淀川クジラ
呂 歩流
1話完結
2023年1月9日未明、それは突如大阪の淀川に姿を現した。
あの日、あの場所での出来事を僕は忘れない
「淀川クジラ」
人はそれをそう呼んだ。
あたりが段々と暖かくなり始め、少し前に始まった冬が早くも終わりを告げようとしていた春の手前。
そんな中、僕は再就職の就職活動の真っ最中であった。
仕事もそうだけど、何に対しても興味が無く、長続きしない。
始めては終わりの繰り返し。
また今日も終わる仕事を探して僕はただいつもの時間、いつもの道を歩いていた。
僕「楽しくても今日が終わらなきゃ明日は来ないからなぁー、なーんてね。」
暫く歩いていると、
周囲の人「見てみてぇ〜あれ何〜?」
小さい子供「パパ〜大きなお魚さん?」
若い女性「何あれ!?キャー」
周りの人が淀川の方を見て騒いでいる、
僕「なんだ?」
川には巨大な何か。
僕「え?」
後ろから人の声がする
「神様がおこしになられた。」
僕「え?」
僕が振り返るとさっき聞こえたはずの老人らしき声の人はそこにはおらず、代わりに落ちていたのは何かの絵が書かれた手紙のようなもの。
僕はそれを拾おうとした、そしたら僕より先に女の子がそれを拾い上げた。
謎の美少女「あなた、それが見えるの?」
僕「え?」
謎の美少女「私には時間がありません。」
「私について来て貰えますか?」
僕「は?」
僕は突然目の前に起こった出来事や突然現れて意味不明な事を言っている無駄に美少女な女の子に訳がわからなくなったが、一息ついて冷静になり。
僕「訳がわからない。」
「いきなり現れた怪しい女の子になんて、子供でもついて行かないだろ!」
謎の美少女「、、、」
僕がその場を立ち去ろうとすると、小さい声で美少女が呟いた。
謎の美少女「ごめんなさい、でも時間が無いのは本当なの、力を貸して欲しいです。」
「きっとあなたしか救えない。」
僕「何をどう救う?って言うんだよ全然意味がわからないよ。」
謎の美少女はさっきまでの強気な態度とは打って変わって俯き、今にも泣き出しそうだ。
僕「わかった、、、わかったよ!」
謎の美少女「ありがとう!」
【午前8時】
すぐさま僕の手を引くと美少女は走り出した。
僕「時間がないって、何が起こるんだよ?」
「救うって何から救うんだ?」
美少女「世界線がズレたの、ほんの数ミリこれ以上ズレると元に戻せない。」
僕「世界線?」
美少女「あなた、見たでしょ?さっきのクジラ、あれはこの世界線のものでは無いわ。」
僕「いやいや、ただの巨大クジラだろ?」
美少女「違う。」
「あれは、、、神様。」
「あなたの世界線の人はあれをクジラと呼ぶ、あなたも含めて」
「でもあれは、神様よ。」
「そう、それは私の世界線での話」
僕「そんなのいきなり言われて、ハイそうですか神様ーなんて言えねーよ」
美少女「私があなたでもきっとあなたと同じ事を言うと思う。」
「でも、今はあなたの世界線での理解なんて求めてない。」
「信じて欲しいとは言わない、でも助けて欲しいのは事実」
「そして今あなたは私の願いを聞いてくれて、私は私の世界線を救える唯一の方法を失わずに済んだ。それはもしかしたらあなたには関係の無い事かもしれない。」
「でも、ありがとう。」
「この後どうなっても、今のあなたのその行動に感謝するわ。」
美少女「急だったから、、、私の名前は明日花」
「遅くなったけど宜しくね。」
僕「あ、ああ。宜しく。」
「因みにタイムリミットは?」
明日花「17時です。」
僕はまだその時、日頃からの困っている人はほっとけない性格からの軽い人助け感覚であった。
3時間程電車と徒歩で移動した。
【午前11時半】
途中で食べた駅の弁当は中々美味しかった。
駅員さんも親切に乗り場を教えてくれたり。良いことも悪い事も、
これもデジャヴだったりするのかな?
