第4話『皮をかぶった男たち 前編』

 皮をかぶった男たちが、湖と砂漠の境界で釣りをしている。砂漠に少し入った領域に無数の巨木が刺さっている。巨木のそばには走行機械たちが動かずじっとしている。巨木には人類の指のかたちをした枝が無数についており、指のところどころから細長い葉の様なものが垂れ下がっている。ほどなくその細長い葉のようなものが、もぞもぞと膨らみ始め、ほぼ人類のかたちまで膨らんでしまうと、自身の重みで指から切り放され、地上に落下する。無事に落下したものたちは、全身に漆黒の砂をなじませ、空を見上げながら闇と仮し、湖の中に消えてゆく。無事に落下できなかったものは、北極鰐の餌となる。北極鰐は湖の奥底に生息している骨の中に内蔵と脳をもつ肉食獣。眠くなると、湖の奥底から湖面に顔をだす。


「この湖では工場の廃液で育った北極鰐が釣れるというが、そうは思わないね。奴等は生まれたての同志を喰らって育ってるのさ」

「同しことだ」金歯が光る。

「だね。奴等は俺たちに美しい皮があることが羨ましくて、憎らしくて、たまらないのさ。皮で自分を隠せるとでも思ってるんだろうかね。皮なんて自分を制限するための、足かせなのにさ。奴等には想像力っていうものがないのさ。憐れだね」

「同しことだ」

「確かに。人類の想像力は低下してきているよ。間違いなくね。仮に人類が想像力を手放したらどうなる。考えただけでもわくわくするね。皮がブリキみたくぱきぱき硬くなって身動きが取れなくなっちゃうか、あるいは、永遠の無がきて身動きがとれなくなっちゃうかだね」

「同しことだ」

「だね。いよいよ、俺たち可能性の時代さ」

「同しことだ」


 巨木には、釣られて間もない数体の北極鰐がくくりつけられている。

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