フィール村編

第1話 前世の記憶

———・・・コ






———ナコ






女の人の声が聞こえる・・・






何か大事なことを思い出しそうなのに・・・






ナコってなに?







ナコって・・・






「あたしだ!!っっっいったー!!!」


自分の名前を、前世の記憶を思い出した諸星なこは、驚きのあまり飛び起きた。その瞬間頭に激痛が走りそのまま頭を抱える。


「ナコ!大丈夫?!」


「え、誰———お母さん?」


「そうよナコ!あなたは転んだ時に頭を打って気を失ったのよ。3日も目を覚さないから心配で心配で」


母であるリナは目を潤ませながら、当日から今までのことを語った。


まだ記憶が入り混じり混乱しているナコだったが、心配をかけまいと笑顔で答える。


「そうだったんだね。心配かけてごめんね。まだ少し頭は痛いけど、もう大丈夫だと思う!」


「あら、だめよ!頭が痛いならそれが治るまではここでゆっくりしてて。起きられるようなら少し散歩したら?でも心配だからあまり遠くには行かないでね」


「わかったよ。もう少し休んでることにするね」


そう言って再び横になり、リナがいなくなったのを確認した後、現状を理解すべく頭を働かせる。


ナコはナコであり、なこでもある。


なこであったであろう前世の記憶を辿る。


昔から動物と物作りが大好きだったなこは、田舎の自然豊かな場所で暮らしていた。村の人たちや家族、動物との時間はとても幸せで、いろんな経験をさせてもらった。


村に唯一あったホームセンターに勤めていたなこは、新人の頃から村の人たちのお手伝いをたくさんした。その際、村の人たちはなこに色んなことを教えてくれた。


なこが困っているとなこのことも助けてくれ、村中がなこの家族だった。


両親を事故で失い、養護施設で育ったなこは、家族のような村人が大好きだった。


仕事関係なくみんなと過ごす時間が何よりも大切だったのだ。


ある冬の日、仕事から帰ってきたなこは、ストーブをかけて、大好きな家族である猫のこてつを撫でていたところで、突然意識を失った。きっと心臓発作とか血管が切れたとかなんだろうけど、そこだけは全く思い出せない。


それでもこれはやはり———


「生まれ変わったんだ」


そう考えるほかなかった。


転生なんて非現実的だし、なことして生きてて夢を見ている可能性が高いがそれは違うとはっきりとわかった。なぜかわからないが自分が一度死んだことだけは自分の感覚が一番わかっているのである。


その時、なこの中に大きな心残りが襲う。


「みんなに挨拶したかったな。こてつは大丈夫かな。」


涙が止まらない。どうか、家族のみんなが、楽しく過ごせていますように。こてつのお世話をしてくれていますように。


そう思いながら、目を瞑り意識を手放した。


夢の中でナコは家族のみんなと食卓を囲んでいた。


みんなずーっと笑顔だった。それは、とても暖かくて優しい時間であった。


その時、ナコの膝にこてつが乗る。ナコが撫でるとゴロゴロ言いながら顔を擦り付けた。


「幸せだ。ずーっとこのままがいいなー。」


無理だとわかっていても、願わずにはいられない言葉が、口からこぼれ落ちる。


その時、夢の中のこてつがナコに話しかける。


———なこ、ナコ、必ず君のそばに行くから。それまで待ってて。


「ありがとう、こてつ。」


そういうとこてつは再度、ナコの腕に頭を擦り付けた。



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