〇〇しないと出られない部屋から愛を込めて

03.重なる心と離れる温度

メイの手は温かくて、小さくて。

力をいれてしまうとポキっと折れてしまいそうなほど細く長い指がこの世の物とは思えないほど美しく感じた。

「ユウタくん、手おっきいね。」

その言葉の攻撃力はあまりにも強い。

密着しているからか、メイの香りが直接脳に刺激を与えてるようで頭がぼーっとする。

「ここからどうしたらいいんだろう。」

情けない。

童貞である事に恥はないが、メイに恥をかかせてしまう事がどうしようもなく情けない。

「私もわからないよ。でも、キスから..とか..？」

分かってはいたけど相手から言われるのは強烈だ。

自分をお調子者だと思って今まで過ごしてきたはずだった。

だから、いずれ訪れる営みの場はきっと楽勝だろうとたかをくくっていた。

しかし、ここから先は俺が主導権を握る！

「じゃあ、するね。」

俺はメイの返事を待たずに俺はメイの唇をめがけて、自分の唇を運んでいく。

「あ、うん,,,。」

メイは目を瞑り、俺を受け入れてくれようとしている。

あぁ、なんて愛おしいんだろうか。

目が覚めて一番に君の顔が視界に入った時から恋をしていたんだろう。

ゆっくりと近づいていた2人の唇は重なり合う。

お互いの体温を感じるほどにしっかりと。

この瞬間を惜しむように唇を重ね合わせた。

俺は知っている。この後にすべき大人のキスを。

モヤのかかっていない記憶の中に幾人もの男女が交わる光景を画面越しに眺めるだけだった自分を鮮明に思い出せる。

あの時、あの瞬間の俺は無駄な時間を過ごしてはいなかったんだ。

この日の為の予習だったと思え！

意を決した俺は動画教材に映る裸体の先生達が身体を張って教えてくれた学習内容をいざ実践する。

閉じていた自身の唇を開く事で、メイの唇も引っ張られるよう上下に離れ離れになっていく。

そこへ少しの隙間ができる。その僅かな隙間からメイの舌へ自身の舌を絡ませるべく、己の短い舌を精一杯伸ばした。

お互いの舌が触れ合い、感触を確かめるように口内で舌同士が絡み合った。

「んっ。」

メイの吐息が溢（こぼ）れる。

息遣いも荒くなっていく。

普段の唾液とは違うような。

すごくいやらしいものが口の中に溢（あふ）れていくようだった。

気づくと俺たちは無我夢中でお互いの唇を繰り返し何度も何度も唇と舌を交わらせあった。

メイは身体をくねくねとさせ、落ち着かなくなる。

これは刺激が強すぎる。

暴発寸前の愚息は最高潮に達しており、

俺はいますぐにでもメイが欲しくてたまらなかった。

その時、メイの太ももが俺の不自然なほどに膨張する下半身をかすめていった。

「あっ。まっ。ちょ、やば、ごめん,,,。」

あまりの衝撃にいつの間にか唇を離し、情けない声をあげる俺。

そう、ここで俺は果てたのだ。

急転直下。下着はおろかズボンにまで滲み出る体液。

そんな事に気を配る余裕など無く、俺はあまりの快楽と同時に辱（はずかし）められた気分に陥っていた。

「え、ユウタくん,,,もしかしてイッちゃった...？」

なんて察しのいい子なのだろうか。

言い訳なんてできるはずもなく。素直に答える事しか選択できなかった。

「ごめん...。あーお恥ずかしい。」

とことん恥ずかしい奴だよお前は。

「大丈夫だよ！気にしないで！私もすごくもじもじしてただろうし。お互い恥ずかしい姿見せちゃったね。」

こんな醜態を晒してもなお。なんてお優しい子なんだい。

「あーあー。何やってるんだにゃ」

「うわぁ！」

俺らの間に突如ココルが現れ、メイはベッドから飛び起きメイの香りが遠のき、獣の匂いに支配される。

「ユウタは情けない男だにゃ。ほれ、ティッシュを持ってきてやってにゃ。」

なんて事だ。俺は猫にまで温情をかけられるとは。

「さ、さんきゅーです。」

メイとココルに背を向け、溢れ出た体液を惨めな思いのまま拭き取る。

「でも、どうしてココルが？」

メイは当然の疑問を投げかけた。

「んにゃ、童貞のユウタにはここいらが限界かと思ってにゃ。」

は？舐められたものだ。

しかし、アクシデントもあってかすぐにメイと向き合えるほどの精神力を持ち合わせていない。

「2人とも愛が深まったんじゃにゃいかにゃ？」

突然の問にぽかんとしながらメイと顔を見合わせる。

メイの顔は赤らめているように見えた。

「ユウタの暴発も理由だけど、この部屋の目的は達成されつつあるにゃ。だから僕が現れたにゃ。」

「目的？なんだ目的って？お題をクリアして部屋から出ることが目的だろ。」

ココルは首を横に振った。

「それは手段にゃ。目的にあらずにゃ。」

「待って、私分かっちゃったかも。」

名探偵メイは閃いたようだ。

「もしかして、2人の愛を深めるのが目的って事？お題はその手段..なんじゃないかな。」

「大正解だにゃ！メイは察しがいい子にゃねー。」

小さな尻尾を振り満足そうなココルに、メイも少し楽しそうな表情を浮かべ小さくガッツポーズをしていた。

「愛って...そりゃこんな可愛い子とこんな空間であんな事したら意識するだろ！」

いや、これじゃ可愛ければ誰でもそうなるって事になる。

そうじゃないだろ俺。

「メイはいい子だし、素敵な子だから尚更だ。」

少し照れを感じたが、伝えるべきことは伝えられた。

話終えた俺はメイの反応が気になり目を向けた。

彼女の顔は先ほど以上に赤らんでいる。

「ほらほら、ユウタはもう惚れてるのかにゃー。」

ああ、惚れてるよ。しかし、好きだという言葉が喉をつっかえて出てこない。

「わ、私だって、ユウタくんは面白くて、頑張って引っ張ってくれようする男らしさもあって素敵だと思ってるよ！」

頑張って言葉にしてくれたのだろう。

メイは自分が思っている以上に大きな声でそう伝えてくれた。

「うんうん、2人ともすごく仲良しになったみたいだしさっさと次のお題にを済ませるにゃ。」

「え、最初のお題はもういいの？」

同感だ。もう少し時間をくれれば次こそしっかりこなしてみせる。

「いんにゃ、さっき言った通り目的は達成されつつあるにゃ。だからこのお題はもういいにゃ。それに....時間も無いしにゃ。」

ん？時間が無い？そもそも時間の概念なんてあったのか。

「それじゃあ、次いってみるにゃ！」

次のお題か。しかし、愛を深めるのが目的なら簡単じゃないか。

俺は既に気持ちが高まっているし、メイも少しは気を持ってくれているんじゃないか？

ちらりとメイの顔を確認する。

そこには顔面蒼白の彼女が小刻みに身体を震わし立ち尽くしていた。

扉に目を向ける。

次なるお題の意味を理解するのに時間がかかった。

扉に映し出されたお題は、

【どちらかが死なないと出られない部屋】