途中でレンタカーを借り、明日花と僕は市内から段々と人気の少ない場所へと進んでいく。
互いに名前しか知らなかった僕と明日花だったけど、移動の2時間はそれなりに僕達の距離を縮めてくれた。
いきなり飛び出て来ただけの女の子と長旅だなんて、気を遣ってしかたないと思っていた僕だったので、僕達がお互いの事を少しだけ知る時間と言うのは貴重だった。
トンネルを潜ると大きな山が出てきて、峠をまだ登っていくと途中に山道の入口のようなものが出て来た。
【午後14時】
僕「大阪にこんな場所あったんだなぁ」
明日花「、、、」
暫くすると、立ち入り禁止の看板が出て来た。
明日花「ここから先は車では通れないので、歩いて登ります。」
足早に車を降りると、すぐに山を登り始める。
僕「なぁ、さっきの世界線がズレたとかの話、まだ全然よくわからないんだけど、、、」
明日花「明日この世界が消えます。」
「正確に言うと消えるのは今、この世界線」
僕「は?そんな?消える?」
明日花「世界線の理解が難しいと思います」
「簡単に言えば、「デジャヴ」あれは実際に存在する別の世界線」
「デジャヴはあなた達にとっては実際は存在しない世界
、そして私や私の世界線にいる人間には実際に存在する『かもしれない』世界」
「私とあなたが登っているこの山がそう、世界線のズレによってデジャヴの世界線にあったこの山は今、あなたが実際にいるこの世界線に現れた。」
「そして、それはあたかも昔からあった物や人のようにその世界線の人間や物に溶け込んでいく。」
「私たちはこれをノイズと言っているの。」
僕「この山が、、、?そんな、、、」
明日花「淀川クジラもそう、、、唯、あれだけ人の目を集めている、カメラやテレビで録音、録画されている人物や動物の世界線が一瞬でかわってしまっては人々からのノイズが大きすぎてオーバーブレイクを起こしてしまう。」
僕「オーバーブレイク?」
明日花「世界線が切れる。そう、世界の流れが止まる。」
「簡単に言えば世界が終わる。」
「人にはそれぞれの世界線のレールが敷かれているの。」
「例えば、私のAと言う選択しなければならない問いに対するあなたの答えがaとbとcと言うそれぞれ別の世界線で、仮にあなたがaを選択した場合、あなたはその結果方面の世界線に進むことになる。」
「ただ、それはAの選択肢の世界線の中であって、aを選んだ世界線とはまた別もの」
「Aの選択肢が私から出たものであれば、そこに私が通ってきた世界線が影響する他の世界線になる。」
「物事に対する無限という選択肢は無いの、だって選択肢の時点でそれはそれを問うた人の選択肢だから。」
「ただ一つだけあるとすれば、、、
『God's First Choice』神様の初めての選択肢」
「よく聞くアダムとイブ的な神話ね。」
明日花「たまに思ったりしませんか?この選択は正しかったのか?この選択で良かった!とか成功して嬉しいとか、失敗して悲しいっとか、あれは全部無限では無い限られた答えの中での選択肢の世界線であって、偶然とか運命とかそういう未知数のものではないの。」
「すべて存在する別の世界線」
僕「仮に君の言う世界線があったとして」
「それで、なぜ君はあのクジラが自分の世界線の神様って言うのを知ってるんだ?」
「なぜここのこの世界線に来たんだ?」
明日花「わからない。」
僕「わからない?なにそれ?じゃあなんで君はこの世界線で僕を選んでこの世界線を救おうとしてる訳?」
明日花「ごめんなさい、それもわからない。」
僕「君は誰なんだ?」
明日花「私は、、、誰?」
「わからない、でも今しないと救えない!」
「もう少しです、急ぎましょう。」
僕「危ないっ!」
明日花「きゃっ」
突如明日花が歩いていた崖が崩れる、僕は間一髪で明日花を抱き寄せた。
歩いている山道が崖であった事を忘れてしまった?、、、いや、、、これは、
僕「ノイズ?」
明日花「かもしれない。」
僕「あくまで選択肢って訳か。」
明日花「、、、」
僕達は先を急ぐ。
【午後16時】
僕「なぁ、僕達はどこに向かってるんだ?」
「皆んなを救うなんてそんな大それた事、僕にできるのかな?」
明日花「あなたは、きっとできる。」
そして僕達はそこに辿り着く。
大きな湖?いやため池?の後なのか完全に水が枯れている。
ノイズなのか?いや現実の世界線か?
