第4話 友達が迎えにきました

家の中の探検を終え、ナコは廊下を歩きながら考える。子どものナコがいきなり変なことを言い出したら、家族も気味悪がるかもしれない。自分でやろうにもまだまだ身体が小さい上に文字も読めない。この世界のこともよく知らないため、少しずつ進めていく必要がある。


「うーん、やりたいことがいっぱい。でもまだ子どもの私にできることなんてなー」


そんなことを考えていると、玄関の方からナコを呼ぶ声がする。


「すみません、ナコ様はいますか?」


「あ、ユリー!いるよー!」


「ナコ様!心配してたんですよ。もう大丈夫なんですか?」


「うん、もう痛いところはないよ!サラおばさんにも、ゆっくりなら外行ってもいいって言われた!」


「それなら、外に行きましょうか!ソフィー様も心配してたので。」


「ソフィーにも心配かけちゃったよね。ソフィーはどこにいるの?」


「まだ、ミズルたちと広場で遊んでいらっしゃいますよ。母に外に行くことだけ伝えてきますので、少しお待ちくださいね。」


ユリは、サラとケリーの娘であり、ミズルはナコたちの従兄弟だ。


子どもたちにはそれぞれ歳の近い子どもたちから側近や世話役を選んでつけている。


ユリとミズルはナコの側近であるが、まだ年齢が低いこともあり側近というよりは友だちとして一緒に遊んでいる。


側近となる者は幼少期から、カズマの家族への対応を学んでおり、ユリたちもカズマたち家族や外のお客様に関しては様付け敬語で話をしている。


田舎であるため、一応村長であるカズマたちに対して従者だけは貴族対する言動を心掛けているが、そもそもがほとんどが貧乏集落で生活をしていたため、学がない。


また、村としての余裕があまりないこともあり、カズマたちも家族も村人の言動に対してあれこれ言うことはない。






「ナコ姉様ー!」


広場に着くと、ソフィーが抱きついてくる。ソフィーなりにナコのことを心配していたのだろう。


「ソフィー、心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ!でも、今日は走ったりしないようにサラおばさんに言われてるから、村の中お散歩しようかなって思って。ソフィーもどう?」


「私もナコ姉様と一緒に散歩行きたいです!」


「よし、じゃあみんなで散歩に行こうか!」


子どもたちだけで村の中を散歩する。フィール村は、できたばかりの村ではあるが、一応貧乏といえども村長であるカズマは男爵の位を与えられた貴族である。


そのため、村といえど兵士も常駐している比較的規模の大きい村である。そのため、周辺の村に比べたら裕福な方なのだ。


村全体は円のような形をしており柵で覆われている。さらにその周りに牧場や畑が広がる形となっている。


そんな規模の村の生活水準がなぜ低いのか。それは一重にこの世界全体の生活水準が低いことが挙げられる。王都などに行けばもう少し清潔で安定した生活もできるようだが、村となると物資や人材も不足しており、生活水準の向上がなかなか難しいのが現状だ。


村の中を散歩していると、村の女性たちが井戸の近くで話していた。文字通りの井戸端会議である。その世界では生活水には井戸の水を使っている。洗濯にも飲料水にも使っている井戸水だが、前世の記憶を持つナコとしては、お腹を下さないか心配である。






村の市場に到着すると、みんなが声をかけてくる。


「ナコ様、ソフィー様じゃないか!いらっしゃい!」


「今日は野菜が美味しいよ!甘いトマトが採れたんだ!」


「うちは、兎肉が獲れたてだよ!」


「お、みんなで仲良くお散歩中かい?よければ兎肉の焼き串どうだい?」


市場はとても活気がある。みんな楽しそうに買い物をしており、ナコはこの場所が大好きだ。


「お金持ってくればよかったよー。」


「ナコ様、母からお金は預かっております。何か買われたらどうですか?」


「え、ありがとう!ユリは本当に準備がいいね。いつも助かるよー!」


「ありがとう、ユリ!ナコ姉様、ソフィーは焼き串が食べたいです!」


「はいよ!焼き串一本、小銅貨3枚だよ」


「ということは、私、ソフィー、ユリ、カズマの4人で小銅貨12枚だね!でも、小銅貨がないので、中銅貨1枚と小銅貨2枚でもいいですか?」


「お!ナコ様は、計算が早いね!じゃあ、ちょうどいただくね!毎度あり!」


「ナコお姉様、すごい!ソフィーも計算できるようになりたいです!」


「じゃあ、また今度勉強しよう!とりあえず今はどこかに座って焼き串食べようか!」


ナコたちは市場から出てベンチに腰掛ける。


「「「「いただきます!」」」」


「熱々で美味しいですー!」


「ソフィー様、お洋服につかないようにお気をつけください。」






「ふう、美味しかった!次はどこへ行こうか?」


「ナコ様、その前にトイレに行ってもいいでしょうか?」


「トイレかー。」


「ナコ姉様、どうしました?トイレはイヤですか?」


「嫌じゃないよ。嫌じゃないけどねー。」


ナコは、少し気が進まないがトイレへ向かう。村にはみんなで使うトイレと、各自宅にあるトイレとあるが、その環境がいいものとは言えない。


(清潔感が皆無なんだよねー。誰が悪いってわけじゃなくて、文化レベルが低いから仕方ないんだけどさー)


この村のトイレは、引き出し式のトイレだ。引き出し式というのは文字通り、排泄物を引き出しのように引き出して、それを堆肥として使用するものである。水洗式と違いやはり虫がわくことも多いのである。


トイレは不衛生になりやすいこともあり、一つの仕事として村の方で清掃員を雇っている。


「王都のトイレはどうなっているのかなー??ユリ知ってる?」


「考えたこともありませんでした。他のトイレもあるのでしょうか?」


「帰ったら誰かに聞いてみようかな。」


そう話しているとソフィーやミズルが戻ってきたため、4人で暗くなり始めるまで村の中を散策するのであった。

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