第2話 最強魔術師、宴会へ出向く

夢は魔術を使うこと。そのために人生をかけて研究を続けてきた。


しかし、結果は惨敗。処刑されてしまった。だが安心しろ、ノア=ホワイト。


僕は復活を果たしたんだ。二度目の人生では魔術を極められるんだ。アイツらに復讐が出来る。


幸い、食料の備蓄は山ほどある。と、僕はいつもの場所へと向かう。


「うひょ〜! 懐かしい! ここが俺の魔術部屋か〜!」


思わずテンションが上がってしまったそこには、まだまだピカピカの魔術部屋があった。


かつて、僕はここで魔術を学び、あらゆる魔術の知識を手に入れたんだ。


……一度も使うタイミングはなかったけれど。



──それから


「食料備蓄倉庫っ!」


「トイレっ!」


「寝室もっ!」


まだピカピカである色々な場所を巡り、完全に二度目の人生を満喫していた。


「ふあ〜」


ベッドに横たわると、はしゃぎすぎたのか、眠気が僕を襲ってくる。


まあ、そうだな。もう夜は遅いし、魔術の習得は明日にでもしよう。


そう言って眠りにつこうとした───その瞬間、嫌な音が部屋中に響き渡った。


──ピーンポーン


「……チャイム? こんな時間に一体誰だ?」


僕は渋々体を起こし、玄関へ向かった。



♢ ♢ ♢



「こんばんは〜」


ドアを開けると、そこには、にこやかで怪しく、不気味な笑みを向けてくる綺麗な女の人が立っていた。


「こ、こんばんは」


戸惑いながらも挨拶を返し、過去の記憶と合致させた。


髪型、目、話し方……。コイツは俺の住む村にいる美人で有名なお姉さん。


名前はデバリアと言っただろうか……俺の記憶にはしっかりと鮮明に刻まれている。


そう、僕のスキルが村に知れ渡った原因。


あの時、十三歳になった僕の元に駆けつけ、スキルを聞き出し、ハズレスキルだと村全体へ広めやがった元凶だ。


こんな形で再会するとはな……。


「……それで、今日はどうしてここに?」


「も〜、やだな、ノア君。もう分かってるんでしょ?」


そう問いかけると、デバリアは、その貼り付けられたような笑みを浮かべたままで、不気味にコチラを見つめた。


言わずもがな、こいつの要件は俺のスキルについてだろう。


「と言うと、やっぱりスキルのことですか?」


と、尋ねると、デバリアは嬉しそうに手を叩いた。


「そうそう! やっぱりノア君は察しがいいねっ♪」


同じだ。完全にあの時と同じ流れだ。ここで僕は答えてしまったんだ。


正直に『無限魔力』のことを話してしまったんだ。だが、しかし、今度の僕は一味違う。何せ二度目だからな。


「そ、れ、で、どうだったの?!」


期待に胸を膨らませたデバリアは、抑えきれなくなった口角を上げ、ニヤニヤとこちらを見つめてくる。


……無様、無様だ。こいつは僕が全て知っていることを知らない。何も知らないんだ。


よし、ここは一つ。一度目とは展開を変えてみようじゃないか。未来を変えてやる!


「実を言うと、僕のスキルは農業系のスキルで……」


僕がそう言うと、デバリアは首を傾げた。


「農業系……?」


「そうです。一度に沢山の種を撒けたり、植物の成長を早められたり……」


僕は咄嗟にでまかせを喋る。勿論内容は村人にうってつけのスキルで。


これならデバリアだって黙っちゃいない。さあ、僕の手のひらで転がされるがいい!


「ッうん!! 凄いっ! 凄いよ、ノア君っ! とっても良いスキルじゃん! 私、ほんっとに感激だよ!」


案の定、デバリアは嬉しそうにそう言うと、何かを閃いたような表情を浮かべた。


「私、ノア君ならきっと有能スキルを発現させてくれるって思ってたよ〜っ! ……あ、そうそう! 村の方へ降りて来なよ! 今、村で十三歳のスキル発現を祝って宴会が開かれているの!」


俺は唐突なデバリアの誘いに驚いてしまう。


一度目の人生で誘われた記憶が無い。


つくづくこいつは性根がくさっている。と、僕が思わずため息を零すとデバリアはさらに続けた。


「大丈夫だよっ、まだ始まったばっかり! ほらほら! ノア君も支度支度!」


デバリアは急かすように手を叩いてそう言う。……いいだろう。


せっかくのチャンスを逃す訳にもいかないし。


「それじゃ、支度をしたら向かいますね」


「うんっ! 村人一同、当たりスキルを発現させたノア君の出席を心待ちにしてるねっ♪」


デバリアはそう言い残すと、微笑みながら、スタスタ村へと降りていった。


「はーい」


残された僕はポツリと呟いた。

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