XX6:どちらが怖い?

 怪奇現象のような、得体のしれないものが怖いというのはよくわかる。でもそれらは非現実であり、その事象を認めることからそもそも抵抗があるのだ。人の目に映らないような不確かなもの、信じろという方が難しいではないか。それに怖いというならば。先に現実に起きていることにこそ目を向けるべきである。実際に相手にするならば断然、生身の人間がしでかすことの方が恐ろしい。

 ――という、橋田の理屈もよくわかる。


「俺は現実主義なんだよ。だから、そういうのは信じていないの」

「そんなこと言ってー、橋田さん、怖いだけじゃないですかぁー」

「そんなことない!現実的じゃないと言っているんだ!」


 からかう金森に、橋田はむきになって反論する。橋田のホラー嫌いは社内では有名であるが、なかなかにからかいがいがあるので、こうした姿は度々見られる。特に金森は橋田のアシスタントをしているので、二人が社内に揃っているといつも賑やかである。


「金森は逆に、人間の恐ろしさを知らなさすぎるんだと思うぞ。知りたいなら俺がいくらでも話してやる。そうだ、あれは俺が社会人一年目の時に取引先で起きた悲惨な話だが……」

「あーいいです。橋田さんのそういう話、リアルにえぐすぎて笑えないので。そういうドロドロしたやつを知ってしまうと、あらゆる現実世界に嫌気が差してしまいそうですし」


 金森は、嫌な顔をして首を横に振った。彼女はいわゆる心霊系にはよく首を突っ込みたがるものの、ヒトコワ系は好きではないらしい。

 ただしこの二つは、映像作品でどちらもホラージャンルという意味では同じだがらややこしいが。


「私もそんなに得意な訳じゃないですけど、でもまだお化けの方がいいじゃないですか。実際に自分の身に起きなければ噂話として盛り上がるし」

「自分の身に起きたらお化けの方が嫌じゃないか!」


 どちらの言い分もわからなくもない。俺は脇で聞いていて思った。俺としてはどちらも、等しく自分の身に起きるのはごめんだ。

 すると話の矛先が、俺の隣へと向いた。


「小内ちゃんも、どっちかというと怪奇現象の方がいいよね?!」

「いやいや、愛憎人間ドラマの方がいいだろう?!」


 急に話を振られた小内は目を瞬き、困ったように首を傾けた。


「ええと……私はどっちも十分怖いとおもうんですけど」


 言いつつ、斜め上のコメントを付け足す。


「あ、それなら、こういうのはどうでしょうか。人間ドロドロ愛憎劇の末に死んだ人が怨霊となって復讐するっていう……二段構えだったらすごく怖いんじゃないですか?」


 小内の提案に、金森も橋田もぴたりと口を閉じた。

 ああ、うん。二人の気持ちはわかる。小内の提案内容が一番怖いことは確かではある。混ぜればいいというものでもないのだ。


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