、ありがとうございます!」






翌日、ソフィーと一緒に朝食を食べていたナコは、サラに文字を覚えたい旨を伝えた。


「旦那様より、ナコ様に文字をお教えするよう言われておりますよ。掃除などもありますので、昼食後はいかがですか?」


「ありがとう!じゃあ昼食後にお願いするね!」


昼食後、サラと自室で、文字の勉強を始める。


「では、今から文字をお教えしますね。勉強する際は書字版をご利用ください。こちらが旦那様がお預かりしたナコ様用の書字版でございます。」


「わー、ありがとう。大事に使うね。」


「では、早速始めましょう。」


この国の文字はローマ字のように母音と子音の組み合わせでできている。数字は10進法である。これならばナコにも覚えやすい。まずは、自分の名前から少しずつ始めたナコ。幼く吸収力もあり、すべての文字を半日で覚えることができた。


(でも、文字を覚えても、単語がわかるわけじゃないから、少しずつでも単語を覚えたい!)


久しぶりにしっかりとした学びを体験し、文字や言葉を覚えることが楽しくなったナコは、この日から毎日のようにサラと言葉の勉強に励むのだった。

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