第8話 宿屋でネットスーパーを利用してみた

 ギルドで薬草を買い取ってもらい、ようやく転生してから初めて貨幣を入手した。実はオークの村では貨幣は存在しなかったのだ。あの村では基本的に自給自足が当たり前で売買行為自体が無い。稀に物々交換する事が有る程度でいわゆる経済活動が無い社会だった。

 つまり、貨幣が必要なネットスーパーが使えなかったのだ。哀しい事に生まれてからずっと買いたいのに買う事が出来ずに、ずっと涙堪えて耐えていた。最も、買えるのはたったの五品だけなんだけどね…◯コー◯さんが羨ましい…


 取り敢えず、早速ネットスーパーで購入したいところだが、先ずは宿屋に行こう。道端でやるもんぢゃないだろうしね。因みに米、醤油、マヨネーズ、カレー粉、塩の五品が購入可能。具体的にはどうなるのかやった事がないから分からないが、やはりダンボール箱に入って来るのだろうか?ドキドキするね。


 宿屋はギルドの直ぐ近くに有るのを先程見付けていたのでそのまま行ってみた。さてオークは泊まれるよね?


 宿屋に入り、カウンターに居るオジサンに声を掛ける。

「すみません。一泊したいのですが部屋は空いてますか?」


「これは珍しい。オークさんが泊まりに来たのは初めてだよ。部屋は一人部屋で良いかな?」


「はい、一人部屋でお願いします。値段は幾らですか?」


「一泊食事無しなら銅貨八枚、食事付きだと銀貨一枚だよ。食事は朝と夕方の二回だよ。うちの食事は評判良いから皆食事付きで泊まるけど、どうかな?」

「はい、食事付きでお願いします。銀貨一枚リュックから出しますね」


 例によってリュックから出すふりしてアイテムボックスから銀貨を一枚取り出しオジサンに渡した。


「はい確かに。それでは部屋は二階の三番だよ。これが鍵ね。出掛ける時は鍵はカウンターに預けてくれ。明日は昼前には出てくれないと延長料金が掛かるからね」


「了解です。明日は朝食後に出る予定です」


「それじゃごゆっくり。それと夕食は日没から一刻位までに食べてね。遅くなると無くなる事も有るよ」


「はい。分かりました」


 部屋に入り、家を出て以来ようやくまともに寝られる場所に来た。森では木の上で寝てたし、荒野ではマントに包まって寝ていたがあまり寝られなかった。身体は疲れていたが逸る気持ちを抑えつつアイテムボックスから銀貨を十枚取り出しネットスーパーを起動した。目の前に白い画面が浮き出て地味なロゴでネットスーパーが現れた。

 画面に品物の名前のカーソルと硬貨を入れる自販機の硬貨投入口みたいな絵が出た。初めて起動した時は泣いたな…硬貨なんて家には無論、村の誰も持っていなかった。物知り爺さんすら持っていなかったのだ。ようやく硬貨を入手し、使える。銀貨を十枚投入し、さてどうなるか?価格表示が無いけど画面の硬貨投入口から銀貨をこれだけ投入すれば買えるよね?…よね?…ね?


 投入口に硬貨が吸い込まれて、暫く反応が無かったが


『チャージが完了しました。買いたい品物を選んで下さい』


と表示され五品のカーソルが全て点灯し購入可能になった!やったね!俺は思わず叫びそうになり、慌てて堪えた。危ない危ない。不審な行動は厳禁だよね。


 先ずはやはり米か?いや、炊飯する道具無しでは駄目だな。となると醤油?ここは海の町だし醤油はアリだ。しかし、海産物を食べるなら米は是非とも欲しい。炊飯さえ何とかなれば買いなんだが…

取り敢えず醤油とマヨネーズを買ってみるか。カレー粉は買えそうなら買ってみよう。


 画面の醤油を選択し押してみる。表示が個数に変わったので一個にして価格を見ると…何と銀貨八枚だった。…ヲイヲイ。それは高杉君だよ。幾ら何でも醤油一個でそれは無いだろう…

 一旦、キャンセルして残りの価格も調べてみたら何と全部一個で銀貨八枚だった。酷いボッタクリ仕様だ。さて、どうしようか?現在の持ち合わせは銀貨十九枚。一応二品は買えるが、ボッタクリ過ぎる値段だ。

…期待していたネットスーパーなんだけどなぁ…憧れの異世界転生だったけど期待外れ過ぎて哀しいね

 取り敢えず、元マヨラーだった俺はマヨネーズを買ってみる事にした。マヨネーズを選択し個数を一にして購入ボタンを押す。銀貨の表示が残り二枚になり、目の前にマヨネーズのボトルが急に現れた。

 何とか落とさずに手のひらで受け止めた。見た目は普通のマヨネーズだ。多分この大きさは250g入りかな?メーカー名は無いが多分キュー◯ーのと同じっぽい。赤いキャップを外し、中蓋の中のアルミシールを剥がす。匂いは紛うことなきマヨネーズだ。懐かしい匂いに涙が出た。値段はクソ高いがこれは、アリ。だ。

 取り敢えずマヨネーズはアイテムボックスに入れておこう。

 

 そういえばこの町に来てから色々有ったが、未だ何も食べていない。未だ夕御飯は無理だしランチでも食べに行こうか。という訳で俺は出掛ける事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る