明日花「私、小さい頃に海で溺れた事があるの」
「息がだんだんできなくなって、あーもぅだめだーってなった時に、体がいきなり軽くなったの。」
「気づいたら砂浜に私は横たわっていて、その当時海にいた皆私が溺れた事に気付いていなかったから助かったのは奇跡だって、皆言ってた。」
僕「あれ、それもデジャヴかな、知ってる気がする。雨水で反乱したため池の放流で村の全員が行方不明そのまま安否は不明、助かったのは女の子ただ1人、激しい豪雨で流されたけど、奇跡的に助かったって言う記事を見た事がある。」
「君はあの女の子って事か?」
明日花「そうかもしれない?」
「それも、私がその女の子かもしれない世界線。」
「あなたには、このため池の水を止めて淀川クジラを助けて欲しいの。」
「今、私の世界線では淀川クジラは池の流れが強くて大阪湾に戻れなくなってる。」
「この池さえ止めれば、淀川クジラは海に戻る事ができる。」
「そのタイミングで、このノイズを消せば、この世界の世界線は救われる!」
「私はこの世界の世界線にいない人間だから、この世界線を変える事ができない。」
「だから、いきなり現れた私の話でも、すぐに信じて快く助けてくれそうなあなたにお願いに来たの。」
明日花はそう言うと優しく微笑む。
少しの沈黙
僕「なんでここに来てそんなデタラメな事言うんだ?」
「僕にお願いしたのも君だし、僕をここに連れて来たのも君だろ?」
「君が言う世界線を変えると言うのがそう言う事だとしたら、もうとっくに変わっていると思うんだけど。」
「違うかな?」
明日花「、、、」
僕「まぁ、でも今はそんな事はどうでも良くて、このため池の放流を止めたら明日花達の言う神様を助けれるんだな?」
明日花「そうだよ。」
僕「じゃあなんで、そんなに悲しい顔してるんだ?」
明日花「期間は短くても人の別れは寂しいもんでしょ?」
「偶然助けてもらう為に選んだ人は意外と優しい紳士で、初めての旅は結構楽しかった、なんてね?」
僕「へーそんな事思うタイプじゃないと思ったけど。」
僕はそう呟くと少し笑った。
僕「後1つ、君の事を信じていない訳ではないんだけど教えて欲しい事があるんですが?良いですか?」
明日花「無礼講だからなんでも聴きたまえ??」
明日花は少しふざけた感じで僕に聞いた。
僕「今の世界線の明日花はどこにいるんだ?」
「君は別の世界線の明日花なんだよね?」
明日花「それはプライバシーがありますので、お教えできません。」
「ピー」
「質問タイム終了ー!」
「そろそろ時間だよ。」
「さぁ、止めて。」
そっと目を瞑る明日花
僕はゆっくりと開閉レバーを回す。
レバーが目一杯閉じられた。
明日花「私の街にもあなたと一緒くらいの男の子がいて、その子はあなたにとても似てとても正義感が強くて、勇気がある優しい男の子だった。」
「もし、一緒にいる世界線があるなら私はそこにあなたと行ってみたい。」
明日花はニコッと微笑んだ。
突然大雨が降り出した。
明日花「ありがとう、あなたは私のヒーローでした。」
17時になった。
なんだか、頭がボーとしてきた。
あたりが段々と暖かくなり始め、少し前に始まった冬が早くも終わりを告げようとしていた春の手前。
そんな中、僕は再就職の就職活動の真っ最中であった。
仕事もそうだけど、何に対しても興味が無く、長続きしない。
始めては終わりの繰り返し。
また今日も終わる仕事を探して僕はただいつもの時間、いつもの道を歩いていた。
周囲の人「見てみてぇ〜きれー」
小さい子供「パパ〜大きな虹さん」
若い女性「何あれすごーい!」
僕は後ろを振り返る。
老人が僕を見ている。
僕「良い天気ですね?」
老人はにっこりと微笑む
街頭のテレビ
地方番組のニュースキャスター「本日は2023年1月9日(月)10年前の淀川豪雨で残念ながら唯1人、行方不明となった明日花さんの命日です。」
タレント「奇跡的にたくさんの村の人が救助された中だったので、10年経っても尚、本当に悔やまれます。」
元村人「いつもは流水の為に開いているため池の開閉レバーがその日は奇跡的に閉じており村への反乱が最小限ですんだんです。」
「その分で増水したため池付近で行方不明になった明日花ちゃんの事を考えるとなんとも心が痛むが、村の人間は明日花ちゃんが助けてくれたんだと今も、皆思っております。」
地方番組のニュースキャスター「ありがとうございました。」
「当時の明日花さんが行方不明になる前日に書いた絵です。」
「見つかったのは家族や友人を描いたこの絵だけでした、、、
終
淀川クジラ 呂 歩流 @rylm
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