第三章 伯爵と元男娼、顔合わせする
第十三話「十四の娘」
一度娘と会う機会を設けよう。
フルード伯爵のその言葉が実現したのは、ノアが正式にタイラー家の使用人となってからすぐのことだった。
「――確か、十四になったばかりと言っていたか」
フルード伯爵の屋敷に向かう馬車の中で、ロイドが窓の外を見つめながら呟いた。
「昨年、社交界へお出になられたそうです」
同じ馬車に乗る、クリスが答える。クリスは執事として今回の訪問に同行し、そのクリスの従僕として学ぶ機会を設けるという名目で、ノアもまた同行していた。
「うら若い女性とは、一体どんな話をするのがいいだろうか」
タイラー家を継いでからのこの三年間は、ロイドにとって私的なことに割く時間は皆無と言えるほどだった。それほど、若い身であるがゆえに、立派に当主を務め上げようとしているのだ。
「ノア、何かいい案はないか?」
「えっ」
突然話を振られ、ノアは返答に困る。
かつて客だった女たちを思い出そうとしたものの、結局よく思い出せずに苦笑いで返した。
「ロイド様はいつも通りで問題ありませんよ」
「そうなのか?」
「はい。屋敷の女性陣の様子からも、それは一目瞭然です」
「ふむ。クリスがそう言うのなら、そうなんだろうな」
そのクリスの言葉は、ロイドが無意識で人を誑し込むと言っているようなものでもあった。
そうしているうちに馬車は、フルード伯爵の屋敷に到着した。ロイドたちの訪問を待ち構えていたかのようにタイミング良く使用人たちが現れ、丁寧に出迎えられる。
「よく来てくれた、タイラー卿」
フルード邸の玄関をくぐると、今度はフルード伯爵が満面の笑みでロイドたちを出迎えた。
「お招きいただきありがとうございます、フルード卿。また、見習いの同伴もお許しいただきありがとうございます」
「いやいや、大したことではない。貴殿が来てくれて、私も嬉しいよ。」
そして自分の後ろに控える二人を紹介するように、身体を逸らす。
「ようこそおいでくださいました、タイラー伯爵」
「ご無沙汰しております、フルード夫人。ハーバート侯爵のお茶会以来ですね」
「タイラー卿が我が家に来ると知って、いつもより念入りに準備していたようだ」
「まあ、そんな恥ずかしいことをお話にならないでくださいな」
仲の良いフルード夫妻の様子に、ロイドは思わず笑みを零した。
「そして、ここにいるのが四女のシャーロットだ。さあ、ご挨拶をしなさい」
「は、初めまして、タイラー伯爵。シャーロット・フルードと申します。お、お見知りおきくださいませ」
初めての対面に緊張しているのか、はたまた先程のロイドの微笑みに当てられたのか。シャーロットの頬には薄く朱が指し、初々しさが残る
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