第6話 君を大切にする
朝の風景。カップルになってから初めての登校。
晴れて恋人になった瑛太と小野は通学路を一緒に歩いていた。少しでも二人でいたくて瑛太は自転車で通学していた。夏の燦々とした日差しが空から出迎えてくれる。
通学路には多くの学生がいた。
無駄に目立つのは控えた方がいいのかもしれないが、小野からのたっての要望で二人で登校しているというわけだった。
可愛い彼女の願いを断るなんて瑛太には出来なかった。
「えへへっ」
小野がとろけている。眺めているこちらまで幸せになる顔だった。つられて相好を崩してしまいそうなぐらいには。
(いい顔するようになったよな)
小野は変わった。自然体が大人びている。
以前まではどこか堅いところがあったが、今は男女問わずに落ち着いて接するようになった。きっかけさえあれば人は変わるのだ。瑛太は過去・現在どちらの小野でも歓迎はするが、やはり自信を持って楽しい日常を送れる分にはその方が良い。
せっかく生きているのだから彼女には幸せになって欲しい。
「何か古川君の隣にいるだけで嬉しい。胸がぽかぽかするの。カップルってこんな気持ちになれるんだね」
「信頼関係が築かれてるうちはな」
「それなら問題ないよ。私はどんな古川君も受け入れ続けるから」
「恋する乙女は強いね。俺としては失望されるような行動だけは取らないようにしないと」
「ありがとう」
小野は笑顔の華を咲かせる。眩しくて目がくらみそう。
思えば不思議な関係だった。
まさか男女の関係に発展するとは予想もしなかった。小野への第一印象はそうでもなかったが、彼女の行動や考えに触れているうちに好意を抱くようになった。根は真面目で努力家、互いに一緒の時間を過ごすうちに彼女の性質をこれでもかと知ることになった。小野と付き合うことは初めから決定づけられていたのかもしれない。
(出来れば大切にしたいとは思うが。こればっかりは互いの相性によるところが大きいからな)
愛があれば上手くいくほど恋愛は甘くない。
深いところで繋がるほど相手の嫌なところを知るのが恋愛だ。それは譲れないものなのかもしれないし、受け入れられないものなのかもしれない。
それでも小野がこちらに愛想をつかさない限りは、彼女の願いを叶え続けたいと思う。それが瑛太なりの責務だった。縁の下の力持ちでもいいから小野の輝かしい未来をサポートするつもりだ。愛した女性を美しい存在にできなくて何が彼氏だろうか。
「……あっ」
瑛太は小野の左手を掴んだ。
柔らかくて温かい指先に自身のそれを絡める。
弾力のある指の質感が気持ちよかった。
自分で手を繋いでおいてあれだが、頬から火が噴き出るほど恥ずかしかった。
これは何だろう、非常にこっぱずかしい。
瑛太は反射的にそっぽを向いた。
盲点から小野のくすりと笑う声が聞こえた。
「ずっと、ずっとずっと好きだよ」
そう、小野は上品にささやいたのだった。
地味な彼女がシンデレラになりました @normal42
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