XX4:同期
俺は営業職である。いわゆる外回りで、客先を訪問することも仕事のうちだ。馴染みの客も、新規の客も、まずは一度挨拶に伺うというのが我社のやり方だ。
さて、外回りに行くには、何通りか方法がある。
ひとつは電車と徒歩で向かうこと。もうひとつは、営業車で向かうことだ。弊社はそこそこ駅近にあるので、電車でもあまり困りはしない。でも営業資料だとか、時には納品もかねてだとか、あとは客先がとても辺鄙なところにあるだとか、色々な状況を考えた時に車で向かう方が便利だなと思うことは多々だ。
ただし、問題は営業ひとりに対して、車が一台あるとは限らないことである。残念ながら、うちには営業職の人数分は車が確保されていないのだ。
どうしても車に出かけたい、でも車の使用予約はすでに埋まっている、そのような状況な時にどうするか。もし目的地が近く、お互いに了承することができるのならば、他の営業と連れ立って出かけるというのもひとつの選択肢なのだった。
「おまえ、本当にやめろよ、そういう……そういうやつ」
「そういうのって?」
「だから!今みたいな話だ!」
今日は不幸にも、車を使いたいタイミングがバッティングしてしまった。どうしても今日は運びたい荷物があったので、同期の営業である
このようなとき、だいたいは後輩の方が運転を担当する。だが、俺と橋田は同期。ということで公平なじゃんけんの結果、今日は俺がハンドルを握っている。
スマホで表示した地図データを横目で見ながら、ハンドルを切る。なかなか順調だ。この調子だったら、予定よりはやく目的地に着きそうである。
今日は俺の客先へ二人で訪問した後で、橋田の客先に俺も同行する予定だ。一応、夕方までには帰社の予定ではあるが、早く戻れるならそれに越したことはない。あんまり車内を留守にすると、アシスタント陣に負荷がかかりすぎる。
大量の未処理書類と共に置いてきた、小内のことが頭をよぎる。彼女はあんまり文句とかは言わないが、出がけに若干うらめし顔を向けられたのは勘違いではないだろう。
「せっかく橋田と二人で遠出だからさ、俺は場を盛り上げようと思ってさ」
「だからさっきから、そのチョイスが最悪なんだが」
「え? だってさっきから会社に纏わる雑談話しかしてないだろ。そういえばこの前、小内と金森が話してたんだけどさ。うちの会社のビル、地下に開かずの倉庫があって、誰にも進入不可の筈なのに深夜にそこから物音が聞こえるらしいって……」
「ぎゃー!!だから、そういうのやめろよな!」
助手席で、ぎゃあぎゃあ橋田がわめき立てる。こちらが運転しているというのだから、少しは大人しくしていてほしい。
「やめろっていってもなあ。最近の一番ホットな弊社社内での話題だったから」
「外村、おまえ絶対わざとやってるだろ」
橋田が俺を睨みつけた。
その目元にはうっすら涙が浮かんでいる。そこまで追いつめるつもりはなかったのだが――まあ、彼のいうように若干わかりつつの話題チョイスだったことは認める。
「俺、そういう怖い話系、ほんっとうにだめなんだよ!本当にやめて!?」
「えー。そんな風に言われると話したくなるんだよなあ。だって橋田、良い声で悲鳴あげるから」
「やめろ!」
「はいはい」
これ以上からかいすぎると、あとが怖い。橋田のホラー嫌いは筋金入りなのだ。
それは入社後の研修時にすぐに明らかになったりそれ以来、橋田の前ではホラーは禁止ということになっているが、たまにこう、つい、怖がらせたくなってしまうのは仕方がないとは思う。
でも、本当に怖い話はチョイスしていないので許されたい。俺は怪談話が得意なわけでもないのだ。
「まあ、ふざけるのはこの辺までにしよう。そろそろ着くからな」
俺は、にっこりと笑って言葉を続けた。
「あ、そういえば今から向かう先、N商事のYさんは最近引っ越したばかりなんだけどさ。前に住んでたところが事故物件だったんだよね」
横目で、橋田が頬をひきつらせたのが見えた。
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