02.知らないはずの知ってる2人

いきなりクライマックスじゃんかよ。

出されたお題に衝撃を隠せないメイ。

「ねぇ、嘘だよね。やっぱり夢とかじゃないのかな...?」

「そう思いたい気持ちは分かるけど、さっきの猫の話は嘘には聞こえなかったよ。扉を蹴っ飛ばした時に感じた痛みもリアルだった。」

まだ足がジーンとしてるし。

「なんにせよここから出るにはやるしかない。それに言い方悪いかもだけど、夢なら減るもんじゃないしさ。」


そう。夢だろうが現実だろうが精神世界だろうが関係ない。

こんなに可愛い子とヤれるんだぞ。

最高すぎるだろ。申し訳ないけど既に俺のジュニアは準備万端だ。

なんとかメイをその気にさせなくては...


「メイちゃんだっけ?とりあえずやらなきゃ出られないからさ...さっさと済ませちゃおう。」

大丈夫安心しておくれ。優しくするからね。

ゆっくりメイのもとへ歩みよる俺。

「ちょ、ちょっと待って!待って!待てぇ!」

俺を静止する言葉とともにメイの右の手平が俺の左頬を捉えた。

その勢いは凄まじく、脳が揺れるのを感じるほどだった。

これほどまでの見事なビンタは産まれて初めてだ。


「あ、ごめん!つい...でも、ユウタくんも悪いよ。急すぎるし、私達まだお互いの事名前くらいしか知らないんだよ?それで...その、えっちするって...意味分かんないよ。」

メイは少し震えているように見えた。

悪い事をした。浅はかな自分を殴ってやりたくなった。

「それに、他にも出る方法はあるんじゃないかな?もう少し考えてみた方が...」


「それは無いよー。お題は絶対なんだ。ちゃっちゃと終わらせてここから出ようね。」

メイが話終えるのを待たずして、ココルの声だけが部屋に響いた。

「おい!ココル!顔くらい見せろ!」

ココルが現れるはずもなく。結局お題をクリアするしかないのか。

「んー。メイちゃんは俺より先に起きて部屋を隅々調べたんだもんね。」

「うん。何も無かったね。あるのはその扉だけ。」

メイは扉を見つめながら少し間をあけて話始めた。

「ユウタくんは彼女いる?」

突然の問いに驚いたが、カッコつけてもしょうがない。素直に答えよう。

「いないよ。どうしたの急に。」

「いや...今覚悟を決めようとしてるの。だからお互いの事しらなきゃなって。」

メイは少し頬を赤らめながらそう言った。

この子、すごく強い子だ。さっきまで震えてたのにココルの一言で察しが付いたのか、諦めたのか、どちらにせよ潔く格好いい。


「メイちゃんはいるの?」

「いないよ。それにちゃんはやめて。あんまり得意じゃない。」

ハニカミながら答えるメイはすごく可愛かった。

「じゃあ、メイは何歳なの?」

「18だよ。ユウタくんは?」

「俺も。タメだね。」

同い年と知り、なんだか嬉しくなった。

もっと共通点が無いか知りたい。俺は質問を続ける。

「普段は学生?バイトとかしてる?」

「うーん、なんかね、思い出せないの。目が覚めてから普段の生活の事が思い出せなくて。ユウタくんは?思い出せる?」

ハッとした。確かに年齢や名前、彼女がいない事だったりは思い出せても学校に通っているのか、ましてや親の顔すらおぼろげだ。

「俺もだ。思い出そうとするとモヤがかかったみたいで...」

「私も。ここのせいなのかな。少し怖いね。」

「まぁ、でもこんなに可愛い子と一緒ならとりあえずはいいかなーなんて。ベッドもふかふかで気持ちいいし!」

俺はベッドにダイブした。やはりふかふかで気持ちがいい。

「ふふっ。」

またメイが笑った。やっぱり可愛い子の笑顔は最高だな。

「どうしたの?」

メイに笑いの理由を聞いてみる事にした。

「なんかユウタくんのポジティブさ見てたらおかしくって。ついね。こんなとこにいるからおかしくなっちゃったのかな。あーあと、ありがとね。お世辞でも嬉しいよ。」

三度メイはハニカミながら俺に語りかけてくれた。

俺はベッドに仰向けになり、さっきの事を思い出し申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「あの、さっきはごめんね。軽はずみだった。怖だらせたよね。」

一瞬きょとんとした表情を見せたあとにメイは首をゆっくり横にふった。

「ううん。気にしないで。やらなきゃ出られないんだからユウタくんの行動は間違ってはないよ。ただね...」

言葉に詰まり少しの静寂が流れた。

「隣いい?」

少し戸惑ったが、断る理由もなく。

「どうぞどうぞ。」

メイは俺の隣に仰向けになり、気持ちよさそうに伸びをする。

「んー!やっぱこのベッド最高だね。」

その言葉の後、また少しの静寂が続いた。

「あーなんでこんな事は思い出せるんだろうね。あのね...私初めてなんだ。経験なくて。それでさっき少し怖くなったの。」

メイの告白にあまり驚きはしなかった。それは俺も思い出せる事で。彼女へ伝える事に対し背中を押してもらえる気がした。


「そっか。なんか少しホッとした。ごめん、俺も実は初めてなんだ。ごめんね。慣れてる方が安心だよね。」

なんだかかっこ悪い気分だ。

「そんな事ないよ。私も少しホッとした。」

メイは寝返りをうち、俺の方へと身体を向けた。

「なんかね、変な事言うなと思うだろうけど、ユウタくんとは初めましてな気がしなくて。思い出せないだけでどこかで会った事あるのかなって。」

これには驚いた。

まったく同じ事を思っていたのだから。軽はずみにも運命という言葉を使いたくなる。

「俺も。最初に顔を見たときに同じ事思った。不思議な感じ。同じクラスとかだったら気まずいね。」

気恥ずかしさからか、いらぬ冗談を言ってしまった。

「ねぇ、それは気まずいよ。戻っても口きけない。」

足を少しだけばたつかせながら笑いながら話すメイ。


俺も身体をメイの方へ向け精一杯の提案をした。

「あのさ、手つないでもいいかな?」

メイは小さく頷いた。

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