第十五話「まだ見ぬ女主人」

 決して会話が盛り上がっているとは言えずとも、穏やかに話かけるロイドとそれに緊張しながらも健気に応えるシャーロットの姿は、傍から見ればお似合いのように見えた。


「―――、」


 お似合いではあるのだが、とノアは思う。


 それはどちらかというと兄妹のような雰囲気である。それもシャーロットがもう少し歳を重ねれば変わってくるのかもしれないが、どことなくロイドのシャーロットに対する扱いがいつもより気を遣いすぎているようにも見えた。


 しかし、初めて顔を合わせたばかりなのだからそれも仕方ないかと思い直す。


 そうしてロイドとシャーロットの時間は終わり、タイラー家の屋敷へと戻るために来た時と同じように三人で馬車に乗り込んだ。


「――あんな感じで良かっただろうか」


 一番に口を開いたのは、苦笑気味にそう問うロイドだった。


「終始穏やかな雰囲気だったと思います」


「シャーロット様の方は、ロイド様をお気に召されたご様子ですね」


 ノアに続いたクリスの言葉に、ロイドは今度こそ苦笑を零す。


「こういったことは初めてだから、戸惑うことばかりだよ」


 実のところ、ロイドには多くの縁談が持ち込まれていた。しかし、家督を継いだばかりの多忙さと若輩者であることを理由に、今までロイドは一度も相手にしたことがなかったのだ。


 多忙さは大して変わりないもののそれでも今回のフルードの話を受けたのは、自身の年齢が適齢期を迎えていることと、フルードとは先代からの仲で無碍にしたくなかったのだと、ロイドはノアに教えた。


「ノアには、シャーロット嬢はどう見えた?」


「私、ですか?」


 クリスではなく自分に向けられた意外な質問に、ノアは一瞬戸惑う。


「遠慮はいらないよ。ゆくゆくは、ノアの主人になる可能性もあるからね」


「…そうですね。とても素直な方だという印象は受けたでしょうか」


「そうだね。フルード夫妻がとても大切に育てていらっしゃることが窺えるよ。他にはあるかい?」


「まだお若いから、というのもあるとは思いますが…もう少し、駆け引きは上手くなる必要があるかとは思います」


「ロイド様の奥方ともなれば、外へ出る機会も増えるでしょう。ノアの言う通り、魑魅魍魎が蔓延る社交界では、もう少し図太く振舞う術は必要になるでしょう」


「…そうだな。あの素直さが、彼女の美徳とも言えるのだが」


 ノアとクリスの意見にはロイドも同じことを感じていたようで、少し苦笑して見せた。


「とはいえ、今すぐ婚姻を結ぶ必要があるわけではないし、それが彼女とも限らない。私も婚姻に関しては手探り状態だからな。ゆっくりでも進めていくようにしよう」


 ――女主人を迎える頃には、俺ももう少し立派な使用人に近づけているだろうか。


 いつかロイドの隣に立つだろうまだ見ぬ女主人を思いながら、ノアは密かに仕事への意気込みを新たにしていた。

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