第2話 現状把握

———こてつを撫でているところで目が覚めた。


前世のことを思い出し少し寂しくなるが、涙はもう出なかった。なこの飼い猫であったこてつは、とても人懐こく、楽しい時も悲しい時もなこに寄り添った。


一人暮らしのなこにとって、帰ると必ず居てくれるこてつの存在は、とても大きな心の支えであった。そんなこてつと夢の中で会えたことで、待っていればまた会えるのだとそう前向きな気持ちになれた。今世でも変わらずこてつはなこの心の支えになってくれている。


「よし、とりあえず記憶と現実の擦り合わせだ!」


起き上がり周囲を見回す。


前世のことを考えたらいい環境とはいえない。布を何枚も重ねただけの布団や、ガラスなどがない開閉式の窓。それでも、この村の中では、整っている方である。


ナコが生活をしているこの村は特産など何もない貧しい村だ。元々は村とも言えない貧しい集落だったが、カズマが治めるとなった時に、カズマは新しくカズマ・フィールと名乗ることを許された。その際に、この村もフィールという名前になり、一つの村として確立されたのである。


その際、集落の代表者の娘だったリナと共に村のために尽力しているうちに恋仲になり結婚、産まれた子どもがナコである。


2人にはナコの他にも子どもがいる。四人兄弟で、長男がグレイ(13)次男トーマ(10)長女ナコ(8)次女ソフィー(3)だ。


この世界では15歳で成人扱いとなり、成人になると働き始める。と言っても小さな村なので、家族ごとに営んでいることが多く、親の後を継ぐことがほとんどである。


長男が家を継ぐことが多いため、それ以外は結婚を機に家を出るか、冒険者として村の外に出る人もいる。


カズマも奮闘しているが、全員に仕事を与えられるほどの余裕がないのが現状だ。村の中に自分に合った仕事がない若者は、成人になると冒険者になる者も多い。


冒険者という仕事は、仕事がある場所に移り住むことが多く、仕事のない稼げないフィール村のような村に定住する人は少ない。


必然的に村の人口は増えることはなく、なかなか繁栄も難しかった。


「お父さんたちも頑張ってはいるんだけどねー」


できたばかりの村の村長にできることなど限られている。


それでも村のために奮闘するカズマは、村人たちからの信頼も厚い。この国では、小さな村は搾取されることも多いからだ。そんな中で、カズマは自分が褒美として賜ったものも全て村の復興、繁栄のために捧げてきた。カズマは村の人たちにとって英雄なのだ。


そして、そんなカズマの姿をナコも見てきた。小さいながらも、みんなから尊敬されるカズマが誇らしかった。


せっかく生まれ変わったからには、この世界の家族のために何かしたいと思わずには居られない。


「何よりこんな場所に住み続けるなんて、前世を思い出した今は耐えられないよ〜」


お風呂はなく水浴び程度、村の中にあるトイレは木で作った小さな小屋に、穴が掘ってある程度である。まだ子どものナコは何度も中に落ちそうになっている。そこに落ちたことを考えただけでゾッとする。


何よりも衛生面、これだけは早急に改善するという強い目標も持つナコであった。


しかし、ナコはまだ子どもで、なんなら前世では小学2年生の年齢玉ある。まだまだ大人の手がなくては生活できない。


「できることから進めていきたいけど」


前世の記憶を思い出すまで、ナコは普通の子どもで、何も考えずに大好きな家族と過ごしてきた。この世界のことなど、ほとんど知らないに等しい。


「まずは、この世界を学ぼう。そしてできることを探していくぞー!」


自分のため、家族のためにも前世の知識を使って生活水準の向上を進めていこうと誓うのだった。

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